【妄想小説】優しい雨(15) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

<第15話>

雨と傘

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

雅紀くんと過ごせる時間は

すごくすごく幸せ。

 

会う日が決まって、

その日がくるまでのドキドキ。

 

会えた時の嬉しいときめき、

目と目があった時のドキドキ…

 

そういうの全部、

雅紀くんに出会って、

初めて知った感情。

 

これまでだって、

彼氏がいたことはあったし

好きだなって思う人も

もちろんいたけど。

 

雅紀くんは他の誰とも違う。

 

こんな感情は初めてって

会うたび思う。

 

ときめきが溢れて、嬉しくて、

愛おしいような感情。

 

”ヒカリのことそんな簡単には

忘れらんないと思う”

 

本音を聞いた、お祭りの夜。

 

あの日からますます、

雅紀くんへの想いは、

深くなった感じがする、不思議だけど。

 

切なくなる瞬間もあるけど、

でもそれ以上に、

心の内側を見せてくれた雅紀くんが

愛おしくて、大切で。

 

お祭りの日から、

手をつなぐのだけは、

会うたび毎回、いつも。

 

雅紀くんが

さっと手をとってくれると、

ぎゅっと手を握ってくれると…

 

このままもっと、

距離は近くなっていって。

 

わたしが思い描いてる未来が、

すぐ来るような気がしてくる。

 

”いつか”

 

今はまだ、それだけで。

すごくすごく、幸せな気持ち。

 

image

「オレも今日は

かなり買い物しちゃったなー」

 

「ふふふ…笑

ふたりともセールに

夢中になっちゃったよね」

 

「夏物80%OFFとかさ、

すごい値段だったもん。笑」

 

「ほんとほんと。笑」

 

「もうすぐ3時だし、

お店入ってちょっと休憩しよっか」

 

「うん。そうだね」

 

手をつないだまま、のんびりと歩く。

 

路面店のディスプレイに

また目線を引っ張られたりして、

楽しいお買い物デート。

 

「さっきのワンピース、

買わなくて良かったの?」

 

試着してみたものの、

散々迷って結局やめた、

明るい緑色のワンピース。

 

「んー…」

 

「すげー似合ってたのに」

 

「ほんとに…?

そう言われたらやっぱり、

欲しくなってきたかも」

 

「じゃあお茶したら、

またあのお店まで戻ってみる?」

 

ぴかぴかの笑顔で

優しく見つめられたら、

胸がキュンと高鳴っちゃう。

 

ノースリーブのワンピース、

買わなかったのは。

 

真夏向けのデザインで

今年はもう出番がなさそうだなって

思ったからなんだけど。

 

来年の夏もあるなら…

買ってもいいのかな。

 

来年の夏もこうやって、

雅紀くんと過ごせたら。

 

欲しい未来。

思い描く、未来。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「…あ、雨?」

 

カフェを出たら、

パラパラと落ちてきた雨の粒。

 

あっという間に本降りになる。

 

雅紀くんとわたしの間、

ゆっくりと通り抜ける風が

ヘンに暑くて…

急にちょっと、心細い気持ち。

 

「ここで少し雨宿りしようよ。

きっとすぐに止むから」

 

カフェの軒先、

邪魔にならない位置まで移動して

高い背と並んで立つ。

ふわり、さわやかな香水の香り。

 

サーーーー

 

雨脚が強くなってきた空を見ながら、

手をつなぎたいなって思って、

腕を伸ばしかけた、その時。

 

ピリリリリリ

ピリリリリリ

ピリリリリリ

 

「ん?電話?…誰だろ」

 

ポケットから取り出したスマホ、

画面に表示された文字を見て

雅紀くんの表情がさっと変わる。

 

”ヒカリ”

 

その一瞬で、

世界の色が変わる。

世界が…変わってしまう。

 

ピリリリリリ

ピリリリリリ

ピリリリリリ

 

「………、」

 

「雅紀くん出て」

 

「…でも、」

 

「ヒカリさんからでしょ、早く!」

 

イキオイに押された雅紀くんが

スマホを耳に当てる。

ヒカリさんに繋がる回線。

 

「…もしもし」

 

ドクンドクンドクン

ドクンドクンドクン

 

いつかこんな日が来ること。

どこかで覚悟してた気がする。

 

「ヒカリ…?どうしたの?

泣いてちゃわかんないよ」

 

「………」

 

「謝らなくていいから。

ちゃんと話して」

 

こんな未来が来ること、

心のどこかで…

 

「もしもし、ヒカリ?…切れた」

 

サーーーー

 

耳に、雨の音。

変わる世界の色。

 

「雅紀くん早く!」

 

「…え?」

 

深刻な表情の雅紀くんの

大きな手をぐっと握って、

雨の中を駆け出す。

 

「ヒカリさんのところに行って!」

 

行かないで。

行かないで。

 

「早く行って!」

 

行かないでよ、雅紀くん。

 

サーーーー

 

大粒の雨が降る中、

急いでタクシーを止める。

 

きっと今、

わたしの心はバラバラで。

 

割れて砕けたガラスみたいに、

わたしの想いはバラバラで。

 

でも間違ってないって

これがいちばんいいんだって

それだけは確信していて。

 

「雅紀くん」

 

「………、」

 

「大好きだったよ、雅紀くん」

 

強く握ってた雅紀くんの手、

ぎゅっと引っ張って。

 

わたしに向き直ろうとする

優しい背中を、

ぐっとタクシーに押し込む。

 

「離しちゃダメだよ、雅紀くん」

 

「…手を離しちゃダメ」

 

わたしの手はそっと、

雅紀くんから離れる。

 

何度も繋いでくれた手。

大きくて温かかった、

大好きなその手を離す。

 

離れた手のひらに、

はらはらと落ちてくる雨の粒。

 

”きっとすぐ止むから”

 

さっきの雅紀くんの言葉通り、

目線の先に見えてる

向こう側の空は、明るい。

 

きっと雅紀くんが行く先は…

明るい光が浮かぶ空。

 

バタン

 

タクシーのドアが閉まる。

 

車が動き出す瞬間、

雅紀くんのくちびるが動いて。

 

わたしはちゃんと、

その言葉を受け止める。

 

”ありがとう”

 

声は聞こえなかったけど。

 

ありがとうって

動いたくちびるを見送って、

雨の中で。

 

こらえきれずに

ぽたぽた落ちてくる涙。

 

「うっ…うっ、雅紀くん……」

 

タクシーが見えなくなっても

立ち尽くしたままで。

 

ただただ涙が、

頬を伝って、流れる。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「うっ、うっ…、」

 

泣くなよ、なんて

ひとこともいわない潤くんが。

 

電話ですぐに

駆けつけてくれた潤くんが。

 

差し出してくれる傘の中で

やっぱり涙は止まらないままで。

 

「偉かったじゃん」

 

小さく響く潤くんの声。

 

「ちゃんとSOS出してくれて、

すげー嬉しいよオレは」

 

ぽつぽつぽつぽつ

 

わたしのことを守るように、

しっかりと傾けてくれてる

紫色の傘の中で。

 

今日までのこと、

ヒカリさんのことを全部全部、

吐き出すように、話す。

 

ずっと黙って、

聞いてくれた潤くんは。

 

「…オレは今、

”雅紀くん”の気持ちが

世界でいちばん、よくわかるよ」

 

呟いたと同時に、

わたしの体を抱き寄せる。

 

「潤くん、」

 

初めてこんな風に

潤くんに強く抱き寄せられて、

びっくりして戸惑うけど…

 

「いいよ。ちゃんと泣け。

オレが全部受け止める」

 

「……うっ…うー…っ、」

 

大丈夫って

言ってくれるみたいに

背中を撫でてくれる潤くんの

広い胸の中。

 

降り続いてる雨、

しっかり強い傘の中で、

ぐっと包み込まれたままで。

 

ただただ今は、

涙が止まらない。

 

 

<第15話>

雨と傘

 

(最終話へつづく)

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読んでいただき、

ありがとうございます。

 

明日、最終話です。

最後もどうぞ、

よろしくお願いします(^^)