プロローグ


意識が薄れゆく中、少ししか開かない目で天井を見ると、一角に巣を張った蜘蛛の姿がある。

蜘蛛は、風に乗ってどこまでも飛んでいくことが出来ると、なにかで読んだことがある。

そばには男の両親と、彼の手を握り涙を浮かべた妻、数少ない友人たち、白衣を着た中年の医者が、重苦しい顔で座っている。

残りわずかな息を吐いて、男は薄く笑いながら、自身の半生を思った。


もし、生まれ変わることができたら、もう一度きみに会いに行くよ。


男が最後の力を振りしぼり、妻のほうを見ながら、わずかに口を開けてなにかをささやいた。

「・・・子」

「××さん、××さ―――ん!!」

夫の名を呼ぶ妻の悲痛な叫びとともに、男は静かに目を閉じた。

その後、男が目を覚ますことは二度となかった。