ぶらっくうっどでは基本的に現金を使う。銀行預金こそあるが、以外にも〇〇payなどの電子決済がほとんどない。その理由をアカネはピピ実に聞いてみた。

「人間の欲望に限界はないのさ・・・。」

 休憩室での雑談にポプ子が入ってきた。彼女は缶コーヒーを机に置き、椅子に座ると、片手で缶コーヒーを開けた。

「俺もあっかんpayを使っていたんだが、数年前にサービス終了さ。利用者がかなりへっちまったからなぁ・・・。」

 電子決済は言ってしまえばプログラムの塊。その手の変態が触れば簡単に改ざんできるのだという。ぶらっくうっどにはその変態がたくさんいるのだ。

 そして、人間の欲は底なし。金のためなら命を捨てる生物。たった1円でも金が手に入るなら命を捨てる生物。多くの変態が電子決済で使う口座をクラッキングしていく。改ざんして手に入れたお金は、自身の活動資金にしたり、闇組織、市民団体の活動資金にしていた。

 一番決定的だったのは運営会社内の不正。クラッキングから逃れるためにかなり強固なセキュリティを作った運営会社だったが、内部からの犯行は防げなかった。金のためなら命を捨てる生物、人間。ならば、正式に入社して、周りの信用を得て、内部で情報改ざんするのもわかる。犯罪者は一回の大金のために絶対的な信頼を得てから裏切る。

 その結果、「電子決済は信用できない」という見方が強まった。いつ、口座を乗っ取られるか、口座が凍結するかがわからない。そんな危険なものを持ち歩きたくない。次第に電子決済は使われなくなった。

「チャージできるプリベイトカードは使われている。しかし、電子決済は本当に使われなくなった。だからぶらっくうっどは現金が主流だ。」

「現金って、何かすごい性能があるんですか?魔法を使えば偽造できると思うんですけど。」

「現金についてはピピ美ちゃんが詳しいな。ピピ美ちゃん、バトンタッチ。」

「仰せつかまりました。」

 ピピ美はアカネに説明した。

 曰く、ぶらっくうっどの現金はとんでもない技術が使われたオーバーテクノロジーの塊らしい。「魔法を使えば複製できる?HAHAHA!複製できてから言ってくれよ!」ってくらいのレベルらしい。

 まず、彫金技術が変態。すごいじゃなくて変態。文字の中に文字を刻むのは当たり前で、各所に偽造防止の彫金が施されている。魔法で複製されたものと比較すると、芸が細かすぎるため光り方や色が違って見えるという。偽物は見て分かるくらいには違う。手先が器用で何でも作れるはずのドワーフが「変態じゃぁ・・・変態の所業じゃぁ・・・」と嘆くくらいにはすごい。

 さらに魔法がかけられている。識別番号というものらしいが、数字とかバーコード、QRコードではなく、三次元の模様なのだ。それも直線や曲線の模様ではなく、幾何学模様なんだとか。幾何学模様を作ること自体難しいのに、それを識別番号にしているというからとんでもない。理論上、10無量大数個の識別番号を作れるんだとか。

「変態に変態を重ねたくそみそテクニックなのだ!」

「平成の黒歴史!?って、それくらいすごい技術、どこの誰が持っているんですか?」

「日本人。」

「え・・・えぇ・・・?」

「そもそも、名前を書けば受かるような大学の生徒でも7つの言語を使いこなせる時点で頭がおかしい。超絶頭の良い人間でも8言語だ。」

 7つの言語とは、ひらがな、カタカナ、漢字、絵文字、顔文字、ローマ字、空気である。空気とは場の空気という意味であり、海外ではもっぱら理解できない言語と言われている。そのうえで英語やフランス語を操れる人がいるからすごい。日本の高齢のオタクの中には神代文字、ルーン文字、ヒエログリフを使える人もいる。

「とにかく、この世界で一番安全な通貨が現金なのだ。」

「ちなみに、今まで多くの犯罪者が偽造を試したが、いまだにできたやつはいない。しかも、生産しているところに買収をかけても「じゃぁ、1京くれよ」って言われたらしい。1兆の1000倍だ。製造機械も機械で、メンテナンスがわからなくて1か月もあれば壊れるらしい。」

 異世界とは技術の墓場。異世界転生してきた人たちが自身の技術をフル活用して作られた文明では、元の世界の常識をはるかに超えた技術があふれている。

 

 なお、一番すごいのはそれを識別できるスーパーの自動釣銭機や自動販売機である。