ヨルダン君は毎日、ほぼ同じ時間に私とビデオ通話をする。
日本の深夜12時、ヨルダンの夕方6時。
毎日、顔を見て話すと、何となくゆるーい違和感が、少しずつ繋がって形になっていった。
彼はビデオ通話で、いつもオフィスにいた。
40畳ほどの広い自宅のリビングを改造したような、オシャレなオフィスにたった1人。
それもそのはずだった、オフィスは彼の実家の上階だった。
彼は自営業で、兄と会社を経営していた。
皆さん、最初にビデオ通話をする日、彼の言った言葉を覚えていますか。
彼は1時間半、遅刻した。
理由は、
「自宅のインターネットが繋がらず、急いでオフィスに来た。」
自宅でビデオ通話をしない理由。
確かに彼の仕事後に、そのままビデオ通話を始める、私たちの約束の時間になるから。
日本では深夜の為、彼はいつも、
「お願い、もうちょっと寝ないで待ってて。
あとちょっとで仕事が終わるから。」
と深夜11時を過ぎるとメールで頼んでくる。
でも自宅には奥さんがいるのではないか。
それもあり得る。
誰もいないオフィスでビデオ通話をしなければいけないのは、兄が共同経営者だからだろう。
未婚の男女がデートすらできないイスラム教徒が、婚約者でもない、ましてや異教徒の外国人女性と会話をすることは基本できない。
ヨルダンは隣のサウジアラビア等より戒律が厳しいわけではないが、それでも未婚の男女は公の場でデートはできないと、彼も言っていた。
兄が帰って誰もいなくなった夕方6時に、オフィスに残ってビデオ通話をすることに関しては違和感はない。
ただ私は、エジプト人の男性の友人が沢山いた。彼らとビデオ通話をする際に、彼らの両親、兄弟、従兄弟、甥っ子、姪っ子が総出で物珍しいそうに、「おー日本人女性だ。アッサラームアレイコム!」とワイワイしながらビデオ通話に割り込んでくることもあった。
(※といっても私のエジプト人の友達たちは皆、大学の日本語学科卒で、日本大使館や早稲田大学の考古学チームの現地アシスタントなどをしていて、普段から日本人と付き合いがあることを家族が理解しているという理由もある。)
話は戻るが、基本、イスラム教徒は兄弟が7人位いて、長兄、長姉が下の子の面倒をよく見る風習があり、とても仲が良い。
結婚しても近所に住むことが多く、普段から、甥っ子や姪っ子が大勢、誰かの家で走り回ってとても賑やかだ。
実際に、ヨルダン君も9人兄弟の末っ子だと。
兄弟は結婚しており、みな近所に住んでいると。
ちなみにヨルダンは知らないが、エジプトでは日本と違い、長兄ではなく末弟が最後まで実家に残り、結婚してもそのまま両親と同居を続ける。
つまりお嫁さん目線からすれば、長男ではなく、末っ子と結婚することは、義理の両親と同居をするハメになる。
(↑「ハメになる」とつい書いてしまった。)
理由は、経済的に豊かでないエジプトで、上の兄弟は成人し就職後も、家に残る弟や妹を経済的に面倒をみる役目がある。
そうして、末弟が兄弟間で最高峰の大学に進学をすることが多いらしい。
つまり上の兄弟が力を合わせて経済的に末弟の世話をし、その結果、大学に進学できる末弟が、一番の稼ぎ頭になり、両親の面倒を見る。
最後まで実家に残るのも、確かに結局は末弟なので、
なるほど理にかなっている。
もしかしたらヨルダンもそうなのかも。
だから彼が国内最高峰の大学に進学し、アメリカの大学で博士課程をとる準備をしているのも納得だ。
余談だが、私のエジプト人の友達たちは皆、エジプトの最高峰カイロ大学の日本語学科を卒業しており、日本大使館が現地で行う日本政府公認の日本語検定で上位成績者のとても優秀な方たちだった。
エジプトは産業に乏しく、観光業に依存している為、世界一難しい言語とされる日本語を学ぶ日本語学科を卒業することは医者、弁護士に続く最高の名誉らしい。
「あそこの息子は日本語学科を卒業した!」と近所で話題になるほど。
そしてまさに皆、末っ子の集まりだった。
その結果、
「最高位の学歴をとっても、お嫁さんが来たがらない。」と嘆いていた。
だからヨルダン君が独身なのは本当かもしれない。
話は戻るが、彼は実家の近くに住んでいる。
初日に、
「自宅のネットが繋がらないから、急いでオフィスに来た」と言っていた。
1時間半も約束に遅れたので、家から遠いオフィスを勝手に想像していたが、実はオフィスは近所の実家の上階だった。
また以前、ヨルダン君はメールで、
「両親(my parents)は近くに住んでいる。」
と、確かに「両親」(my parents)と言っていた。
しかし別の日のビデオ通話で、
「父は15年前に亡くなり、母だけがいる。」
と言っていた。
ただのタイピングの間違いか?
「両親」(parents)
「片方の親」(parent)だが、
ただ単純に、彼は「片方の親(parent)」と書こうとして、
間違って「両親(parents)」と書いたのか?
ただあまりこの後者の「親」(parent)は一般的に使われず、
基本、片方の親を指す場合は、ストレートに、
「父(my father)」
「母(my mother)」
になる。
子供が親について話す際に、日本人のように、単体の「親」(parent)という単語は、まずほとんど使われない。
「片親家庭」(single parent)という単語で、せいぜい登場するくらいだ。
しかしこれがネイティヴなら、この時点で辻褄が合わないと断定できるが、彼は英語圏の人ではないから、微妙だ。
それにしても彼の指定したスナップチャットにしなくて良かった、彼からのメールが消えずに、ちゃんと見返せるから。
ちなみに彼の英語はビジネスレベルだ。
私より、英語力は彼の方が高い。
私はアメリカにはトータルで5年間しか住んでおらず、ちょっと弱い英語を話す。
私と逆の大坂なおみさんは日本に5年間しかいなかった為、逆に日本語が話せなくなっている。
彼は、過去に海外の某・先進国の証券会社に10年間勤めており、それが婚期が遅れた理由と話すが、ビジネスレベルの英語を話す彼を見ると、おそらく事実だと思う。
ちなみに彼の英語アクセントは、完全にアラブ人の話す英語だ。
彼はアラブ人特有で英語の巻き舌が強く、エジプト人の友人たちが話していた英語とよく似ている。
だから経歴にはあやしいところはないけど。
大した違和感でもないが、ゆるい違和感。
ビデオ通話でいつも優しい彼だが、私にはビデオ通話に映っている、とても狭い範囲しか分からない。
彼は私以外の女性と話しているのだろうか?
今、彼は、どっぷり私にハマっているように見えるけど。
よし、調べてみよう。