「あ、三上先生、お疲れ様です」
階段から降りて来た吉田看護師に背後から声を掛けられて振り返る。
「急がせてしまってすみません」
「いえ。患者は」
「7歳の男の子で、1時間ほど前に自宅で転んだそうです。主に右足首の辺りが痛いと訴えてたんですけど」
そこまで報告した看護師の頬が少し緩む。
「どうした?」
「それがですね、治っちゃったみたいで」
「は?」
「いえ、治ったは言い過ぎかもですが……」
苦笑いを含んだ感じで話す吉田看護師は
診察前へと視線を向けた。
その先の光景に、看護師が何を言いたいのか全部理解する。
「……ああ、わかりました。診察と、一応レントゲンは撮ると思いますので
加藤さんに伝えて貰えますか」
「はい、了解です」
携帯電話で連絡を取り始めた看護師を置いて、ひとり診察室へと向かう。
絵本を手に話をしている子供のそばまで近付くが、母親は私に気付いて立ち上がり
すみませんと頭を下げたが、子供はまだ会話に夢中だ。
「まほうつかい、あわになっちゃったんだ。かわいそう」
「そうだね。かわいそうだよね」
「うん。詩音とまほうつかいはもうあえないのかな」
「このお話には続きがあるんだよ。
詩音くんはまほうつかいを助ける方法を探して、見つけて
また一緒に暮らすんだ。今度はずっと一緒にね」
「ほんと?よかったー!」
楽しそうに話をしている二人に、キリが良さそうなところで
「話が終わったら診察するが。もう終わったか?」
と声を掛けると、話に夢中だった二人が初めて私の存在に気付いたかのように
振り返り顔を上げる。
「三上先生、お帰りなさい。会いたかったです」
尋ねた事への返事ではなく、いつもと同じ言葉が返って来た。