6月と言えば梅雨の時期、祝日がないなど色々あるが、今月からは追加で文芸部交流会が始まる。お互いの作品を回し読みしたり、一緒に小説を読んだりする。

 交流会の主な目的は部員同士の交流。一応、部長を探すという目的もあるが、それは最後で良い。それよりはお互いの作品を知り、お互い気兼ねなく意見交換できる場を作るほうがいいと判断した。

「みんなに見てもらうの恥ずかしい・・・。」

 部室に全員集合し、いざ卓を囲んでやろうとした時、美奈がみんなを代表してつぶやいた。

 不特定多数に見られるSNSは、その匿名性から好き勝手言える場所と言える。文芸部の会報もまさにそれで、不特定多数に見られるものの、読者には作者が誰かわからない匿名性があるため、作者は気兼ねなく作品を応募できる。

 しかし、匿名性がない今回みたいなイベントでは、目の前に読者がおり、その読者から感想を直に聞くことになる。今までは瑠奈編集長の感想を聞けば良かったが、今回はそうは行かない。

 

 とりあえず、みんなで回し読みをする。今回の会報に掲載した6ページ程度の小説を、全員分、みんなで読んでいる。読まれている方は気が気じゃない。しかし、読んでいるほうも気が気じゃない。恥部を見るような、その人の知らない一面を見ているような、そんなこっちも恥ずかしいという気持ちになっていく。僕やヒビキ、瑠奈編集長は慣れているが、比較的新しい部員とである美奈、瑠璃、玻璃、守、進の5人にとっては緊張の一日になるだろう。いや、美奈はともかく、瑠璃と玻璃は2年生なのだからもう少し慣れておかないといけないと思う。高校時代は3年しかないから、次は3年生なのだ。

 読み終わり、さて、いつ、どう発言しようかという空気が流れる。みんなの作品を見て、そして見られ、お互い恥ずかしいという状況。この状況を打破するのは、やっぱり3年生だろう。瑠奈編集長が口を開く。

「じゃ、みんな、どの作品のどの辺が良かったか、ゆっくりでいいから発表しましょう。美奈から時計回りね。」

「え!?最初私!?えっと・・・。一番印象に残ったのは守くんのかな?雰囲気が良くて、寝る前に子供に読み聞かせたいなーって感じの小説でした。」

 顔を赤くしながら美奈が発表する。守も恥ずかしそうに顔を赤くしている。

 その後もみんなそれぞれ感想を述べていく。一度やってしまえばなんとかなるというもので、後半になればなるほどみんな感想を言い合えるようになった。特に一巡後の自由に感想を言い合う場面になったときには、自分から発言することが多くなった。

 この時点で僕と瑠奈編集長の思惑は満たせたと言ってもいいだろう。知るということは怖いことだが、知ってしまえば意外と大丈夫なことが多い。今後も文芸部交流会はやっていく方針でいいだろう。

「ところでこうちゃんとるなさんとヒビキさんの小説ってすごいね。普通に文庫本の小説を読んでいるみたいだった。」

 玻璃が言った。そりゃぁ、3年も文芸部、もとい小説を書いてきているし、上の世代は黄金期を支えた、通称「特務機関ネルフ」の二人。そんな二人から手ほどきを受ければ、まぁ、こうなる。教え方がうまかったというのもある。

 その後はお互いもっと読みたいという意見の下、他の会報も読むことにした。こういうとき、瑠奈編集長は用意周到。こんなこともあろうかとと用意していたらしい。

 とりあえず、今回の文芸部交流会は成功で終わった。お互いのちょっと恥ずかしいところを教えあったことで、みんな少しだけ仲良くなった。これからの文芸部はお互いがお互いを尊重する時代。黄金期とは違う、次の黄金期を作る話。