13年前に観た、イスラム教国で生きる女性についての映画。


簡単に例えるなら、イスラム教国バージョンの

「セックス・アンド・ザ・シティ」だが、

もちろんアラブの国が舞台なので、全く内容が異なる。




まず登場人物の美しすぎる女性4人と、

更に2人のおばあちゃんの人生が濃すぎる。


キャリーやサマンサなんてもんじゃない。


 

軽く紹介すると、


①超絶美人の主人公。30歳。

キリスト教徒。

美容院のオーナー。





既婚男性との不倫に悩む。レバノンではないが、もし厳格なイスラム国家なら、不倫は、石打ちや鞭打ちよる死刑。ポーン


↑不倫相手に電話をかけるシーン。妖艶だ。イスラム教国でこの肌を露出したファッションに驚いた。







②主人公の親友その1。

イスラム教徒。

同じ美容院の従業員として働く


同じイスラム教徒の男性との結婚式を控えているが、何と実は…処女ではない。

レバノンではないが、もし厳格なイスラム国家なら鞭打ち刑100回。滝汗


結婚式の後の初夜に、

出血しないことで、夫と夫の家族と、自分の家族にバレることを恐れている。


(超保守的ではないものの、比較的保守的なエジプトの友達から、結婚式の初夜の翌日、出血したベッドのシーツを、妻側の家族が夫側の家族に見せびらかして、

「私の娘は貞操を守りました!」と証明する文化もまだあると聞いた。

ちなみに性行為の仕方は、結婚式の前日に、実母が娘に説明をする。)



映画のワンシーンでは女友達同士で、ベッドシーツの出血を偽造する為に、

「大丈夫、ハトを殺そう!」と策略するシーンもあるが、

結果もっと驚きの行動に出る。

慎ましいイスラム教徒の女性が、派手な髪型と格好で人前でタバコを吸っていて驚いた。


ちなみに彼女のお母さんはこれ。↓

結婚式の前夜に、母親が娘に性行為の仕方について説明するシーン。








③主人公の親友その2

イスラム教徒。

彼女もまた、同じ美容院で従業員として働く。


女性だが、

内面は男性の性同一性障害。


またまたレバノンではないが、もし厳格なイスラム国家なら、

同性愛も死刑。

いや、さずがに考えが古すぎる。








④主人公の親友その3。

キリスト教徒。

美容院の常連客。


若い頃はCM等に出た女優だが、

40歳を超え、仕事もなくなり、

必死で老いに抵抗し、若く見せる為に、自分の娘と同世代の髪型にしようとしたり、

老いを隠す為に、ちょっととんでもないパフォーマンスもする。


夫はよそで愛人と暮らし、一人でティーンエイジャーの子供を育てる。




イスラム教国で生きる親友4人組のノリは、「セックスアンドザシティ」と変わらない。






⑤美容院の隣に住む、おばあちゃん姉妹。

姉に知的障害と自閉症がある。



その為、妹は結婚をあきらめ、ずっと姉の面倒をみている。



反対に、自閉症の姉は結婚をあきらめきれず、

紙に異様に執着する。


「紙は婚約者からのラブレターだ。婚約者がもうすぐ私を迎えに来るんだ!」

と街中の紙を拾い集め、警察官とも問題を起こしている。


その為、妹は姉の元から離れられず、美容院にも行けない。






とにかく映画で一番最初に驚いたのが、髪型だけではなくレバノンの女性たちの服装。


アラブ圏のオシャレといえば、

せいぜい洋服の色に合わせて、スカーフの色を選ぶ程度かと思っていたが、

(それでも革新的な国にあたる。


サウジアラビアなどの厳格なイスラム国家や、タリバン政権のアフガニスタンは、それすら絶対にゆるされない。)



レバノン女性たちは、

肩を出し、豊満な胸元を強調して、体のラインがピッタリ出る、超セクシーなキャミソールワンピを着ている。



さすがにイスラム教徒の親友は、キャミソールワンピは着ていないものの、

アメリカ西海岸のサーフガールが着てそうな、鎖骨と二の腕が出た、体のラインがばっちり出ているチュニックに、オシャレな細身のダメージジーンズも履いている。


まるで欧米人のような服装で、とてもオシャレだ。

イスラム教国なのに、むしろ日本人よりよっぽど肌を露出している。







そしてビックリするほど登場人物が濃い設定だが、


映画では特に事件やドラマも起こらず、

淡々とした日常がゆっくり流れていく。



その淡々さが、時に女性の悩みをゆっくり切なく感じる瞬間がある。


最後にゆっくり流れるシーンが、私は忘れられない。







映画は、イスラム国家でタブーとされる、

不倫や婚前交渉、

性同一性障害、

その他、日本人女性と変わらない女性特有の悩みがテーマだが、

決して派手にドラマチックには描かれていない。





以下、不倫のあらすじ。↓


主人公ラヤールは、

不倫相手の誕生日を祝いたいと、誕生日当日より少しズレた日にちで、


一緒にホテルに泊まろうと計画をする。


不倫相手の誕生日当日は、当然、一緒には祝えないからだ。


ラヤールは、まず一人で街中のホテルを予約しようとホテルを訪ねまわるが、

さすがイスラム教国。


「結婚証明書」を持つ夫婦でないと、

同じホテルに泊まれない。


ついにラヤールは、恥をしのんで、売春宿に、

先に一人でチェックインする。

受付カウンターで娼婦に間違えられながら…。



売春宿は、薄暗く汚い。


そこでラヤールは、必死で室内を大掃除をする。

トイレと浴室を大掃除した後は、

ベッドをひっくり返して、埃をはらう。


不倫相手の誕生日を祝う為、

ラヤールは必死で風船風船を何十個もふくらまし、花を飾り、部屋を彩る。


不倫相手の為に、セクシーな赤のペディキュアを塗る。






そんな中、切ないピアノ曲が挿入歌が流れる。

とても切ない曲だ。




そこまでしたのに、

しかも誕生日当日よりもズラした日なのに、

それでも不倫相手かやってくることはなかった。


「やっぱり妻を裏切れない。」とメールを一通送ってきて。



ラヤールはむなしく、一人で部屋中にふくらました風船を1つずつ割った。



イスラム教国で、彼女はキリスト教徒とはいえ、30歳のラヤールは完全に婚期を逃している。

皆、20代で結婚するからだ。

不倫なんかで棒に振った若い20代。

悲しさがこみ上げてくる。



代わりに、心配して売春宿まで来てくれたのは、

やはり女友達たちだった。



女友達は、ラヤールが彼のために作った誕生日ケーキを食べながら、

「卵の入れすぎだ。今までこんなまずいケーキを食べたことがない。

彼が食べなくて正解だったよ。」と笑ってくれた。

こういう女友達って良いよね。






それから不倫相手の誕生日当日、

何とラヤールは、不倫相手の家に乗り込んだ。


乗り込んだ…といっても、ラヤールは美容師さん。

表向きは美容師として、夫の不倫を知らない不倫相手の奥様のドレスアップを、仕事として手伝いに行くのだ。



不倫相手の自宅には、可愛い娘がいた。

立派なリビングにある、熱帯魚の入った大きな水槽を通して、ラヤールと、不倫相手の娘は向かい合った。


ベロを出して遊ぼうとするが、

ラヤールはうまく笑えず、涙が出てきた。


それを見た不倫相手の娘は、ラヤールに対して、

「どうしたの?大丈夫?」という心配そうな顔をした。





そこで不倫相手の奥様が登場。


奥様は夫の不倫を全く知らず、当然この美容師として来たラヤールが、まさか夫の不倫相手だとは思ってもいないようだ。


ラヤールは、必死で奥様が着飾る手伝いをした。


奥様は、脱毛を希望し、

ラヤールはその脱毛をしてあげた。




その途中、何も知らない奥様は、嬉しそうに、

夫の誕生日パーティーの計画を話した。


「夫の家族と私の家族、

そして夫の大切な友人…。

夫にとって大事な人は、

今夜、全員来るのおねがい


ラヤールは、その言葉が悔しくて、わざと奥様への脱毛を痛めに、えいっとやった。


奥様は咄嗟に「痛い!」と叫ぶが、

まさかラヤールがわざとやっているとは気づかず、

奥様はすぐ「気にしないで大丈夫よ」とラヤールに笑顔を向けて、取り繕う。

奥様は良い人なんだろうな。




途中、奥様は、

「あ…風船を買うのを忘れた…。風船

とつぶやく。



ラヤールが売春宿で、必死でふくらまし続けた、誕生日パーティーを彩る風船。風船


ラヤールは少しだけ勝ったと思いたかったが、

奥様がラヤールの赤いセクシーなペディキュアを見て、


「あなたのペディキュア…素敵な赤ね。

私にもあなたと全く同じペディキュアにしてちょうだい。」と頼んできた。


ラヤールが不倫相手の為に、必死で売春宿で、自分に塗った赤のペディキュア。


ペディキュアをマネをされたくなかったラヤールは、奥様に、

「赤のペディキュアは、ドレスのお色と合わないのでは?」と提案するも、


奥様は、

「今夜は絶対に赤よ!」

と、嬉しそうに微笑んだ。



もうラヤールは辛くなり、うつむいた





それでも奥様は優しく、

「どうしたの?

あなた顔色が悪いわよ…。

ちょっと休憩しましょう。

何か飲む?」

とラヤールを心配し、優しく声をかけた。


奥様は本当に良い人なんだろうな。

ラヤールもこれは痛かっただろう。




帰りに奥様は、ラヤールにチップを渡そうとした。

「いえ、結構です。」と断るラヤールに、


奥様は、

「あなたは今日、私にとても良くしてくれたから。」と笑顔でチップを握らせた。




帰りにチップを握りしめたまま、

ラヤールはその場でしゃがみ込み、チップを見つめて泣いた。


そこでも先程のピアノ挿入歌の、

美しいギターバージョンが優しく流れる。



ラヤールはしゃがみ込んで泣いたものの、

すぐに涙を拭って立ち上がり、歩き出した。

凛としていた。






そこから同時に、

他の登場人物の物語がゆっくり、

美しい挿入歌と共に流れる。


 




イスラム教徒で結婚式を控える親友ニスリンは、

処女膜再生手術の為に、病院の手術室にいた。

(ひ、ひえー!!

ハトはどうした!?)






イスラム教徒で、女性だが、内面は男性の性同一性障害のもう1人の親友リマは、

お客様の同性の女性に恋をしている。

同じくこの相手の女性も同性愛者で、互いに両思いだが、リマはそっと気づかないフリをして、自分の気持ちを封じ込めた。せつない。






元女優で、必死に老いに抵抗する40代のジャマルは、

若い女性を対象にしたオーディションを受けに行く。

周りのライバルは20代のようだ。

そこで何とジャマルは、赤いマニキュアを、自分のスカートに生理の血に見せかけてつける。


周りの若い20代の女性たちから、

「あ、大変…あなたのスカートに…」と指摘されて、


ジャマルは、 

「きゃー!あせるどうしよう!びっくり

しかも生理用ナプキン忘れちゃった!

あなた持ってる?」と


若い女子アルアルの会話をした。







結婚をあきらめた、隣に住むおばあちゃんローズは、

初めて美容院を訪れた。

一人の紳士に恋をしたのだ。


美容院で髪をキレイに整えてもらい、

その晩にデートの約束がある為、何年か振りに化粧を始めた。幸せそうにゆっくり化粧をした。


隣で自閉症の姉リリーがずっとわめき続けている。

化粧をする妹ローズにイジワルをし、

電気を消したり、イジワルなことを言う。

「似合わない」「ブス」だとか。

姉リリーはイジワルで言っているわけではない、ただ解らないのだと思う。



ようやく美しく化粧が完成したと思ったら、

ローズは泣きながら、さっきしたばかりの化粧をゆっくりと落とした。

涙で顔はボロボロになった。



そして化粧を落とした後、涙をぬぐい、

笑顔で隣の部屋に行き、わめき続ける自閉症の姉リリーを、優しく世話した。 


デートはあきらめてしまった。

その為にせっかく美容院にも行ったのに…。








それから数日後、


ラヤールの不倫相手は懲りずに、

ラヤールの美容院の前に車でやってきた。

あんな素晴らしい奥様に、誕生日パーティーをしてもらいながら、なめた男だ。



不倫相手は、美容院には入れないので、

(レバノンでは女性が美しくなる為の美容院は、

「秘密の園」という妖艶な意味合いがあり、

基本的に男子禁制。)



不倫相手はいつも通り、美容院の前でしつこく車のクラクションを鳴らした。

それが不倫の合図だった。


行きたい…。

彼に会いたい…。


そう感じるラヤールに、親友3人は、

「どんなに辛くても、もう行っちゃダメだ。」と声をかけ続けてあげた。 


ただその時、ラヤールたち4人組は美しくなる為に、

美容院で互いの顔のうぶ毛を脱毛していて、顔は志村けんのバカ殿みたいな姿だった(笑)

そもそもこんな姿じゃ出れないだろう。




それでも不倫相手はしつこく、ブッブー、ブッブーとクラクションを鳴らし続ける。



そのクラクションを聞きながら、必死で我慢をするラヤール。



その時、しつこく鳴らしたのがアダとなり、

ついに不倫相手の車のクラクションがぶっ壊れた。

超マヌケな音、


ブヒーーーーーッぶーぶー

ブヒーーーーーッぶーぶー




そのマヌケな音を聞いた瞬間、


ラヤールと女友達は、

「だっせえ!!」

と、女同士で、

不倫男について大笑いをした。



辛い不倫が終わった瞬間だった。



何とアカデミー賞ノミネート映画だが、

更に驚いたのは、

主人公の超絶美人の女性本人が

主演、監督、脚本。

こういう女性、憧れる!!



彼女の名前はナディーン・ラバキー。

元々、彼女は大学時代に監督して撮った短編映画が評価され、

レバノンで「天才の到来!」といわれたものの、

何故かその後は、ずっと作品を書かずに、

次にようやく書いたのがこの映画。

デビュー作がいきなりアカデミー賞ノミネート。

本当の天才なんだろうな。




デビュー作は、

こちらのイスラム教国で生きる女性をテーマだったが、

反戦の映画や、児童虐待についての映画も描く素晴らしい映画監督だ。


ちなみに彼女の映画がリリースされる度に、レバノンの映画の興行収入ナンバーワンを更新するらしい。

レバノンで彼女は「ハンサムな女性」と表現されている。 




映画の途中、ラヤールが泣き出すシーンで挿入歌として流れる、切ないピアノ演奏曲。

アラブ音楽の世界で、こんな美しく切ないピアノ曲を弾く人がいるのかと思っていたら、


何とこの曲を弾いているピアニストは、実生活で、

このラヤールを演じた女優兼・監督の旦那さん!!


だからあんな切ないピアノ挿入歌を入れられるんだ。


レバノンでは「ショパンの再来」といわれているピアニスト。



ラヤールが泣き出すとても切ないシーンで流れるピアノ演奏曲。

奥様への愛がなければ書けない曲だ。