FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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Every day is  a new day.
一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
小説がメイン(のつもり)ですが、そのほかにもお好みの記事があれば嬉しいです。どうぞごゆっくりご覧下さいませ。








☆なお、「私の辿った道(略歴)はコチラから」


 http://www.dhcblog.com/megu1/biography


☆お陰様で、「東めぐみ」は今年で筆歴21年を迎えました。アクセス数に関係なく、自分の書きたいもの、伝えたいことを自分の言葉で紡ぎ出してゆけば良い。そして、それを読んで「何か」を感じたり、良かったと思ってくれる人が一人でもいれば良い。それが私の夢であり、究極の目標です。

筆歴24年の大きな節目を迎えた今年、「一人でも多くの方に自分の作品を読んで頂きたい」という初心に戻り、これからも書き続けてゆこうと決意も新たにしています。






 

韓流時代小説 牡丹の花の咲く頃に

 【春望第二部】

~何で香蘭が流人両班からあんたに乗り換えなかったか、あたしには、てんで理解できないね~

 

 香蘭を見守り続けたヨンギルに訪れた二度目の恋。

 更に、香蘭の「姉」のような存在であった香月に秘められた哀しい過去とはー。

 孤独な二つの魂が出会う時、新たな想いが芽生える。これは、そんな過去を持つ二人が見つけた光の軌跡の物語。

香月(ヒャンオル)ー現在は副行首(ヘンス)。遊廓青海楼の元ナンバーワン妓生。本名はボクシル。島を去った香蘭の良き理解者であり、姉のような存在。

 

ヨンギルー見守る男。第一部では、ずっと香蘭を陰ひなたなく支えていた。青海楼の男衆(用心棒)。かつては香蘭に激しい恋情を抱く。

 

月梅(ウォルメ)ー青海楼の行首。香蘭の育ての母でもある。思ったことを遠慮無く言うが、見かけほど冷淡な人ではない。青海楼の妓生・童妓が慕う「母」のような存在。

 

ボクシルー青海楼の番犬。ヨンギルと香月が可愛がっている。ゴールデンレトリバーと珍島犬(柴犬によく似ている)のハーフ。香蘭の愛犬「美雨」の子ども。

 

楊香蘭(ヤン・ヒャンラン)ー青海楼の元童妓。流人であったハンスと出会い、結婚。一年前に島を出た。

 

崔韓秀(チェ・ハンス)ー都生まれ育ちの両班の青年。祖父や父が陥れられ大逆の罪で処刑後、宗州島へ流罪となり、香蘭と出会う。

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 人は大きな打撃を受けた時、泣いたり喚いたりすることで、かえって精神の均衡を保つものだ。乱れた精神(こころ)を外へ向かって吐き出すことで、感情の処理をするのだ。
 だが、月梅はあれほど可愛がっていた女中に裏切られても、涙ひと粒零さない。泣き言さえ言わない。恐らく月梅の感情は内側へと激しく渦を巻いて向かっているーつまり、自責の念が高まるばかりなのであろう。
ー所詮、あたしの眼も曇っていた、節穴だったということさ。
 あのひと言が何より心の内を示している。
 スングムが持ち出した金は、有り体に言えば、青海楼の命綱に等しかった。月梅は廓を維持してゆくだけの経費を捻出することができず、ここのところ、金貸しに頼るようになっていた。
 だが、もう抵当に入れる調度さえなく、やむなく見世そのものを抵当にして借りざるを得なくなった。かなりのまとまった金子が手に入るはずで、月梅はその大金を元手に本腰を入れて経営を立て直す心づもりでいた。
 その大切な資金を女中は持ち逃げし、更に見世の男衆もそれに乗ったのだ。
 今の月梅は到底、見ていられなかった。香月は、男と手に手を取って金を持ち逃げした娘の面輪を思い浮かべた。ナツメ型の大きな瞳、黒目がちな冴え冴えとした輝き、形の良い卵形の輪郭。
 それは、月梅が実の子のように手塩にかけた香蘭とよく似ていた。もっとも、香蘭は気性の清らかさを示すように、瞳も澄んでいたし、スングムのような陰気な翳(かげ)はまったくなかった。
ーお義母(かあ)さんにとって、香蘭を失った心の痛手は大きすぎるんだ。
 香月は判っていた。自分では所詮、香蘭の代わりにはなれない。月梅にとって、〝娘〟といえるのは香蘭ただ一人なのだ。赤児の頃から育て上げた元妓生明月(ミヨンウォル)でさえ、香蘭ほど月梅の心を占める存在ではなかった。
 ましてや香月は月梅にとっては、その他大勢の妓生にすぎない。多少現役時代に売れていたのと、わずかばかりの才覚があるため、香蘭が辞退した行首の座が巡ってきたにすぎないことも。
 本来の月梅であれば、スングムが真、信頼に値するかどうかも見極められたはずである。だが、娘分を失った淋しさが月梅の慧眼を曇らせたに相違ない。月梅は香蘭に面差しのよく似たスングムの存在で、娘を失った心の空白を埋めようとしたにすぎない。
 もとより、秘蔵っ子の香蘭の代わりになれるなんて、思い上がるつもりはなかった。けれど、こんな自分でも、少しは月梅の役に立てるのではないかとほんの少しは期待していたのも確かだ。
 たとえようのない喪失感と寂寥感を無理にねじ伏せ、それでも香月は必死に月梅を支えようとした。その矢先の出来事だったー。
 廊下の向こうから、名月(ミヨンウォル)が血相を変えて駆けてくるのに出くわした。
「姐(ねえ)さん、大変。お義母さんが」
 名月は二十七、大抵の妓生であればもう引いている齢である。親や身内に売り飛ばされてきた娘たちは泣く泣く身体を売っている者が多いというのに、この妓だけは
ーあたしは、この商売が性に合っているんだ。
 と、広言してはばからない変わり者だ。
 かといって、男好きなのかといえば、そうでもないようで、特に色事に執着している風もない。別に他人に迷惑をかけるわけでもなし、本人の嗜好の問題なので放置しているけれど、変わった女ではあった。
 気丈な月梅が倒れるなぞ、あり得ない。いや、あってはならないことだ。香月の身体中の血が瞬時に沸き立ち、一瞬の後、しんと冷めた。自分の周囲を流れる時間が止まったようでさえあった。
 名月が皆まで言わない中に、香月は小卓を名月に押しつけ走り出していた。角を曲がった突き当たりが仕事部屋だ。扉を開け放てば、月梅が大きな執務机に突っ伏す形で倒れていた。
「行首さま、お義母さんッ」
 人前ではなるべく立てて行首と呼ぶように心がけてはいても、つい私的な呼び方になった。後ろから名月がおろおろとついてくるのに、香月は声を高くした。
「なに薄ぼんやりしているんだい。早く医者を呼びな」
 名月が涙に濡れた顔で頷き、脱兎のごとく室を飛び出した。香月は月梅の華奢な身体をそっと抱き起こした。駆けつけた男衆に命じて三階の私室まで月梅を慎重に運ばせ、褥に寝かせたしばらくしたところで医者が来た。
 半刻後、医者が帰った後、香月は茫然と月梅の小さな顔を見つめていた。
 医者の診立ては、心ノ臓の発作であった。幸いにも今回は発見と手当が早く、大事には至らなかったものの、次に大きな発作が起きたときには生命の危険もあり得るとのことだ。
「だから、あんなに注意したのに」
 スングムには用心した方が良いと。いや、と、香月は首を振る。月梅がスングムをあんなにも無防備に信用したのは、あの娘が香蘭にどことはなしに似ていたからに相違ない。
 今回の失態は、月梅の心の隙間を埋められなかった我が身のせいでもある。
 掛け衾(ぶすま)から月梅の手がはみ出している。香月はか細い手をそっと握り、布団に戻そうして思わず熱いものがこみ上げた。
「お義母さん、ごめんなさい。私が香蘭の代わりになれれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。私なりに頑張ったんだだけど、やっぱり、無理だったみたい」
 大粒の涙が溢れ出し、月梅の手を濡らした。
 ふと、香月は眠っているはずの月梅の手が逆に香月の手を撫でているのに気づいた。
「お義母さん?」
 香月が勢い込んで呼べば、月梅がうっすらと眼を開いていた。
「あたしもどうやら焼きが回ったかねえ。たかがこれしきのことで気を失っちまうなんざ」
 いかにも女将らしい物言いに、香月が泣き笑いの表情で言った。
「ここのところ大変なこと続きだったもの。かなり無理もしていたし」
 月梅がか細い声で呼んだ。
「香月や」
 香月は膝をいざり進め、月梅の血の気の無い白い顔を覗き込む。
「なあに、お義母さん。喉が渇いたなら、お水でも飲みますか?」