「やさしさの精神病理」 大平 健 | 明治書院

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他者を巻き込まない、また巻き込むことを回避することこそが若者(「若者」って一体誰だ?ま、そのことは今回は置いとこう)たちの生み出しつつある新しいモラル、つまり「やさしさ」なのだとすれば、色んな識者たち(これも誰のことを言ってるのか分からない)に他者性の欠如として否定的に分析されたものこそ、彼らにとってのモラルであり価値となるのかもしれない。

だからこそ若者達が自信を持ってそうした態度(例えば、電車で老人に敢えて席を譲らないというような)を価値として打ち出しているのかもしれない。

僕が知る「やさしさ」(他者へと伸びていき繋がろうとする)とは明らかに異なる、あるいは正反対の外のおいては自他の境界が切断された世界が出現してくる。

やさしさが残酷さとが一致するような価値には、自身で引き受けざるを得ない過酷さになっていくに違いなく、ここにはこれまで共通していた他者との「距離のエロス」が崩壊しているのではないか、と筆者は言う。

親密さや濃厚さよりも、距離を保つことで成立する希薄さは肉体的精神的エネルギーを必要としない。
エネルギー消費の果てにあるカタルシスを実態例と共に示すのは困難であるが、それを若者の病理と判断するのはあまりにイージーと言わざるを得ない。


若者がそうならざるを得なかったのは、若者の周りの大人達が距離を縮めたくなるような存在ではなかったからではないのか。


近所に住む中学生の話

「何もなかった頃なら、価値を見いだすのは簡単なんですよ。でも今僕らが生きている世界には、生まれた時から全てが揃っていて、その中から価値を見いだすのは何もなかった頃よりも難しいと思うんですよ。そういうことが分かっていない大人達が多いのではないですかね。」


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