2月8日。


今日は1週間のうちで2番目に授業数の少ない火曜日。放課後の自由時間を目指していつもより高いモチベーションで学校生活を過ごす。


6限のとき携帯にシスターからメールが来ていることに気がつく。


「私、お昼に家に戻ったから今日は一緒に帰れないの。でもお父さんが迎えにいくから2時半までにあのスーパーの前で待ち合わせできる?」


一体何があったのかはよく分からないけど約束の時間まで1時間ある。


どこで時間を潰そうかと考える。カフェもいいけどスーパーまでの途中、気になる服屋さんがある。

そこで少し見てみよう。


ということで服屋さんに来てみたものの、あまり時間がなかったのでまた別の機会に。


スーパーに行きポッドキャストで三四郎のオールナイトニッポンを聴きながら突っ立っていると迎えの車が来た。


それから普通に自宅へ。


自分の部屋でメロンパンを磨いていると、シスターが扉をノックしてきた。


「今日、おばあちゃんの誕生日だから、後でおばあちゃんの家行くんだけどあなたも来る?」


マジかよ。結構楽しみにしてたんだよ?

今日は授業数が少ないから。

いつも以上にこのダラダラとした自由時間を楽しみに生きてきたんだ。


ー うーん、行ける


「オーケー」


と扉を閉めるシスター。


1人でぼやきながら再度メロンパンを磨くことに集中していると


コンコン。


とまたシスターのノックが。


「その前にショッピング行くんだけどあなたも来る?」


スーパーマーケットや服屋さんで、いつも通り片耳イヤホンで音楽を聴いてマザーとシスターの後ろを一歩下がってただただついて行く自分を想像する。

今日に限っては三四郎の声まで聞こえてきた。


………………どうせ何もしないで何か聴いてるだけなんだから。


ー うーん、いいや。


「オッケー」


と遠慮がちに扉を閉めて行くシスター。


またもやわいはメロンパンに視線を戻す。


いいのか?本当に、いいのか?

お前が進みたい人生の道は、本当にそんな道なのか?


マイルドな黄色。そしてたまに輝くツルッとした表面にふと、そう言われた気がした。


ガチャッ。


わいは乱暴に椅子から立ち上がると扉を開ける。


部屋の外には着替え途中の下着のシスターが。


ー アイ!アイキャンゴ〜!


振り向いたシスターからは戸惑いの表情。


「別に無理して来る必要はないのよ、ショッピングは。その後のおばあちゃん家だけくればいいじゃない」


ー アイキャンゴォ……


と無理矢理押し通す我。


……オーケー」


とまだまだ戸惑いを隠せないシスターを置いて、わいは部屋に戻り着替えを済ませる。


今回のショッピングは服屋さんだった。

そう、今日帰り道に寄ったあの服屋さんだ。


まぁさっき見れなかったし丁度いいやと店に入ると先程は気付かなかったいいものがたくさん。


いくつものハンガーの束を手に握りながら、置き場所と試着室を何往復もする。


ー わい結構楽しんじゃってるんですけどぉ。


そんなこんなで楽しんでいると、シスターに


「私、隣の店行くけどあなたはどうする?」


と聞かれる。


出た。

隣の店とはハンガリーのあらゆる若者たちに大人気のお洋服屋さん。

いつもショッピングをする時は、必ずと言っていいほどみんなそこへ行くのだが、

これがわいの天敵である。


とにかく質が悪いのだ。


わいはあの店で買って成功した試しがない。

例えば、冬の防寒に備えて買った厚めのダウンは、確かに暖かいのだが、購入して2週間経ったくらいでもう既に背中から白い綿がたくさん穿いていた。


恥ずかしながらもプライドを捨てて今日まで毎日しぶとく着用してきたわい。

どうせ1年だけなんだ。

このダウンを着るのも。

わいのこの姿を見た人間と会うのも。


そんなこんなでわいは隣の店と因縁関係にある。


ー ここにいるよ。


とシスターに答えて1人の時間を楽しむことにした。


暫くするとシスターから電話が。


「こっちに来てくれる?」


わいは今試着室の中である。


ー 会計済ませたらでいい?


「妹の迎えに行かないといけないから急いでね」


と言われ素直に急いでレジへ。


大きめの紙袋にパンパンに詰め込まれた衣服を受け取る我。

振り返るとシスターが小さいビニール袋を持って待っていた。


あんだけ言っといてわいが1番楽しんでやんの。


と1人、自分で自分を笑いながら(痛いやつ)車に戻り、小さなシスターとホストファザーとも合流して祖父母のお宅へ。


因みに自分で服を選んだのはこれで人生で4回目くらい。

あまりの珍しさに、明日はきっとメロンパンが降るのだろう。


車から降りるといつも通り祖父母が優しく迎え入れてくれた。


席に着くとテーブルにはお皿が並べられている。

スープを飲んだ後、ご飯と共に机に置かれたのはソーセージをチーズとベーコンで巻いたもの。


なんだこれは。まるで子供の夢じゃないか。


今にもOne Dishで紹介されそうなメニューに、気持ち的には10本くらい食べたかったんだけど、

かなりしっかりしてるやつだから1本で満足。

何より「塩辛い」と「塩辛い」が重なって、

かなり塩辛い。


フォークとスプーンを置くと、おじいちゃんとおばあちゃんが

「食べて食べて」

と言ってきた。


1番最初に来た時シスターに言われた言葉だが


「日本はどうか知らないけど、ここではおばあちゃん家に行けばいつも、食べて食べてと言われるよ」


全く日本と同じである。


そんなおばあちゃん達に負けてもう1つ「かなり塩辛い」ソーセージを頂いた。


次に出てきたのはデザート。

たくさんの種類のデザートが机に並ぶ。

おばあちゃんの趣味でもあり全部手作りだ。


先程ので満腹であったが、別腹枠を使ってこちらも美味しく頂いた。


たくさんあるデザートの中にトゥーローと呼ばれるハンガリーで大人気なカッテージチーズを使ったお菓子があったが、わいはこれが苦手である。


しかしおじいちゃんが「これ、美味しいよ」

とマンツーマンで言って見つめてくるもんだから、逃げ場をなくしたわいはそれも口に運んだ。


気付けば最初から最後まで、誕生日で本日の主役であるおばあちゃんは、食卓の席に1度もつくことなくひたすら料理を振る舞っていた。

全く日本と同じだ。(2回目)


小さなシスターが、今日習ったダンスを見せたいと言って謎のステップを披露する。


本人もみんなも飽きてきた頃に、シスターお気に入りのマルモリを流すとシスターは喜んで踊った。


日本の曲に満足する我。


何気ここでもわいが楽しんじゃっている。


誰よりも楽しんだわいはアゲアゲで自宅に戻り、


やっぱ誘いには乗るもんだぁ~


と、ベッドの上で天狗になりながら実感する。


そんなこんなで今日も、メロンパンの1日は幕を閉じたのだった。



わいのファッションは、生みの親でも知らないであろう闇に隠された謎。


そのせいかよく日本の友達には、

メロンパンのコーデ私が考えたい。

メロンパンって垢抜けたら変わりそう!

と言われるらしい。(他人事)


どういうことだ?