【妄想小説】優しい雨(5) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

<第5話>

取りに行く

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「こっちの指…

すっごいチカラ入ってる。笑」

 

「入ってない入ってない…!」

 

焦ってる顔、かわいすぎる。

 

 

「雅紀くん…泣いてるの?」

 

「な、泣くわけないじゃん」

 

きれいな瞳、うるうる潤んでるけど。

 

 

「じゃあこっちのカード、引いてもいい?」

 

「………」

 

「相葉ちゃんバレバレやで?笑」

 

「ヨコ余計なこと言わないでよ!」

 

 

横山さんに気を取られてる

雅紀くんの右手から

さっとカードを引いたら、案の定。

 

「やったー!また勝ちました♪」

 

「あーもーー!なんでー??泣」

 

左手に残った忌々しいジョーカー、

ぴたんと額に当てて天を仰ぐ姿。

 

ババ抜きが弱い雅紀くん…

かわいすぎる!!萌えすぎる!!笑

 

 

もう負けそうって時に一瞬見せる

怯えたような表情はたまらなくて、

負けちゃったあとの悔しそうな顔は

すっごセクシーで、すっごくかわいくて。

 

雅紀くんのレアな表情、

くるくる変化するかわいい顔が見たくてつい、

ババ抜きしようよって提案しちゃう。

 

ほんのり酔ったあたま、

幸せな時間。

image

最初の日からもう何度もこうやって

週末の夜を過ごしてる、雅紀くんのおうち。

 

いつも横山さんも一緒だし

特に進展あるわけじゃないけど。

 

それでもこうやって

一緒の時間を過ごせてることだけで

じゅうぶん嬉しくて。

 

 

楽しい時間を過ごせば過ごすほど、

気持ちは膨らんでしまうけど。

ひっそり心の中だけで

思ってるぶんには、問題ないよね…

 

 

「はーもう、どっと疲れた。

ちょっと休憩しよ」

 

「相葉ちゃん弱すぎやんな。笑」

 

「ヨコだって今日2回負けてるじゃん!」

 

それくらい負けるのは普通やって。

アシちゃんが異常に強いねん。

アシちゃんずっと負けなしやろ?

なんやねん、かわいい顔して」

 

「ふふふ。どーも♪」

 

わたしから見たら

ただただ2人が弱すぎるんだけど。

ババが回ってきた時は2人とも

わかりやすすぎてバレバレだし。笑

 

「なんかハラ減んない?」

 

「減った減ったー。

コバラ減ってきたわ。

相葉ちゃんなんか作ってよ」

 

「特製チャーハン作る?

あ、でもこの時間じゃもう重たいか」

 

「そーだ、

特製チャーハンと言えばさ」

 

テーブルの上のトランプ、

かき集めながら横山さんが言う。

 

「こないだアシちゃんと行ってんで。

相葉ちゃんの店」

 

「え?そうなの?」

 

「取引先からの帰りに、

ちょっと寄ってみよか言うて。な?」

 

うん、と頷いて、

雅紀くんをチラリ。

 

「でも店員さんに聞いたら、

今日は休みや言われてなあ?」

 

「あー、オレ休みの日だったんだ」

 

「ただただオシャレな店で、

2人でただただオシャレなランチ食って

帰ってきただけになったんよな?」

 

「うん。笑」

 

「オレめちゃめちゃ

チャーハンの口やったのに。笑」

 

「ごめんごめん!」

 

「いや別に謝らんでええよ」

 

「でもせっかく来てくれたのにさ」

 

「それは全然、ええんやけど。

気になったことあって。なあ?」

 

うんうんうん

 

トントントン

 

わたしが何度も頷くのと

横山さんがトランプを整える音が

シンクロする。

 

「メシ食うてたらさあ、

”相葉さんいますか?”って

入ってきた女子がおって」

 

「女子?」

 

「しかも3人も!」

 

「…………」

 

「相葉ちゃんを求めて

次々と現れる女子!

あれびっくりしたわー。なあ?」

 

同意を求める横山さんが

わたしの顔を見てるけど。

 

思い出したら胸がシクシクと痛くて、

頷くことを忘れてしまう。

 

びっくりした。

びっくりしたよ。

 

入ってきた女性は3人とも

年齢も雰囲気もバラバラだったけど、

 

”相葉さんいますか?”

 

雅紀くんに会いに、

お店に来たことだけは明白で。

 

どういう関係かなんて

全然わかんないけど。

 

もしかして全員に

チャーハンの約束してるのかな、とか

考えてしまったら胸が痛い。

 

「相葉ちゃんなんなん?

モテモテなん?」

 

「全然そんなんじゃないよ。笑」

 

モテモテでしょうが、どう考えても。

 

「いつも来てくれる

常連さんだと思うよ?たぶん」

 

それは雅紀くんがいるから

足繫く通ってるのでは?

 

雅紀くんがいるお店だから

常連になっちゃったんじゃないの??

 

「相葉ちゃんカッコええから、

看板男子なんやろなー」

 

「そんなわけないじゃん。笑」

 

「そんなわけあるよ、なあ?」

 

うんうんうん!

 

今度は力強く頷く。

 

「相葉ちゃん優しいから

女子はすぐその気になるんちゃう」

 

そーだそーだ!

雅紀くんは優しいから!

勘違いしちゃうよ。

 

「女子はみんな

相葉ちゃんのこと好きになるやろ?」

 

そーだそーだ!

みんな雅紀くんのこと

好きになっちゃうよ。

 

 

すごくすごくカッコ良いのに、

すごくすごく、優しいから。

 

太陽みたいなピカピカの笑顔、

目じりにくしゃっとシワを寄せて

ニコッと微笑まれたら誰だって、

 

「………、」

 

ふと、我に返る。

 

 

それって、わたしも一緒だ。

わたしだって、おんなじじゃない…

 

 

「雅紀くんそんな、

色んな人に優しくしちゃダメだよ。

彼女いるんだから」

 

 

思い切って届けた言葉だったけど

横山さんの大きな声で空気が変わる。

 

 

「相葉ちゃん彼女おるん!?

え、なんで?なんで彼女?」

 

「ヨコ声デカイよ。

夜中なんだから静かにしてよ。笑」

 

「いや、だって、

彼女って……いつできたん」

 

「この春だよ。いいでしょ別に」

 

「どーせあれやろ。

フリーならつきあって、とか

ぐいぐい押されて断れんかったんやろ」

 

「………

 

「相葉ちゃんそーゆーの、

絶対断れんもんなー。わかるわ」

 

「もーいいでしょこの話は。笑

オレなんか軽く作ってくるから」

 

話は終わり、とばかりに

立ち上がった雅紀くんが

キッチンに消える。

 

 

この春。

この春できた、彼女…

つきあってまだ3ヶ月くらいってこと?

 

 

「…押しに弱いとこあるからな」

 

アゴに手を当てた横山さんのつぶやき。

 

「まあそーゆーとこも、

優しいっちゅーことになるんかなぁ…」

 

幼なじみの横山さんが、

まだ知らないレベルの”彼女”なら。

 

雅紀くんから積極的に

彼女のことが好きな雰囲気を

感じないこと、辻褄があう。

 

 

もしかして。

もしかしたら…

 

 

わたしが彼女になれる可能性、

もう何度も何度も考えたことを思う。

 

思ってしまったらもう、

気持ちにブレーキなんか、

かけられなくなってしまうよ。

 

 

「雅紀くん。わたしもなんか手伝う」

 

小走りで近づくイキオイにまかせて、

シンクの前にいた雅紀くんに

ピッタリとくっつく。

 

とても”友達”のレベルじゃない

近すぎる距離に

わたしが不意に入り込んでも、

雅紀くんは咎めない。

 

ぐっと筋肉質な腕に

隙間なく触れてる、わたしの体。

 

 

「じゃあこれ、一緒に皮剥こっか。

蒸し玉ねぎ作ろうかと思って。

食べれるでしょ?」

 

「うん。食べたい。

蒸し玉ねぎ、ヘルシーでいいね」

 

「あー痛てー…涙出てきた。

玉ねぎしみるーー笑」

 

「ふふ…雅紀くん、じっとして?」

 

 

ぐっと背伸びをして。

親指で目元にふれる。

 

触れた肌の熱い体温と、

涙の粒を感じる指先。

 

 

「雅紀くん泣いてる。笑」

 

「うん。今はほんとに泣いてるね。笑」

 

 

わたしの手が届きやすいように

身体を少し屈めて、

顔を近づけてくる雅紀くん。

 

このままキスしても

おかしくないくらいの距離感。

 

近づき過ぎてる、身体と体。

 

無防備にこんなこと。

ねえ、雅紀くん。

 

 

どうしてこんな風に…するの?

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

 

「じゃ、ここで。

お疲れさまでしたー」

 

「はいはいーお疲れさん」

 

会社のエントランスを出て

横山さんと別れたところで

かばんの中の電話が鳴る。

 

 

ピリリリリリ

ピリリリリリ

 

 

「潤くんかな」

 

ノー残業デーの水曜日だったし、

図ったようなタイミングだったから。

 

スマホを取り出して

表示されてた名前を見た瞬間、

心臓が飛び出しそうになる。

 

 

≪雅紀くん≫

 

 

ドキドキドキドキ

ドキドキドキドキ

 

電話が来るなんて初めてだったから、

ドキドキが止まらない。

 

「もしもし、雅紀くん?」

 

「うん。突然電話してごめんね、

今大丈夫?」

 

「うん、大丈夫。仕事終わって、

ちょうどさっき会社出たとこなの」

 

「そっか。お疲れさま」

 

「…ありがとう」

 

横山さんの”はいはいーお疲れさん”も

それはそれで癒されるけど、

好きな人からの”お疲れさま”は

全然違うな、なんて考える。

 

 

「雅紀くん今日はお休み?」

 

「うん。休みなんだけどさ」

 

「?」

 

「掃除してたら、ピアス見つけて。

テーブルの脇に、落ちてて」

 

「…ピアス?」

 

 

ドキドキドキドキ

ドキドキドキドキ

 

「もしかしてこないだうちに来た時、

落としたりしてないかなって」

 

「………」

 

「落としてない?」

 

ドキドキドキドキ

ドキドキドキドキ

 

 

「彼女、ピアスじゃないからさ」

 

「………」

 

 

ピアスの穴が空いてない、

彼女の耳を、想像する。

 

つるんとしたきれいな耳たぶに

雅紀くんのくちびる。

 

薄いくちびるから

赤い舌がのぞく。

 

そのまま耳に寄せられる、

濡れた赤。

 

 

何度も何度も

柔らかく撫でる雅紀くんの赤い舌…

 

 

ドキドキドキドキ

ドキドキドキドキ

 

 

ぐるぐる渦巻く妄想の中。

触れあう肌と肌は誰のもの?

 

 

「雅紀くん。今から行ってもいい?」

 

「え?」

 

「取りに行きたいなって…いいかな」

 

「……うん。いいよ」

 

 

ドキドキドキドキ

 

 

取りに行く。

 

好きな人を、雅紀くんを。

 

 

…取りに行く。

 

 

「いいよ。待ってる」

 

 

 

 

<第5話>

取りに行く

 

 

(第6話へつづく)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

m(__)m

 

読んでいただき

ありがとうございます(^^)/

 

うふふふ♡

楽しくなってきましたね…

取りに行きます。

奪いに参りますわよ雅紀くん!!

 

次回もどうぞよろしくお願いします。

 

いろいろ大変な状況です、

よいタイミングで、

気分転換になっていたら

とってもとっても嬉しいです。

 

今週もお疲れさまでした。

来週も共にがんばりましょね。