【妄想小説】ビューティフルドリーマー | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

大野先輩のお話の

続きの物語です。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

頭痛い。
もうずっと。

眠れてないし。
胸の奥がそわそわして、
鼻の奥がつーんとして。

ふとした瞬間に
涙がぽろぽろ止まらなくて。

”それ花粉じゃない?”

昨日美術室で

成田先生ににそう言われたけど、

 

ちがう。ちがう。
断じてちがう。

眠れないのは
胸の奥が痛いのは
涙が流れるのは…

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

教室から見下ろしてる窓の外は
明日の準備で忙しそう。

赤と白の幕、立て看板、
運んでる先生たち。

明日なんて来なくていい。


春なんて来なくていいのに。
ずっとずっと来なくていい。

仰げばー尊ーしー♪

わが師ーの恩~♪

遠くから聞こえる
合唱部の歌声。

「………」

何も考えたくない。

 

頭痛い。

鼻の奥がつんとする、

ふとしたら涙が出てくる。


もうずっとずっとずっと。

仰げばー♪

「仰ぐなっ」

尊しー♪

「尊ぶなっ」

わーがーしーのー♪

「…和菓子食べたいな」

「ぶふっ!笑」

誰もいなかったはずの教室に
突然声が聞こえたから。

 

びっくりして振り向いたら
松本くんのきれいな笑顔。

「和菓子食べたいってなんだよ。笑」

「い、いいでしょ別に」
 
まさか誰かに聞かれてるとは
思ってなかったからちょっと恥ずかしい。

「彼女さんと待ち合わせ?」

「うん。まだ時間あるから。
お前も待ち合わせでしょ?」


「…うん」

窓から差し込む、
夕暮れのひかり。

あかるくて、あったかくて、
心地いい。


「今日はお互い、
最後の待ち合わせだね。笑」

「ああ…そっか。そうだな」


明日卒業してしまう人を。


松本くんは彼女さんを
わたしは大野先輩を…
待ってる放課後。
image
過ぎないで。
終わらないで。

どんなにそう願っても、
過ぎていってしまう、時間。
 
刻一刻と迫ってる、別れの時間。


「合唱部の練習って
なんで仰げば尊しなんだろう」

「いや明日卒業式だから普通でしょ」

「卒業なんてシステム誰が決めたの?」

「ええ?笑」

「いらないよ、卒業システム」

「おいおい」

「しない、卒業」

「…………」

「大野先輩…
卒業しないでほしい」


黙って聞いてた松本くんが
ぱたぱたとまばたき。

相変わらず、
長くてきれいなまつげと
凛々しいまなざし。

この期に及んで
まだそんなこと言ってんのこいつ、
って呆れてられてる気がして
バツが悪いけど。

でもほんとの気持ちだから。
卒業なんてしないでほしいから。

大野さんを、想う。

陽だまりの中で
ふんわり笑う顔。

はにかんだみたいな
かわいい声。

今日は少し、
お疲れモードかな?とか。

「おはよう」って毎朝
必ず聞かせてくれた声が。

大好きで、
大好きで、
大好きで。

幸せな日々が、
終わっちゃうなんて。
 

「………っ」

 

ひとつひとつ、思い出して
思わず視界が揺らぐ。

ぶわっと浮かんでくる涙。

恥ずかしい。
泣きたくなんてないのに。


仰げばー♪

「仰ぐなっ」

尊しー♪

「尊ぶなっ」


ごまかすみたいにまた
合唱部の声に
ツッコミ入れてみるけど。


わが師のー恩ー♪


「……ぐすっ」


こらえきれずに涙がこぼれる。


ずっとずっとずーっと、
一緒がいい。

この校舎の中で。
小さな世界で。

毎朝くれる「おはよう」が。
毎日見える場所にいてくれたことが。

どんなに、
どんなに幸せだったか。


「ここで会えなくなるだけじゃん」


しっかりした松本くんの声。


「新しい未来が
待ってるんじゃないの?」

「…そうだけど」


そんなことわかってる。
わかってるけど、でも。


「今まですっごく幸せだったから」

「この幸せが
ずっとずっと続けばいいのになって
思っちゃうんだよ」


変わってしまうこと。

それがこわい。


「10年後も20年後も
今と変わらない未来?」


「え?」

「変わらない未来なんて
意味あんの?」


「………」


わかってる。
わかってる。

そんな世界は、
ありえない。


「幸せな時間は
終わってほしくないの」

「………」

「100年先も
愛を誓ってほしいんだよ、
女子は…」

「誓うよ。そんなの当たり前でしょ」

「え?」


松本くんのまっすぐな目。

いかにも、これまでもずーっと
愛を誓ってきました、みたいな、
まっすぐ揺るぎのない、強い目。


「変わらないよ」

「卒業したって変わらないよ、愛は」


「………」
 

そんな簡単なこともわかんないの?
なんて言いたげな笑顔。

ぽろっとまた、
涙が落ちる。


哀しい涙じゃなくて…
ほっとした気持ちになって、
こぼれた涙。


”愛は変わらない”

そのことに
疑いがあったわけじゃないけど。

”終わり”を意識しすぎて、
心細かったのかな。


松本くんの言葉が
胸にじんわり沁み渡る。


「わかんないよ?
未来なんてわかんないけどさ、」



ふわっと風に揺れる
松本くんの前髪。


「信じることが全てでしょ」

「…うん」


そうだね。
そうだよね。

幸せな未来を信じよう。


「ああっ!?
…あっ、おいっ!マツモトー!」



ふたり同時に振り返ったら、
目をまんまるにしてる大野先輩。
 
すたすたすたっ!
とそばまでやってきて、
松本くんから守るように
肩に回されるしっかりした右腕。


「なに泣かしてんだよっ」

「ええっ!?
オレなぐさめてたんだけど。笑」


「なんで?なんで泣いてた??」


心配してくれてる大野先輩に。
大好きな大好きな、優しい声に。
今度は嬉し涙がぽろぽろ。


「大野先輩」

「ん?」


今日までずっと、
幸せな毎日をありがとう。
卒業…おめでとう。

「これからも、
よろしくお願いします」

ぺこっと頭を下げたら。

「うん。もちろん」

ふわっと優しく
包まれる感覚。

ふわふわ優しい、
大好きな笑い顔。


制服は最後だけど、でも。
これからも。
きっと100年先だって。

ずっとずっと、
大好きです、大野先輩!



(初出:2017.3.27)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

読んでいただき
ありがとうございました。
 
2017年の春、
さとラジが終わるのが哀しくて寂しくて
書いたお話だったんですけど、
 
今の気持ちにも
重なる部分あるなと思ってます、
最後にReborn出来て良かったです。
 

明日からの最終回ふたつ、
振り返ればとっても寂しいけど、
ちゃんと見届けられたらな。
 
最後まで読んでくれてありがとう、
感謝です!