ヴァ神配信だけではやっていけない。やりくりすれば生活できるが、もう少し充実した生活を送りたいのならなおさら。なので、泉アカネは平日の昼間は株式会社フラッシュでプログラマーとして働いている。
 余談だが、この世界の労働条件はかなり緩い。義務教育である12歳までの教育が終われば仕事をすることができる。もちろん、中学校に入学してもいい。小学校を卒業してからは自由になる。ほとんどは中学校に進みながら仕事をする。
 アカネのような異世界転生者は一度総合大学に入る。この世界のことを知るために2年通う。その後は学校に行ったり、仕事を探したりする。大体のことはここで習うため、再度学校に通うことは少ない。
「ねぇ、泉さん。あなた、今15歳よね?」
「ん?そうですけど?」
 アカネの上司、ヒデリからそんな事を聞かれたアカネ。何の話かわからなかった。
「あなたのいた世界だと、15歳って高校生になるくらいの年齢よね?学校、行きたいと思わない?」
「あぁ・・・・。」
 アカネは少し困った顔をする。アカネの異世界転生の原因は自殺。生きるのが辛くなり、生きていけない状態になってしまったため、自殺という手段を選んだ。当時13歳だったアカネの自殺原因は定かではないが、少なからず学校は関係しているだろう。
「あんまりいい思い出ないから、学校には行きたくないです。」
「なるほどね。ごめんね、変なこと聞いて。若いと学校行きたくなるのかなって。」
「やり直せるならやり直したいですけど、それは総合大学で充分です。今は、のんびりゲームを作って過ごしたいかなぁと思います。」
 こういうセンシティブな話は空気が微妙になる。ヒデリも変なことを聞いてしまった罪悪感から、次、何を話せばいいかわからなくなる。
「ふむ、何やら生々しい話題が聞こえたが、学校に行くか行かないかは君次第だ。」
 雰囲気を変えたのはピピ美だった。
「アカネほどの頭脳があれば学校にはいかなくても良いだろうが、もし、行きたくなったらヒデリに相談すると良い。例えばイラストレーターの仕事もしたいと思った時とかな。仕事の幅を増やすことはこの会社では推奨されている。この会社には、条件こそあるが返さなくても良い奨学金制度もある。その辺の説明もしたくて、ヒデリは話題に出したんだ。」
「なるほど。いきなり難しい話をするなぁとは思いましたけど。」
「ヒデリは会話が苦手なんだ。たまに失敗するくらいにはね。」
 ヒデリは顔を赤くしてうつむいている。ピピ美は続ける。
「ちなみに通信教育ってのも発達している。インターネットで検索すれば色々出てくるし、会社のほうにも講座がある。良かったら活用してくれ。」
「わかりました。」


「いつもごめんなさいね、ピピ美。」
 休憩室。ヒデリとピピ美、それとポプ子がテーブルを囲んで席についている。
「ヒデリはもう少し部下と話すほうが良いな。世間話でもなんでも、会話しておかないと今回みたいなことになる。」
「ヒデリちゃんは引っ込み思案だもんなぁ。」
「ははは・・・。」
 ヒデリはアカネの上司。しかし、上の立場になってからまだ1年しか経っていない。今までは部下として誰かの下についていたが、もうそれは過去のことなのだ。
「そうだなぁ・・・。やっぱ、俺たちのチームに入れちまうか!」
「ポプ子、それは名案だな。」
「え?チーム?」
「ヴァ神のチームです。」
 ポプ子のいうチームとは、アカネ、ピピ美、ポプ子、フル鳥の4人で構成されているチームのこと。たまにヴァ神配信で一緒になって配信している。
「ヴァ・・・ヴァ神・・・。もしかして泉さんが?」
「そうDA☆ZE!」
「あ・・・ファンです・・・。」
「OK、決まりだな。ヒデリちゃんもヴァ神にしてしまおう。」
 かくして、アカネの知らないところで5人目のメンバーができたのでした。