黒いコートなんて纏っていたらどのように努力しようが黒く見えてしまう、そのことに間違いなどあるだろうか(否ないだろう)。





それでもなお自身を真っ白だと主張するのはどうも面倒なはずだが、彼は違うようだ。





「話さなくちゃいけないことがあるだろう」





黒い彼はあまり気分が優れない。いつものこと。そのことに不機嫌になるのも、いつものこと。





「私のお家の近くにはお花屋さんが二軒あるわ」





「は?」





「見えなくなる前に燃やしてしまわないといけないの。わかるかしら?」





「ふざけているのか」





「ふざけてほしいの?」





「いや、そうではない。そうではないに決まっているだろう。一体何の話をしているんだ馬鹿が」





彼は本当につまらない人間だ。自分が大変つまらないということに気付かないから相当つまらない人間なのには違いない。ただ、そんなことを言えば、





「自分を馬鹿だと言うことで他の馬鹿どもを馬鹿にするほど馬鹿じゃないだけだ馬鹿め」





こんな風に彼の機嫌を必要以上に損ねるだろうなと何となく思ったので私は黙っておいた。





「君はどうしてこんなにもわけのわからんことばかり口走るのか?無駄なことばかり考えて。もっと自分を有効に使おうと思わないのか?」





「今がベストよ、ドク。私が一番活きるのがこの形なの。ごめんなさいね?」





「そんなわけがあるか。まだ、若いのに。」





黒いコートの襟の奥に見える白い布地。





「君は間違っている」





彼はドクターだ。白いのは彼の職業を表す白衣である。黒いコートは彼の好みで、外出の際はいつも身につけている。だが白さを隠してしまいたくないが故に、前はいつもわざとらしく寛げられていた。彼曰く、我こそが純潔。と。





「君は狂ってる」





おかしなことを言う人。そんなことを言うなんて、おかしい。










「それが何か?」










彼は一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに無表情に戻った。ポーカーフェイスがあまり得意ではないわりには早めの対応だった。





(私がおかしいだなんて。おかしくない人がいるなら会ってみたいものだわ)





言ってすぐ言葉の選択ミスに気がついたわけだから、彼は確かに賢くはあるのだ。だが本当につまらない人である。





「あなたって…とってもがっかり」





彼は目を伏して、ふてくされているようにしか聞こえない声でボソリと答えた。




「だったら何だというんだ?」























どうでもいい間違い。みんなイカレているですとか、本当にそう思っているならあなたには理性が無いことになりますけどどうでしょう。
全ては「So what?」で返せるってこと。だけどそれを言うと言葉の存在価値を全否定することになってしまう。確かに。





彼の機嫌を少し損ねてしまいましたが、そんなことはどうでもいいですね。