・・・ある男と女が話している・・・女が「アストリア」で戦があると男に伝えると、男は立ち上がり女と共に闇に消えた・・・

「アストリア」は緑豊かな大陸・・・アルのいる大陸の名


ふたりは歩いてる 見慣れた風景をよそ目に眩しい程の朝日を浴びながら

明日は「あの祠」で祭りが行われると「ヴィル」が言うとアルは少々気まずい顔をしていた、つい先日に「あの祠」に忍び込み遊んでいる所を見付かり「ハズリット」にこっぴどく叱られていたからである

「あの祠」とは「レージェライ」の南東に位置する丘の頂にあり堅固な石壁に囲まれ厳重に守られている、中に入ると石碑が在り祠の中には微かな洞穴がある、年に一度国を挙げ神々に感謝の念を込め祭り事をするのが明日なのだ

アルは「ヴィル」の家へ着き、「ハズリット」から預かった花を女性に渡すと、花のお礼にと朝食をご馳走になっていた、そこには美しい女性と可愛い赤ん坊いる「ヴィル」の妻と子だ

女性の名は「セレーヌ」歳はヴィルと同じ位、金色の髪で長さは腰に届く程、細身ではあるが魅力的な女性

赤子の名は「ディアーヌ」二人に授けられた女の子 歳は1歳程母親似である

アルは「ヴィル」にいろいろな話をしてもらうのが好きだった、城の事や他国の事や戦の話しを、戦と言っても この国では戦らしい事はないが東西の国の要請により援軍として遠征に赴く事がある程度

「ヴィル」も他国の兵士の話を聞かせたりする程になる「ヴィル」の話しでは遥か西の国々で戦になっていると言う

そして兵士の間で噂になっているのは「ロフト」と言われる謎の集団の存在・・・神出鬼没にして残忍酷薄、非道の限りを尽くし戦場では常勝無敗だと言う・・・彼等が通った後は目を覆いたくなる様な惨劇らしい・・・

アルは不意に今朝見た夢の事を思い出すのだが何故だか内容はさっぱり忘れてしまっている 何か嫌な夢だった位しか思い出せないので話すのは戸惑っていた

そんなアルの顔を見て「セレーヌ」は赤毛が綺麗と褒めてくれるとアルは顔を赤くし、照れ隠しに赤ん坊と遊ぼうとするが赤毛を捕まれ逆に遊ばれてしまう「ディアーヌ」はアルの赤毛がお気に入りであった

「セレーヌ」は微笑ましく、その様子を見つめながらアルの様な元気な男の子が欲しいと呟くと、「ヴィル」は咳払いしてアルに目で合図を送ると、ふたりは家を出て近くの広場へ向かった「ヴィル」に剣技を教わるのだ

ふたりは広場に着くと木の棒を手に剣技を繰り広げていた、その剣技とは「ハズリット」譲りの技・・・「ヴィル」は幼き頃より「ハズリット」に剣技を教わっていた剣の師匠と言った所か、その頃の自分とアルを重ねて看ていた

そしてアルは他の子にはない程の身体能力とある特技を身に付けている、それは集中する事により アルの目には全てがスローモーションの様に見えるのと、あらゆる気配を正確に読み取る能力・・・剣士としては達人の域の能力なのだが、所詮子供である

そこへ息を切らせながら兵士が駆け寄ってくる・・・その男の話によると西の砦に属する部隊の消息が途絶えたと・・・そして新たに送った部隊も戻ってこないらしい兵士は事を告げると走り去った・・・

「ヴィル」は険しい表情と共にアルを連れて家へと戻り、「セレーヌ」に急ぎ身支度をして街の中央にある広場へ向かえと告げると城に向かった「ヴィル」は騎士団に属する身であるからだ

アルは「セレーヌ」・「ディアーヌ」と共に広場へ向かうと そこには多くの民が集まっていた、中央に見慣れた風格の老人が民衆を束ねている「ハズリット」だ アルは駆け寄るが再会を喜ぶような状況ではなかった「ハズリット」はアルに「セレーヌ」と共に居ろと、そしてこれから馬車に乗り東の国「ドーリュア」へ向かへと言う

もう日差しは頭の上へと昇っていた

アル達は第一団の馬車に乗り「ドーリュア」へと向かっていた、護衛は10名程で馬車の数は5を数える、アルが乗っているのは最前列の2頭立帆付きの馬車、乗り合わせているのは女子供達20名余、道は森の中で馬車が通れ このまま進めば夜明けには「ドーリュア」に着く、アルは馬車の中でピクニックに行く様な気分でいたが「セレーヌ」の表情は少し違っていた・・・

・・・陽が暮れるという頃に異変は起きる・・・

アルは異変に気付く・・・静か過ぎる・・・外に要るはずの兵士の気配が感じられない・・・後ろを覗くと誰もいない・・・アル達が乗る馬車だけだ・・・そして街のある方角の空は赤々と見え・・・悲鳴の様なものが聞こえる・・・

アルが叫ぶと共に馬車が止まる、馬は倒れ従者の姿はない「セレーヌ」は呟く敵襲だと・・・皆、外に出て様子を伺う・・・すると一人の女性が倒れてしまう近寄って見ると喉元に短刀が刺さっていた・・・恐怖の余り悲鳴が轟く

その場に立ち竦む者 へたれ込む者 泣きじゃくる者 その様子を見て「セレーヌ」は東の方角へ逃げてと強い口調で言い放つ・・・アルは気が動転しているが言葉に従い 皆と共に走り出す・・・ 

アルには、この状況が未だ理解できずにいた 戦・・・?誰が何の為に・・・?息苦しさがアルを襲う

気が付くと「セレーヌ」とアルだけになっている・・・後ろを振り返ると女達は倒れていて黒い影が覆いかぶさる

次の瞬間、「セレーヌ」は悲鳴と共に倒れ黒い影が「セレーヌ」へと近寄る・・・アルは咄嗟に小石を拾い力の限り握り締めて黒い影目掛け渾身の一撃を浴びせた、その正体は黒装束に覆面をしている人間であった・・・上手く急所に当たったのか黒い影は倒れ・・・そして「セレーヌ」に目を向けると胸には短刀が突き刺さっていた・・・

・・・何か言葉をアルへ向けて言っている様だが上手く聞き取れない・・・「セレーヌ」の口から血が滴っている

激しく胸を込み上げる息苦しさにアルは「セレーヌ」へと倒れ込む・・・微かに聞こえる・・・逃げてと・・・

アルは「ディアーヌ」を見ると今にも泣き出しそうな表情・・・赤子は無事だった

力無き「セレーヌ」の手から「ディアーヌ」を抱き上げる、すると激しい息苦しさから開放され・・・今まで感じる事の出来なかった黒い影の気配を読み取れる・・・後方に9人・・・倒れた女性達へと群がり、その子供達は捕らえられている・・・気付かれないように森の方へ向かうが・・・その中の1なる存在がアルの方へ近づいてくる・・・茂みに隠れようとするが小枝を踏み気付かれてしまう、だがアルは力強く「ディアーヌ」を抱きしめると木々の間を縫って森の中へと走り出す・・・

黒い影の追手は一人の様だがアルは赤子を抱えている・・・アルひとりなら逃げ切る事は出来そうだが、そんな考えはアルには無かった無我夢中で闇の森を駆け抜ける・・・が段々と追手の気配が近づく・・・次第に腕は痺れ足は思うように動かなくなり息も苦しくなってきた時、森を抜けた光景は東の国「ドーリュア」では無く、「あの祠」がある丘であった・・・月明かりが照らす、そして北西の方角は空は赤く燃えていた・・・

力の限りを振り絞り丘を駆け上がる、しかし「祠」は石壁に囲まれ扉も鍵が閉めてあり入る事はできないがアルには思い当たる節がある、それは「祠」の裏手側の石壁にはアルが辛うじて通れる程の隙間があるのだ

アル達はなんとか石壁の中へ入る事ができた、一回でも躓いたり、隙間を通る時に服が引っ掛かりでもしたら捕らえられていただろう・・・そんな至極僅かな程の差しかなかった・・・アルは中央にある石碑に凭れ込む・・・腕は痺れ足は小刻みに震えていた、もう駆ける体力は無い・・・しばらく周囲の様子を伺う・・・追手の気配は周囲を徘徊するが動きが止まる・・・すると硬い物で石壁を突付く音が聞こえる、まだ諦めてはいなかった様である

アルは、まさかとは思いつつも「ディアーヌ」と共に場所を祠の奥の洞穴へと移す、そこの中は真の闇・・・手探りで奥へと進む、外からはまだ音が聞こえていたが・・・音は途絶える、アルは安堵の思いで座り込もうとした・・・

その時、気配が近づいて来ている事に気付く・・・真の闇の中後ずさりをする・・・気配は確実に距離を詰めて来ている・・・今朝みた夢を思い出させる・・・数歩後ずさりをした時、急に体が軽くなった・・・穴に落ちたのだ・・・数メートル落ちている所でアルは気を失った

・・・気が付くと辺りは青白く光る洞穴の中・・・何かぼんやりする意識の中「ディアーヌ」は?と思うが、しっかりと腕の中に居た不思議な事に二人とも傷ひとつ無い・・・ふとある気配に気付く・・・そこには白い小さな蛇がいた・・・
アルは思う何処かで見た様なと・・・白蛇は洞穴の奥へ向かう・・・アルは何の躊躇もなく後を追う・・・すると小さな祭壇の前で白蛇は佇んでいる・・・祭壇に目を送ると青い宝石の様な物がある・・・

アルは徐に青い宝石を手に取り目を閉じて心から願った・・・助けて欲しいと・・・すると今までの不安や苦痛が消えていく感じがして・・・次第に意識が薄れていく・・・倒れゆく意識の中・・・小さな白い蛇はアルに寄り添っていた・・・

・・・目が覚める・・・アル達は外の石碑に凭れていた・・・アルは「デイアーヌ」を抱き寄せようとした時に気付く・・・二人とも血だらけ・・・「セレーヌ」の血だ・・・アルは周囲を警戒する・・・誰もいない・・・

アルは少し目が虚ろになりながらも石壁を抜けて「祠」を後にし、空が赤く燃える「レージェライ」の街へ向かう・・・アルは、まだ気付いていないが右手首には小さな蛇が絡み付いた感じの金のブレスレットと胸には青いペンダントを身にしていた・・・

その頃「レージェライ」城周辺では城は既に落ちていて市街地戦へ赴いた部隊が僅かに残るだけとなっていた・・・

そして街の風景も一変している、あらゆる建物から炎上がって逃げ遅れた人達や兵士の死体が横たわっている

街の中央より南の通りで体格の良い老人と黒装束の者が対峙していた・・・老い歳を感じさせない、その剣技は「ハズリット」、既に10人程倒している様子・・・鮮やかな剣捌きで交わしているが退いているのは「ハズリット」だった

「ハズリット」は路地へと追い込まれ・・・後ろから忍び寄る影の気配・・・敵に挟まれている・・・

そんな時に放心状態のアルが赤子と共に通りを歩いてるのを目にする

「ハズリット」は意を決して眼前の敵へと剣を振るう、すると後方の敵も飛びかかってくる・・・後方の敵と体が一対になり掛ける時「ハズリット」は半身になり後方の敵の足を薙ぎり次に前方の敵も切り伏せ横たわる敵に止めを刺した

「ハズリット」は急ぎアルを呼び止めると、アルは正気に戻り泣きじゃくりながら「セレーヌ」の死と敵に追われ戻って来た事を告げる・・・


「ハズリット」はアルに護身用の短剣を託しながら言い聞かせる・・・


どんなに世が荒もうとも想いやりと感謝の念は忘れてはならぬと・・・


そしてアル達を抱き寄せる瞬間に鈍い音が「ハズリット」に突き刺さる・・・

「ハズリット」は力の限り走れとアルに告げると剣を抜き、後方の敵へと斬りかかって行った・・・

アルは「ディアーヌ」を抱きしめながら走る・・・


走りながら後ろを覗くと黒い影に囲まれ倒れゆく「ハズリット」が見えた・・・


アルは誰か助けてと・・・広場に着いて愕然とする・・・


5~6台の馬車は燃えていて回りには人々が倒れている・・・

アルは広場でひとりの存在に気付く・・・


「ヴィル」が深手を負い蹲っている・・・


言葉無くアルは近寄る

「ヴィル」は気付き・・・


アルの血だらけの姿を見ると首に巻いてる白いスカーフを手渡して・・・

一言「すまない」と言うと息を引き取った・・・


そこには、あの花の花びらが風で飛ばされていた・・・

・・・もう広場には誰一人として生き残っている人はいない・・・


息が詰まる・・・


苦しい程に・・・


喉の奥が熱い・・・

・・・次第に近寄ってくる敵の気配を感じる・・・


もう逃げる気力も尽きて呆然と立ち竦む・・・

アルは西の方から集まり出す黒装束の集団を見ながら「ディアーヌ」を抱きしめていた

すると東の方からも兵が集結している・・・東の国の騎馬兵団の姿だ

広場を挟み対峙し・・・距離が詰まる・・張り詰めた空気が流れ・・・


・・・すると何処からともなく言葉が聞こえる・・・

優しき人で在りたければ・・・優しき人と語り・・・優しきを知り・・・優しきを分け与えよ

憎き人で在りたければ・・・憎き人と語り・・・憎しみを知り・・・その手を血に染めろ

美しき人で在りたければ・・・美しき人と語り・・・美しきを知り・・・美しきを身に宿せ

醜き人で在りたければ・・・醜き人と語り・・・醜きを知り・・・醜き全てを汚す者となれ

愉しき人で在りたければ・・・愉しき人と語り・・・愉しきを知り・・・愉しきを心より示せ

悲しき人で在りたければ・・・悲しき人と語り・・・悲しきを知り・・・悲しきに心を沈めろ

強き人で在りたければ・・・強きを人と語り・・・強きを知り・・・強き心と共にあれ

弱き人で在りたければ・・・弱き人と語り・・・弱きを知り・・・弱き心で泣き叫べ

賢き人で在りたければ・・・賢き人と語り・・・賢きを知り・・・賢きを無知なる者に揮へ

愚かき人で在りたければ・・・愚かき人と語り・・・愚かきを知り・・・愚かきを命尽きるまで繰り返せ

愛しき人で在りたければ・・・愛しき人と語り・・・愛しきを知り・・・己が信じる愛を身に刻み決して裏切るな

人との絆を求めるので在れば・・・絆在る人と語り・・・絆を知り・・・その絆を全身全霊で守り貫け

孤独を求めるので在れば・・・一切の感情を捨て・・・孤独に身を浸し・・・孤独に死ね

呪わしき人で在りたければ・・・その怨み・・・身が滅びようとも地獄の底まで呪い尽くせ

慈悲深き人で在りたければ・・・悲しみを胸に・・・あらゆる力と叡智をして何者をも救いぬけ・・・

・・・言葉が終わると、その男は広場の中央に居た・・・

血の様に赤い衣を纏った銀髪の男・・・声の主はこの男の様だ、その傍らには白い衣を纏う黒髪の女性がいる

男の言葉が頭の中に響く

これ以上の戦をするのなら、自らが相手になると言い、腰にある剣を抜き天に掲げると凄まじく光り輝き

みな光に包まれた・・・

・・・その光の中では誰ひとりとして動く事は出来ず、人とは思えぬ程の気迫が身を襲う・・・

その中で歌が聞こえてくる・・・女性の歌だろうか・・・それはとても哀しく・・・力強い歌声・・・

そして光が消え男は剣を下ろすと・・・両軍は退いて行った・・・

アルは安堵からか疲労なのか、その場で気を失い倒れ込む・・・

・・・その時を同じくして遥か西の国でアルと同じ境遇の少年を一人の女性が抱き上げていた。