夢と自覚しその中で自由に行動できる夢を学術的に『明晰夢』というらしい。
 
遠い昔何度となくその世界を堪能してきた。
思春期に至っては自分なりの方法論なんてものも確立していて自由自在に「入る」術を知っていた。
 
しかし歳を重ねるごとにその云わば特殊な能力は薄れていった。
精神的な惰弱さ脆さと関係するものなのかな。
なんて思ったりもした。
 
さて2日ほど前。
木曜日早朝。
時計の針がだらしない「く」の字で明け切らぬ夜を教えてくれた。
午前4時を少し廻った頃だろうか。
早すぎる覚醒に少々苛立ちマイスリを一錠乾いた喉に放り込む。
静寂と闇の苦手な私は瞬き一つで強制的にカーテンの隙間から零れる光を導こうとしたのかもしれない。
体温の温もりが残ったままの布団に滑り込む。
目を瞑ると間もなくのうちに落ちて行くのがわかった。
 
ただし意識はそのままで。
 
それが久々に「入る」ことだと気づくまでに時間はかからなかった。
抜け切ったのか連動性を確かめるために派手に後方かかえこみ3回宙返りしてみると、これでゴールドメダル取れなきゃしょうがないってくらいの素晴らしい演技が出来た。
スタンディングオベーションを受ける私が立ってるところはどこの体育館であろう。
 
明晰夢。
 
それを確信した私は辻褄の合わない前衛芸術のような世界で戯れt
 
「えろいことし放題やな」
 
否。
単純と思われるだろうが空を飛ぶことが一番楽しい。
風の抵抗受けながら時間と空間を超越した景色を縦横無人に飛行、旋回すると夢精しそうなほどの恍惚感。
 
(時間だよ)
 
どこかで指を弾く音がした。
両目に映るは両腕を挟み込むように対座するネコ二匹。
 
「まーお」
 
これでは金縛り程度なら簡単に誘発しそうだ。
と苦笑い。
 
それにしても明晰夢とは体を離脱した状態なのか、それとも現実と非現実のほんの薄いオブラートのような境界を綱渡りで歩いている状態なのか。
 
というようなことを昨夜飲み屋で某社長に話しますと。
 
「えろいことし放題やな」
 
ってアナタ話聞いてた?