エレベーターに乗り込みエントランスに降りる間も、社屋ビルを出てタクシー乗り場に行く間も、ずっと翔次郎は潤一の手を離さないでいた。



「翔さん」

「…… 」



潤一の手を引きずんずん進む翔次郎に、潤一は内心ハラハラしていた。

関係者しかいないエリアだけど、イベント帰りのファンに遠くから見られるかもしれない。

すれ違うスタッフの中にも桜ジロウだと気づいて会釈したり、あれ?という顔をしている人もいる。



「翔さん…」

「 ……ん?」

「手…」

「…… 」



翔次郎はタクシー乗り場を右手に見ながら通り過ぎると、ようやく手を離した。



「帰らないの?」

「なんか… ちょっと、付き合ってよ」

「ん?」

「軽く飲みたい」

「うん… そうだね」

「…… 」



大通りを渡り、裏道に入った。

マンションや商業ビルの並ぶ道を行くとすぐに住宅街になり人通りも減っていく。

その間もずっと翔次郎はイライラしているのを隠さずにいた。


だいたいあんなゲスな下心で呼び出しておいてタクシーチケットも出してないとか、とことん虫唾が走るわ。

立場を利用したセクハラなんて、絶対許せねえ。


ブツブツと吐き出す文句が止まらない翔次郎の本気の怒りが潤一は嬉しくもあった。互いの兄弟はもう家族同然なんだ。



以前、仕事の打ち上げで来たことがあるという隠れ家みたいな創作イタリアンの個室に落ち着くと、ワインで乾杯した。


冷えた白ワインで喉を潤すと、やっと翔次郎の気持ちは収まったみたいだった。



「このサラダいいね。ドレッシング美味しい」

「おう」

「アンティパスト、追加しようか?」

「うん」

「何がいい?俺はね〜」

「ん… 」

「悩むなぁ。ん〜とぉ」

「好きなの頼めよ」

「ほんと?うーん」

「ふ… 」



潤一のメニューとのにらめっこは続く。

自分が食べたいものを選ぶと言いつつ、翔次郎の好みでもあるものをと考えている。


なかなか決まらないのを、うんうんいいねと聞いていると、じんわりと愛おしさが込み上げてくる。


メニューを持つ手に手を伸ばし、しっかりと重ねると軽く握った。



「え…?」

「いや…」

「 ? 」

「上書きしたくて。あいつが触ったとこ」

「……そっか」

「ああ」



潤一はそっと目を伏せるとまた翔次郎を見た。

テレビ局を出る時に握られた強い手と違って、とても優しい手だ。

俺以外に触らせたくない。

手は優しいのにそんな強い気持ちが伝わってくる。



「翔さん… 」

「お前が無事でよかった」

「うん。来てくれて、ありがとう」

「ああ… 」



目の前にいる。

こうして手を繋いで。

見慣れたはずの潤一の笑顔。


この安堵感は一言では言い表せない。

エッセイストの翔太郎なら上手く言えるのかな。

でも俺は、シナリオを読むだけの役者だ。


でも……

この気持ちは誰にも負けないよ。


お前を愛する気持ち、誰にもやらないっていう気持ちだけは。



「決まった?」

「え?」

「追加の前菜」

「ええ?」

「ふっ、ふははっ」

「もぉ。じゃあ手、離してよ」

「やだね」

「え、何、何なの」

「早く決めろよ〜」

「ふふっ。もー翔さん決めて」

「はははっ」

「だってさ〜全部美味そうだし分かんなくなってきたし〜」

「しょうがないねぇ。んじゃあ、チーズの盛り合わせにしよう」

「あ、俺もそれ思った!」

「そうだろ?」

「うん♪」



ワインとチーズの香り、あたたかい灯り、笑い声。

さっきの緊張をほどくように、二人の心は寄り添い合っていく。


楽しい時間を過ごし、そして帰路についた。






**




翔太郎は不機嫌だった。


リビングのソファーにどっかり座ったまま腕組みをして、隣りの潤二が顔を覗き込んでも空を睨んでいた。


帰宅した翔次郎と潤一からの報告を聞き、証拠の音声を確認し、告発及び今後の対処方針などを話し合い、翔次郎たちが自室へと帰って行ってだいぶたった今も、自分を責めていた。



「…… 」

「翔くん… あのね、別に黙ってたわけじゃ… 」

「ああ。それはもちろん分かってる」

「潤一が代わりに行くって言ってくれて、家にいることになった時、翔くんに家にいるってメールしようかなと思ったんだけど、そんないちいち言うことでもないかなと思って」

「ああ。そうだな」

「まさか、ほんとにそんなことしてくる人だと思ってなかったし」

「そうだけど… でも松潤は、そもそも潤が打ち合わせに乗り気じゃないのに気づいてた。あの人苦手って言ってたのを、俺は聞き逃してたんだ」

「それは、たまたまでしょ?コーヒーのおかわりに席を離れてたし」


「とんだマヌケだね。たまたま?聞き逃した?そんなこと嫌だね。潤のことはね、全部把握してたいし、全部知ってたいし、全部…… 」

「翔くん… 」

「いや、全知全能の神じゃあるまいし、分かってる。でも、潤のちょっとした変化にも気づけるようになりたい。少しでも力になれるようになりたいんだ」

「もう、なってるよ… なってるじゃん」

「もっとだよ」

「そんなこと言ったら、俺こそ翔くんのために力になれてないし」

「ばか。潤は俺の活力の源だよ」

「翔くんだって力の源だもん」


「あ… いや… 」

「?」

「その… 」

「でしょ?」

「ん、まあその、もうやめとこう。このまま続けてたらただの大ノロケ大会になりそうだ」

「あ…? ああ、うん… 」

「くそ… 」

「…?」


「俺はさ、結局のところ翔次郎や松潤に嫉妬してるだけなんだよ。潤のことを助けるのはいつも俺じゃないと嫌なんだ」

「翔くん… 」

「ただの独占欲だな」

「嬉しいよ?」

「そうか…?」

「うん… 」

「でも今回は、ほんとにあの二人に助けられたな。みんな無事でよかった」

「うん」



潤二がこてんと翔太郎の肩に頭をもたれさせると、翔太郎は潤二の肩に手をやり抱き寄せた。



優しい沈黙が二人を包む。



ちょっとした変化にも気づけるようになりたい…

それは既に、だいぶ出来ていることに気づいていないのだろうか。


でも、言わなくても分かるなんて、確かにすごいことだけど…


何でも言い合える。

思ったことを話し合える。

それも大切で、それは出来てるのだから。



気持ちは伝わる。

こうして一緒にいれば。


思いは同じだから。

ただ、お互いが大切で、心から、愛してる。



潤二はまっすぐな翔太郎の視線を受け止めた。

抱かれてる腕の中で、近づく顔を見つめる。


柔らかな唇は頬に触れると、甘い言葉を囁く。


胸いっぱいにしてよ。

俺の愛で。



ああ、ただ感じていたい。あなたを。

なるがままに、身を委ねて…







おしまい










こんにちは ٩(*°ㅁ°*)ノ  めーです。


昨日は、2(に)5(こ)の語呂合わせで笑顔の日。


すなわち、翔潤の日。


そして、当ブログの開設日でありました。


このブログも始めてから5年たったんですね!

6年目も、どうぞよろしくお願いします!!



さてさて、ツイ☆☆ンズですが、尻切れトンボみたいで恐縮ですが、一旦おしまいとさせてもらいます。

『どうする家康』が始まって、頭はどうにもこうにもそちらにいってしまい、なかなかブログに手がつきませんでした。

ちょっと今は長編のストーリーを書くのが難しいです。


もう、一年前のことですが、メッセージでリクエストを頂いてました。「ねうねう奇譚」の感想だったのですが、そこにツインズの続きも見たい、知りたいと書いてくれていて。

双子たちが穏やかに過ごせてるだろうか?と、その後の様子はこうかなって色んな楽しい妄想を書いてくれてました。

それがずっと心にあって。。

ストーリーが降ってこないので放置したままになってましたが、今回、書けそうな気がしたので始めてみたのです。が、ダメだったぁぁぁ!(泣)

こんなはずじゃなかったのになー。

なんかもっとポップに楽しい4人のわちゃがありつつ、ホットでいい感じのお話しになる予定だったし、したかった。。

こんな中途半端な代物ですが、メッセージをくれたSさんに捧げます。今更すぎていらんと思いますが(泣)


ここまで読んでくれた皆さまも、ありがとうございました。( *´▽`* )


それでは、また。