起きてきた義母が今日一日の子供の様子を報告してくれるのに相槌をうっていたが、
聞いているとだんだんお説教モードに。

「お向かいのおばあちゃん、今日は赤ちゃんが遊びに来ないから淋しそうだったわよ。
 でもやっぱりあんまり頼りすぎてもダメよ、万が一ケガすることなんかあったら
 今後どうしようもなくなるわよ。
 でもこの子、本当にいい子にしてたわよ。健気でこっちが気を遣いそうになるくらいよ。
 だけどさっき、あなたが帰ってくるほんの少し前に ママー! って叫んで起きたのよ。
 抱っこしてたらまた寝ちゃったんだけど、やっぱりママが恋しいんじゃない?
 あなたが帰ってくるのが分かったんだと思うわ。」

「私、毎晩一緒に寝てますけど、それでも時々そうやって起きますよ。」

「そうよねぇ。だけどやっぱりあんまり夜遅くなるのはどうかと思うわ。」

「遅くなってすみません。でもおかあさん、私、夜出かけたのって、産んでから初めてですよ?
 かずき君、週にニ回は夜もいないし。私一人でずっと見てますよ。」

・・・駅まで徒歩5分で近所にバーやスーパーやコンビニが山ほどある街中からド田舎に引っ越してきて初めての職場の懇親会でここまで言われるわけ?!

「まぁそうよねぇ。だったらいいけど。でもあなた、いくら子供がいい子にしてるからって
 本当はどう思ってるかわからないじゃない。やっぱり母親が一番なのよ。」
(げ、始まったー。何を言っても無駄ー。てかもう風呂入って寝たい…)

「それはそうかもしれませんけど、私、専業主婦向いてないんで仕方ないです。
 おかあさんすみません、ちょっと今疲れてるんで、そういうアドバイス、私しばらく聞けないです。ほんとすみませんけど、しばらく控えてもらえますか?」

・・・つか、頼むからもうやめてくんない?疲れてうまくかわせないから言いたいこと言っちゃうじゃん!


「ええ?私だってこうやって面倒見てると気になるのよ。それってどれくらいかかるの?」

「二年くらいはあたたかく見守ってもらえると助かります。」

・・・うそ!あなたのアドバイスなんて一生いらない!

「ええ?そんなに?でもねぇ、まだ1歳なのにわざわざ預けて働くって…
 かずき(私の夫)も仕事忙しいみたいだし、あなたもっと妻としてかずきを支えてやったほうがいいと思うわ。」

「それ、かずきがおかあさんに言ったんですか?そうして欲しいって?」

・・・は?もしそうだったとしたらふざけんな!あのマザコン夫!

「あの子は言わないわよ、優しいから。思ってたって言えないわよ。だからあたしが言ってるんじゃない。」

・・・てか異常な息子好きキモイ!夫を嫌いになりそうだからもうやめてくれー


「じゃあそれ、私たち夫婦の問題なんで、放っといてください。」

「ええ?まぁそういえばそうかもしれないけど。ほんとにあの子もあの子で体が弱いのにあんなキツイ会社で働いて。
 ほんとに何考えてんだか。私の育て方が悪かったのかしら。あなたもそんなに疲れるんならちゃんと家のことやって、仕事はそれからでもいいんじゃない?」

・・・何言っちゃってんの?そんなの本人が決めることじゃん。

「それ、仕事やめろってことですか?」

「そうは言ってないけど。もう少し時間を減らして、夫を支えてやったほうがいいと思うわよ。」

「おかあさんは母親だからそう言いたいのもわかりますけど、私ずっと家にいたら、もっと疲れますよ。」

「そんなことないでしょう。あの子、ああいう体使う仕事してるのに疲れて帰ってきてまた子供の面倒だのなんだのってかわいそうじゃない。それをあなたがすれば少しは違うんじゃない?だいたいあなた、昨日わたしが何時に帰るのか聞いたとき10時か11時って言ってたじゃない。だから私、11時まで起きて待ってたのよ。人に預けて遅くなるのに連絡もしないなんてどうなの?」

「ええっ?…たしかにいったような気もしますけど…それはすみません」

・・・懇親会で飲み会、って時点で時間なんか分かんないでしょ!と思ったが、この親子酒を飲まないのである。げげー、価値観違いすぎ。
 と、少し冷静に思う自分の他に、さっきからぶちキレまくっているもうひとりの私が、淡々と復讐の準備をしているのを私は知っていた。


「あの子だって明日、夜まで仕事なんでしょ?ほんと、あなたたち、こどものことをちゃんと考えなさい。
 ほんと、あの会社もなんとかなんないのかしら。私だからあの子には公務員になれる道を考えて高専受けさせたのに…。
 どうしてあんなになっちゃったのかしら。やっぱり私の育て方が悪かったのかしら」

「まぁそういうところはあるかもしれませんね。だいたいお義父さんもお義母さんもかずき君に甘えすぎですよ。
 いい加減に子離れした方がいいんじゃないですか?もう30も過ぎてるんだから関係ないですよ。
 彼にももっとしっかりしてもらわないと私も困るし。」


「私の育て方が悪かったって?私のっ、私の育て方が悪かったって、あなた今言ったわね?
 あんたなんかに言われたくないわよぉっ!だいたいあなたさっきから何なのよっ!
 人に預けて夜遅く帰ってきたと思ったら…私の、私の育て方が悪いなんて…!
 そんなこと、私だれにも言われたことないわよっ!あなた前に、生んですぐ来てあげたときにも言ったわよね!
 『お義母さん先に死ぬんだから』って、あんたそう言ったわよねぇっっ!
 ほんっとに失礼な人ね!信じられない!あたしもう帰る!帰るわ!!」

…という調子。

夜中12時過ぎてました。
このヒステリーで車運転されても困ると思って、寝ていた夫を起こしたのだが、そんなに役には立たなかった…。いないよりはマシだったけど。
義母はこの調子で私に罵声を浴びせ続け、自分が被害者だと大声で夫に訴え続けたのでした。


私は、イヤ~な、なんともイヤ~な気持ちに包まれて、ほんと、逃げたかった。
私の母親もこういうタイプなので、あーあ、またやっちゃった、と思ったけど、同時にこれ、私のせいなの?という腑に落ちない気持ちでいっぱいになっていた。

こういうモードで人の話を聞いていない、一方的に文句を言い続ける人には絶対やっちゃいけない対応なんだよね、まともに言い返す、っていうの。知ってるけど。

こうなったらしょうがないし、こうでもならないと言いたいこと言える機会なんかないので、
やけくそでちょいちょい言いたいことを返したのだが、火に油を注ぐ、の見本みたいなことになっていて、疲れて義母にヘルプを頼んだのに余計疲れさせられた私としては、もう笑うしかなかった。

義母が
「私って言いやすいタイプなのかしら。こんなひどいこと、誰にも言われたことないっ!
 私だって夫の母にこうまで言ったことないわよ!」

っていうから
「いやいやお義母さん。おかあさんは言われやすいタイプじゃ全然ないです。
 私、今日本一勇気出してる嫁ですよ。」

とか言っちゃった。


あああ、長々と書いてみたら疲れたが、これでも半分以上省略している。
ほんっと、今となってはバカバカしいやりとりなのだが、疲れて誰にも頼めないから来てもらったのに、嫁だってだけでここまで言われなきゃいけないのか?
母って?妻って?嫁って?何?
お義母さん、あなたはそういう思い、したことないんですか?
忘れたんですか?
どうして子育てする女を邪魔するようなことばっかり言うんですか?
あなたの話には、私の気持ちが全く考えに入っていませんね。
かわいいかわいい孫を、産み、毎日面倒見て一番かわいがって一番なつかれている、この私の気持ちが。

姑って悲しいね。

夫も子供も健在で、特に不自由なく生活してて、一年に一回だけ行った会社の懇親会の帰りが一時間遅かったからって?
ここまで?

これ、私が夫だったらきっと何も言われないのだろうな。

そう思うから余計に、私の怒りは炸裂したのだと思う。
炸裂…は、してないな。普通に言いたいこといっただけだ。
それも、あまりに延々と言わないで欲しいことを疲れた状態で言われ続けたからだ。

言い返す嫁が悪い、とか、対応ミスった、とか、嫁サイドに反省の言葉はいくらでもあるだろう。

でもさー。そこまで言われなきゃいけない?ここまで我慢しなきゃいけない?

ほんと、げんなり。

こういうの、自分の母親と仲良くって家が近くって普通に里帰りできる環境なら、避けられる衝突だと思う。
私には、そういう味方はいない。
普段は特別、それを悲しいとも思わないけれど、こういう時、世の中ってほんっと不平等だな、と体の芯から感じる。

それは私の怒りになって、形を変え、また別の誰かを傷つけるかもしれない。


それでも私は、義母に言えてよかったと思っている。
「あんたら、息子に甘えすぎだよ。」って。

私は私の味方になることができて、本当にうれしい。…夫は全く別の意見を持っていようとも。