韓流時代小説 復讐から始まる恋は哀しく~分不相応な夢を後宮で見れば、命取りになるぞー女官の警告に | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 復讐から始まる恋は哀しく

 ~謎めいた王と憂いの妃~

☆ 最初から最後まで、私には復讐しかなかった。あなたに出会うまではー「廃妃ユン氏」と呼ばれた少女の生涯☆

 

ー運命に導かれるようにして出逢った二人。
二人は互いの身分を知らずに、烈しい恋に落ちる。

ソファの運命を激変させた一夜ー、そのために彼女はすべてを失った。優しい両親、可愛い弟。
その夜、国王の唯一の忠臣といわれるユン・ソユンの屋敷に義禁府の兵が押し入り、ソユンとその妻、更には使用人すべてが問答無用で誅殺された。
後にソファが知った父の罪は「大逆罪」。謀反を企んだ罪により、父は王命で生命を奪われたのだ。

そのときから、ソファの復讐が始まった。*************************************************************************

 王と宮殿内で初めて遭遇して以降、他の朋輩たちの意味ありげな視線はともかく、表面は何事もない日々が過ぎていった。
 王の想い人に迂闊に拘わって揉め事が起きたら、罰せられるー、そんな認識がいつしか後宮中にできたらしい。ムスリの仲間たちでさえ、ソファに距離を置いて接するようになった。同じ時期に入宮した歳の近い少女たちも最初は気さくに会話していたにも拘わらず、水瓶の一件以後はソファを遠巻きに眺めるようになってしまった。
 ソファが話しかけても、当たり障りのない返事だけして逃げていく。後宮の中で、彼女は次第に孤立していった。
 淋しいといえばいえないことはなかったけれど、元々、自分は友達を作ったり後宮生活を愉しむためにここ(後宮)に来たわけではないのだ。
 ソファは友達を作ることは早々に諦め、自分に与えられた日々の仕事をきちんとこなしていった。その合間には何とか両親が無念の死を遂げたあの事件についての手かがりを得られないものかと動き回ったが、さしたる情報は得られなかった。
 当たり前といえば当たり前で、あの事件で判っていることといえば、〝王命〟によるものであったというくらいのものだ。闇雲に探し回ったとて、解決の糸口が見つかるはずもないのだ。
 ソファは考えた。事件で判っているのが〝王命〟であるならは、やはり国王その人について調べるのが一番ではないか。しかも、父は国王の信頼も厚いがゆえに、各地の県監を歴任してきたことでも知られていた。
 廷臣をあまり側に寄せ付けないことで知られる王が唯一、心を開き信頼を寄せていた忠臣がユン・ソユンだったのだ。
 では、やはり王と父の間に何かしらの問題が起きたと考えるのが自然かもしれない。それは事件直後から考えていた可能性でもあった。
 幸いにも王の方から自分に近づいてくるという幸運にも恵まれた。運命は自分に味方してくれているのかもしれない。いや、きっと無念の死を遂げた父が王と自分を引き合わせてくれたに違いない。
 とりあえずは、王の近くに身を置き、彼の身辺について何か怪しいところはないか調べるべきだろう。ソファは自分なりに綿密な計画を立て虎視眈々と機会を窺った。
 その時、ソファは洗濯物を干していた。ちょっとした広さのある場所に高い棒が立てられ、綱が張り巡らされている。そんな物干し棒が幾つも並んでいるのが洗濯干し場だ。
 この仕事は本来、二人で組んで担当するものだが、ムスリたちの中に誰もソファと組みたがる者がいなかった。彼女は上級女官たちの出した山のような洗濯物を一人で洗い上げる羽目になった。
 一枚一枚、棍棒で叩いて汚れを落とす作業は、結構根と体力が必要だ。かれこれ一刻余りも続けたお陰で、肩は凝り腰は痛くなっている。
 それでも、山積みになった衣類をすべて洗い上げたときは気持ちが良い。ソファは籠に絞った洗濯物を入れ、両手で抱え、今度は井戸端からこの干し場にやってきたというわけである。
 小柄な娘であれば干すのも難儀であろうが、ソファは身の丈はある方だ。なので、干す作業自体は苦労ではない。小さな声で鼻歌さえ口ずさみつつ、一枚一枚皺を伸ばして丁寧に干してゆく。
 折しも六月上旬の陽光が燦々と降り注ぎ、蒼空を背景に洗濯物が風に揺れる風景はなかなか爽快なものだ。半分ほど干し終え、ソファは両手を腰に当て、風に翻る衣類を眺め、自分の仕事に満足して微笑んだ。
 あと半分干せば完了だ。また次の洗濯物を手にしたそのときである。殿舎と殿舎の間を一人の女官が小走りにやってくるのが見えた。
 新入りの指導係を担当している女官だ。歳は大体、二十歳過ぎといったところ、美人といえば美人だが、細い眼と尖った顎がどこかキツネを思わせる感じだ。実のところ、水瓶を割ったとしてソファを鞭打ったのは、この女官だった。
 嫌な顔を見るものだと思いつつも、ソファは黙々と仕事を続けた。できれば、彼女がこちらに来ず、別方向へと行ってくれるのを願ったが、意に反して、やはりソファに用事があるらしい。
「ユンムスリ」
 彼女に呼ばれ、ソファは手を止めて女官に向き直った。
「はい、何でしょう」
 噂では水瓶事件の直後、この女官は崔尚宮からかなりの叱責を受けたとのことだ。
ーそなたが必要以上に厳しい罰をムスリに与えたせいで、この私まで国王殿下からお叱りを受けたではないか!
 罰として女官は今まで使っていた一人部屋からより手狭な二人部屋へと移動を命じられたとのことだった。この娘は親許が両班ではないものの、豪商だそうで、何かと親が崔尚宮に賄賂を贈るお陰で待遇が良いと噂されている。
 なのに、広い快適な一人部屋から後輩と相部屋に移されたのだ。あれから、この女官がソファに何か言ってくることはなく、指導係は大人しい別の年配女官に代わった。
 なのに、今になって何の用だというのか。どうも不穏な胸騒ぎがしてならない。
 内心の動揺はひた隠し、ソファは彼女を見つめた。
「崔尚宮さまがお呼びだ」
「尚宮さまが?」
 崔尚宮はムスリたちを統括する責任者である。が、一番上の崔尚宮が下っ端、しかも新入りのソファを直接呼びつけるなど普通なら考えられないことである。
 疑いが顔に出ていたのかどうかは判らないが、女官は細い眼でソファをじいっと見た。何とも嫌な感じだ。
「良い気になるでない」
「え?」
 ソファが思わず聞き返せば、彼女が低い声で言う。
「尋常に考えれば、国王殿下が最下級のムスリに眼を留められることなど考えられない。どんな手練手管で殿下の気を惹いたのかは知れぬが、あまりに分不相応な夢を後宮で見れば、生命取りになるぞ」
「私はー」
 言いかけたソファに、女官は気のない様子で言った。
「今後の心配は無用だ。私がそなたにもう逢うことはない」
 彼女は言うだけ言うと、さっさと踵を返して去った。
 後に知ったことではあるが、この女官は数日後には永の暇を賜り後宮を去ったらしい。何かの処罰を受けたわけではなく、縁談が急に纏まったからというのが理由のようである。
 甘い父親は娘がたかだか新入りのムスリのために、国王や尚宮から叱責を受け部屋替えまでされたのを屈辱だと感じたようだ。無理をして宮仕えする必要はないと、さっさと娘を後宮から退かせた。
 果たして、良家や富豪の娘が女官として出仕する背景には、月々支払われる俸禄が目当てではなく、単なる行儀見習いのため、嫁入りに備えて経歴に更なる箔をつけるという意味合いが強い。
 むろん一生奉公ではなく、嫁入りまでの短期間の社会勉強、花嫁修業という認識である。本来、女官は国王の所有に帰し、一度職に就けば王の寵愛を受けようと受けまいと生涯、後宮から出られないとされるが、例外はままあるものだ。結局は後宮もまた金が物を言う世界であった。
 この女官の父親は都でも名の知れた商団の大行首である。名ばかりの両班よりはよほど裕福な暮らしをしているのだ、蔑ろにされてまで仕事をする必要はないのである。所詮は恵まれた環境にあり、強い後ろ盾を持つ娘だからこそできることだ。ソファがとうの昔に失ったものだった。