「ああ、三上先生、お待ちしておりました」

「こちらこそ予定より遅くなりまして申し訳ありません」

「いえいえ、三上先生程の名医に診ていただけるのなら幾らでも待たせていただきます。
 ……と言いたいところなのですが、患者の状態を考えますとあまり悠長なことは言ってられませんで。お忙しい中わざわざ御足労頂いたわけでして」

「病状は主治医から伺っております。早速ですが患者に会わせていただけるでしょうか」

「勿論です」


午後の緩い日差しが差し込む、白く眩しい廊下を歩くと
窓の外、冬枯れの景色がどこか物寂しさを感じさせる。

担当医から教えて貰った特別室と書かれた病室に入ると
大きく真っ白なベッドに横たわる患者がゆっくりと上半身を起こし
私の方を見て微笑んだ。そして

「僕の、手術をして下さる先生ですか?」

透き通るような声で尋ねてくる。



「三上先生ですよね。初めまして、笠間稜太です。
 よろしくお願いします」

「三上です。よろしく」

その声と白い肌、そして初めて会った気がしないその容姿に一瞬息を飲む。
大きな少し垂れた優しい瞳、人懐っこい笑顔は
この少年の兄によく似ていた。

 

 

行う手術についての説明をしている間、笠間稜太は穏やかな表情を浮かべ、静かに話を聞いていた。

説明を終え

「何か質問は」

と尋ねると、即座に

「ありません。大丈夫です」

と答えた。


その時一瞬見せた、諦めたような弱弱しい作り笑顔に
本心を見たような気がした。


「わからない事や不安な事があれば、もっと詳しく説明するが」

「不安はありません。手術も怖くないですし、平気です」

「それならいいが」


大きな手術を控えている患者にしては、やけにあっさりとしている風なのが
気になって、このまま説明を終えるのを躊躇していると

「僕、天使に会った事があるんです」

思い出したかのように突然、突拍子もないことを言い出した。