ある日、洗濯物をベランダで干し

室内に戻ると

1号がドヤ顔で立っていた


いやいやあんたさっきまで転がってたじゃん

しかも、あんたまだ生後5ヶ月でしょう!


さすが1号ちゃん!

なんでも早いわあーと義母は喜んでいたが

これはとあることのフラグだった


このように立ったり歩き回ったりが

早かった1号は

義母の命令のもと

盛大な一歳の誕生日を迎え

一升餅を背負い

平気な顔でしたした歩き回り

幼児へと変身した


この幼児

見た目は可愛く

異常に人懐こい


めちゃくちゃ喋る

とにかく誰にでも話しかける


しかも走り出すことチョロQのごとく

一瞬で見失う


必死で探すと大抵は見知らぬジジババと

話し込んでる


「いい子ねえ❤️」なんて言われるけど

こっちはそれどころではない

叱れば

「こんな可愛い子を叱らないで」と

あたいが逆に見知らぬジジババに叱られたりする


アメやらチョコレートやら

仏壇系菓子やらおにぎりやら

鏡餅やらお惣菜やら

果てには現金まで

1号のリュックには

見知らぬ方の善意が詰め込まれていた


親とすれば怖いことよ


だからあたいはライチョウのお話を聞かせた

ライチョウの雛は

ライチョウのお母さんが警戒の声を上げると

その場で石のふりをしなきゃいけないんだ

そうしないと空から鷹がきて

攫われちゃうからね


1号もお母さんの声が聞こえたら

石になること


鷹に攫われるからね


と謎の説教で

1号は止まることを覚え


盲導犬のドキュメンタリーを見て

あたいが後ろに手を組んだら

手を繋ぐ

というという盲導犬ごっこで

ご近所でも評判の

あたいのデカく通る声が聞こえると

戻ってきて手を繋ぐようになった


育児というより訓練だな


そして相変わらず食は細く


好物は

メロンとウナギ

というイヤな食生活を求めるお子様になった


言っておくけど

あたいは1号が嫌いだったわけではない

今のおばあちゃんになったあたいからみれば

1号はさぞかし可愛い子だったろうと思う

外野から見ればね

でも当事者のあたいは必死だったのよ


なににって?


死なせない為よ


車に轢かれないよう

他人に攫われないよう

病気にならないよう


子育ての最終目標は大人にすることです


あたいは自分が幸せでない

幼少期を過ごしてきたくせに

1号に手をあげてしまう

怒鳴ってしまう


そして義母はほぼ毎日あたいを呼びだし

無尽蔵におもちゃを買い与え

デパートでうなぎを食わせ

買ってきたマスクメロンを食べさせ

1号を手懐けた


あたいはこのままだと

あたいのためにも

1号のためにも良くないと思い

一月生まれだけれど

幼稚園の年少組から入園させることを決めた


もちろん義母は反対したけど

(早生まれなのにかわいそう)

かわいそうなのはあたいだわと思って

スルーした