今日は一日中寝ていました。
何度か目は覚めたのですが、一呼吸おいてはまた寝るという感じで結局ベッドから起き上がったのは夕方6時。

夫のお夕飯を作らねばと鍋でグツグツやり始めた時
夫からメールが届きました。

「今日は外で食べない?」

嫌な予感がしました。
夫は多分、夜まで仕事なのでしょう。
そしてその仕事に私を付き合わせるつもりなのです。

付き合っていた頃からそうでした。
たまに誘ってくれたかと思うと、仕事の為の移動に付き合わされるだけ。運転中の話し相手として。
その途中にどこか適当なお店でご飯を食べ、また別の仕事の用事へ向かい、そして帰るだけ。

夫は運転中何も話しません。
ですので私が話さなければ車内は沈黙となります。
沈黙となれば、夫は私の態度が気にくわないと言わんばかりに運転が荒れます。
無意味に前走車を追い越したり、信号が青に変わると同時に急発進をしたり、つまらないカーブや右左折を遠心力で体がもっていかれる程強く曲がったり。

大人しく座っているしかできない私にとって、それは恐怖でしかありません。

その恐怖を回避する為に、私はしたくもない適当な話題をふり、喉がカラカラになるまで喋り続けるのです。
私はいつの日からか、夫の隣でベラベラとくだらない話を独り言のように喋り続ける自分の姿を、俯瞰でとらえるようになっていました。
そしてそんな必死な自分を
「同乗オンナ」と名付けたのです。


話は戻って、私は夫から送られてきたメールを眺めながら
しばらく返信できずにいました。
ここ何ヶ月かは同乗オンナの機会がなかったので油断していました。
しかしここへ来て再びの出動要請。
「今日は外で食べない?」という一文のみのメールを眺めながら、胸がギュウーー、と痛みます。

あぁ、私の体は嫌がっているんだな
そう感じました。

そしてそれから30分ほど経ち、私はようやく夫へ返事を送りました。


「わかりました。支度します。」


鍋の中で、カレーがグツグツと音を立てて煮えています。
いい匂いを伴った湯気が換気扇へと吸い込まれていくのを見送りながら

「夫に知られてはいけない」
と、焦って火を止め鍋に蓋をしました。

間も無く帰って来るであろう夫に怯えながらも、そんな気持ちを振り払うかのようにさっさと調理の痕跡を片付け、洗濯物を大急ぎで取り込み畳んで、身支度を整え、肩にかかる鞄の紐を強く握りました。

大丈夫。
私は大丈夫です。
何も問題ありません。


ガチャリと玄関の鍵が開きました。

「行こうか」
部屋に入るなり夫が言います。



「はい」
私はもう一度、鞄の紐を強く握ってそう答えました。

それでは、行ってきます。