【妄想小説】優しい雨(14) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

<第14話>

幸せ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「向こうの出店まで行ってみる?」

 

「うん」

 

繋いだ手をしっかりと

離さないように。

 

雅紀くんと離れないように、

きゅっと力を込める。

 

大きな手のひら、

節ばった長い指に、

包み込まれて安心する。

 

前からの人波を

避けるように。

 

わたしがぶつからないように

ちょっと前を歩いてくれる

雅紀くんの高い背。

 

カランコロン

履きなれない下駄の音。

 

今日おろしたばっかりだから

鼻緒の部分がちょっと痛いけど。

 

”似合ってる”

 

さっきの言葉を思い出して、

また胸がキュンと高鳴る。

 

屋台で何か買っちゃったら

手、離さなきゃダメかな。

できればこのままでいたいのにな…

 

さっきからずっと、

そんなことばっかり考えて。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「わ……すごい静かだね」

 

「でしょ?穴場なんだよここ」

 

大きな神社の裏側、

坂になった道の小さな木陰。

 

「さすがに人多かったよねー」

 

大きな、すべすべの石に

慣れた様子で座る雅紀くんの隣に

わたしも腰を下ろす。

 

「痛たたた…」

 

「ん?下駄痛いの?大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。平気。

ね、たこ焼きおいしかったね」

 

「うまかったよね?

めちゃめちゃ熱かったけど。笑」

 

「もうお腹いっぱい。食べ過ぎたー」

 

「ほんと。食った食った。笑

帰り、入口のとこの屋台で

ヨーヨー釣りしよっか?」

 

「うん!楽しみ」

 

遠く向こうに

祭囃子の賑わいを聞きながら、

静かな場所で雅紀くんとふたりきり。

 

こんな夏デートができるなんて

ひと月前は、思ってなかったな。

 

出会った春の日から

今日までのいろんなこと。

思い出して胸の奥がツンとなる。

 

「雅紀くん」

 

「ん?」

 

「ここのお祭り来たの、いつぶり?」

 

「あーどんぐらいだろ。

4、5年ぶりくらいかな」

 

遠くどこかを見てる横顔。

 

ぽつんと頼りない街灯の光が

雅紀くんの横顔に影を作る。

切ないような、優しい瞳。

 

「その時はヒカリさんと来たの?」

 

「……うん」

 

知らなくていいことなのに。

知ったってしょうがないのに。

 

結局そう聞いてしまうわたしに

困った顔で笑う、雅紀くん。

 

ちりちり、足が痛い。

鼻緒が擦れた部分が痛い。

 

「最初に会った日。

ヨコとうちに来た時にさ」

 

「わたしが初めて

雅紀くんの家に行った日?」

 

「うん。ヨコが寝ちゃって、

ずっとふたりで話してた、あの夜に」

 

はじめましてから

たったの数時間で。
 

胸がそわそわ、

落ち着かなかったことを思い出す。

 

「あの日、」

 

「”雅紀くんって呼んでもいい?”

って言われた時オレ」

 

「………」

 

「ヒカリのこと…思っちゃって」

 

「………」

 

「オレのこと”雅紀くん”って呼ぶの

あいつだけだったから」

 

痛い。痛い。痛い。

痛い。痛い。痛い。

 

ズキズキ胸が痛いよ。

 

「ずっとオレ、めちゃくちゃでさ。

来るもの拒まずっていうか…うん

そんな状態だったんだけど」

 

つきあいたての、彼女の影。

落ちてたピアス、揺れる色。

 

「”雅紀くん”て

すげーひさびさに…そう呼ばれた時。

何やってんだろって

こんなんじゃダメだろって思って」

 

胸はズキズキ、痛いけど。

知りたかった気持ち、聞かせてもらえて

嬉しい気持ちもある。

 

 

「……オレやっぱり」

 

「ヒカリのことそんな簡単には…

忘れらんないと思う」

 

 

遠く向こうに

提灯の小さな灯り。

 

夜の闇の中で

ぼんやり灯ってるオレンジ色。

 

 

「でも…でもこの先オレちゃんと、」

 

「いいよ雅紀くん」

 

「…え?」

 

「今はまだ…なにも言わないで」

 

 

誰にでも優しく

心を開いているようで

実はいちばん

心に鍵をかけてた雅紀くん。

 

その扉を少しだけ、

開けてくれたならもう、

今はもうそれだけでいい。

 

「いつかでいい」

 

「いつかちゃんと、

そう思える日がきたら、」

 

「その時がきたら、聞かせて欲しい」

 

ちゃんとそう思った時に。


その時に聞かせて。

わたしのことが好きだって。

 

「それまでは今まで通りに、

こうやって会ったり、して欲しいの」

 

「………」

 

「ダメかな」

 

「……うん。わかった」

 

 

小さく頷く雅紀くんの

横顔の影。

 

影はやっぱり、寂しげで。

横顔は切なくて、儚い。

 

雅紀くんの心の中。

 

いつか。

 

ヒカリさんとの思い出よりも、

わたしとの未来で

いっぱいになってくれたら。

 

ずっとそう願ってるけど。

ずっとずっと、願ってるけど。

 

 

ピロン!

 

静かな夜の空気に、

鳴り響くLINEの着信音。

 

 

「”お兄ちゃん”からLINE?

…潤くん、だっけ」

 

「うん」

  

 

潤:おーい。生きてんのか?

 

潤:(近江屋のチーズタルトの写真)

 

潤:ひとりで全部食ってやったぜ!

 

 

「………」

 

 

”お前が幸せなのがいちばんだから”

 

 

潤くんに言われた言葉、

思い出したら胸がぎゅっと痛い。

 

幸せ。

 

幸せってどこにあるんだろう。

 

わたしの幸せは、

雅紀くんの幸せは…

どこにあるんだろう。

 

 

<第14話>

幸せ

 

(第15話へつづく)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

m(__)m

 

読んでいただき、

ありがとうございます。

 

来週完結します。

幸せとは。

(なんて難しい問題!)

 

チーズタルト、

全部食べたじゅーんが

かわいいね…かわいすぎるね…

 

また来週、

どうぞよろしくお願いします(^^)/