帰り道。
翔くんと並んで歩く、夜の街。
「なんか今日は…飲んだな。
ひさびさにちょっと酔ったかも」
「風邪治って初?酒飲んだの」
「うん。初。
だからけっこう回った気がする」
「全っ然変わってねーけど?」
顔をのぞき込む翔くんが
いたずらな顔で笑う。
「あーわたし、
酔っちゃったみたーい」
「ふはっ。やめろやめろ。笑」
ポケットに両手を突っ込んだまま
楽しそうにツッコミ入れる翔くんが
ちょっとにくたらしい。
いつもみたいに
大笑いしながら楽しく飲んで、
飲み過ぎた。
あの夜のことに…
全く触れないで話し続ける
わたしと翔くんが、
自分たちのその雰囲気が
ヘンに気になってちょっと、
飲み過ぎた。
あの夜のことなんて
よくよく考えなくても
話題にできるわけないんだけど。
どうして抱きしめたの?
どうしておでこに、
頬に…キスしたの?
そんなこと直球で
聞けるはずもないし。
「水飲む?」
「うん。飲む」
ガゴン!
自販機で買ってくれた
ミネラルウォーターを受け取る。
「…んー冷たい。おいしー」
「ちょうだい」
さっと奪われるペットボトル。
あっという間に翔くんが口をつける。
もう何度、
こうやって1本のペットボトルを
2人で飲んできたんだろう。
ごくごくごく、
大きく動くのど元、
飲み口全部くわえるみたいに
ぐっと形をつくる赤いくちびるに、
ずっとドキドキしてるのに。
ずっとずっと、
ドキドキしてるのに。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
人の多そうな駅前を避けて
裏通りに入ったら静かな道。
少し静かな夜の道を
二人並んで歩く。
相変わらず
ポケットに入れられたままの
翔くんの両手。
つながれることなんてない
わたしの手。
この距離感がわたしたち。
酔ったアタマに
小さく吹く夜の風が心地いい。
「翔くんはなんか、」
「ん?」
「すっかり大人ーって感じだね」
「は?なんだよ急に。笑」
「こないだの朝、
うちでスーツに着替えてたでしょ。
あの時あらためて思ったの」
「ネクタイしてる姿とか…
大人の男の人だなーって」
風邪でまだ、
少しぼーっとした頭で見てた、
翔くんのスーツ姿。
朝の光の中で、
キュンと胸が高鳴ったことを
思い出す。
ふと隣に視線を向けたら、
やっぱりスーツの似合う翔くんが
柔らかく笑ってて、
夜の空の下の今も
同じくキュンと胸が高鳴って。
「大人だなーって、
そりゃあまあ大人だからね。笑」
オレたちいくつだと思ってんのって
言いたげな表情にわたしも笑う。
「そうなんだけど。
なんかいつのまにー?って感じだよ」
「中身は全然
変わってねー気がすんだけど」
「ふふ…うん。わたしも」
見上げた目に映る真っ暗な空。
夏の夜の切ない匂い。
「あれ…?
「そうそうそう。
ここ夜すげーキレイでさ」
「わ!ほんとだ。
広い公園の真ん中に、
ライトアップされてる大きな噴水。
水しぶきを上げるたびに
いろんな色に光ってきれいで、
思わず声が出る。
赤、青、黄色…
水の動きと一緒に
ザーーッって噴きだす、
涼しい水の音。
「すごいキレイ」
「ふっ。サプライズ大成功」