「火の粉」雫井脩介 | めろんぱん

「火の粉」雫井脩介

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「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」
元裁判官・梶間勲の隣家に、2年前に無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた。愛嬌のある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い・・・。武内はあふれんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴む。しかし梶間家の周辺で次々と不可解な事件が起こり・・・。最後まで読者の予想を裏切り続ける驚愕の犯罪小説!<解説より>

怖い。怖かった。
中盤、ホラー映画でいうと「来そう、来そう、来そう…」という感じでジワジワと何か起こりそうな描写が続く。途中ではやめられないけど、一度本を置くと続きを読むのが怖くて怖くて。

この小説は主に梶間家の人々の視点で語られるので、読む側も彼らが知っていることしか知らされない。はじめは武内が絶対怪しいと思っているから、武内の行動がいちいち怪しく見える。しかし途中で全く別の解釈が提示される。あれ?それまで怪しいと思っていた武内の行動も、そういう見方をすれば理屈が通るような・・・。小説の中でも外でも、そんな風に自分の判断を疑わざるを得ない瞬間がくる。信じて読み進めてきた道筋が崩されて、あとは誰が真犯人なのかも、誰が言っていることが真実なのかがわからなくて混乱する。よくあるパターンではそういう出来事を整理してうまく解説してくれて導いてくれる探偵役がいたりするもんだが、この小説にはガイド役は出てこない。梶間家の人々の混乱はそのまま読者の混乱となる。

刑事や探偵、あるいは普通のオバさんなんかが、鮮やかな推理で事件を解決する・・・そういう痛快な話を望んでいる方にはお勧めできないかも。
読んだ後はこれまで聞き流していたお隣の奥さんのなんでもない世間話を、思わず裏読みしたりして・・・。日常にスリルを作り出すかも知れない小説です。