国王vs世子!父子の対立ー朕を罵るのは構わんが、そなたの母ー雪鈴を侮辱するのは許さないぞ | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。

ついでに前編も改めてご紹介ニコニコ

 

 

 

 

 

 恋慕~秘苑の蝶第二部第一話 前編

 

賛の勢いは止まらない。
「それゆえ、母上のことをいまだに〝二代后〟と呼ぶ者もいると聞きます。子の私がどのような想いで、それを聞いていると思われますか? 母上のことを二人の王に色目を遣い、ついに王妃に成り上がった淫婦だと聞くに耐えないように言う臣下もいる。教えて下さい、父上、私は本当に父上の子なのですか? それとも、やはり先王殿下の息子なのですか」
 最早、王の顔色はなかった。王はひたすら眼を見開き、賛を凝視している。
 賛は己の言葉が父に与えた影響の大きさに驚愕した。
 これまで以上に重い静けさが満ちた。王は眼を瞑り沈黙を守っている。賛が息を呑んで父の口許を見つめていると、やがて王が静かに口を開いた。
「そなたは紛れもなく朕の子だ」
 賛は反抗的な眼で父を見る。
「証拠がどこにあるというのです? 真実は母上しかご存じない、いや、母上ご自身だとて判らないかもしれない。私は父親の知れない息子です。もしかしたら、陽善大君の方が世子になるべきだったかもしれない。彼ならば、間違いなく父上のお子でしょうから」
 母が賛を懐妊していると公表されたのは、母がまだ先代王の側室だった頃だという。最初は先王の子として公表され、先王が崩御し父が即位後に改めて父の子だと再度、訂正されたのだ。
 一方、一年違いとはいえ、弟を懐妊した時、当然ながら先王はこの世の人ではなかった。弟は間違いなく父の血を引いている王子だ。
 王が疲れ切った様子で言った。
「そこまで知っているなら、先王殿下のお身体のことも存じておろうが。彼(か)の方は幼時に流(は)行(やり)病(やまい)にかかり、不幸にして子宝を望めぬ身体になられた。ゆえに、そなたが先王殿下の子であるということはあり得ないのだ。現実として、前の中殿さま初め先王殿下の二十人近い側室の誰一人として懐妊した者はおらぬ」
 賛は父を睨(ね)めつけた。
「私が申し上げたいのは、そこではありません。外聞に耐えない醜聞を引き起こした父上に、私をとやかく言う資格はないと言いたい」
 賛は嫌々をするように首を振る。
「いや、父上だけではない。母上だとて同じだ。世にも貞淑な慈悲深い王妃のようにふるまわれながら、その裏では男を誑かす妖婦だと後ろ指をさされている。お二人とも汚い」
 刹那、玉座から立ち上がった王は龍袍の裾を蹴立てて向かってきた。王は賛の胸倉を掴み上げた。物凄い形相である。ここまで怒った父を賛は初めて見た。
「朕のことはどれだけ罵ろうと構わん。さりながら、母上をー雪鈴を侮辱するのは許さんぞ」
 王と王妃は若かりし頃、幸せな恋人同士だった。その間に割り込み、権力で王妃を自分の女にしたのは先王だ。当時のことを知る者ならば、真実を知っている。けれども、若い賛がそこまで知る由もなかった。
 彼はただ女官や臣下たちが興味本位で語っている悪意ある噂話を聞き、事の表面を知っているだけだ。
 賛が生意気に言った。
「やはり、母上は父上を誑かしたのですね。たったそれだけで、父上がここまで激怒されるとは」
 王がギリッと歯を食いしばった。
「己れを産んでくれた母を愚弄するのは、己をも貶めることだと判らないか」
 依然として父に襟元を掴まれたまま、賛は斜に構えて言った。
「私はただ真実を述べただけです」
「馬鹿者めが」
 怒声と共に、賛の身体は吹っ飛んだ。唇の傷がまたも開き、血が滲むのが判った。