『自然の適応能力は決して適当ではない 適応なのである』
Case,1 事例
春がくしゃみをすると風速二十五メートルの突風。
「春一番だな」
空を見上げてそう言うと、隣にいた赤ら顔の男。
「バカ言え。花粉症だよ。花粉症!」と言い放った。
するとクラウド(Cloud)の鼻から大雨である。
べっとりと濡れるとくしゃみが出た。
ただそれは風邪のひきはじめにすぎなかった。
そうそれは確かに梅雨の入口だった。
Case,2 事例
乾燥注意報のある日のこと。
町の公園にさしかかると不審な煙が立ち昇っている。
火事か、と辺りを見渡しながら公園の中に入る。
ふと見ると、花壇のフラワーがCigaretteを吸っている。
驚いて眺めていると「きみも吸うかい?」ときいてくる。
「こいつの名前はムーンドロップ。月下美人が去年の夏至の日に作った貴重な一箱でね。これを吸っていると症状がひどくならないんだよ」と、何やらハイな感じ。
差し出された箱からは薄荷の香りがした。
そして彼が指差した先にいたのは奇妙な一群。
灰色のサンクラスに防毒マスク、黄色のタトゥーを入れた国防疾病センターの所員たち。と、言ってももちろん草である。
免疫力の高いワイルドフラワー達。
ぱちんと指を弾くような音。
「今年はやけにひどいね」
見るとクローバーの葉がくしゃみで弾け、五つ葉や六つ葉になったり、ダンデライオンの未熟な種子が花火のように飛び散ったりと何やら騒がしい。
ぶるるっ、と揺れたチューリップの花弁から落ちた朝露の雫。
いえいえ、あれは花水(ハナミズ)ですよ。
化石の町(Fossil City)シリーズの短編です