【妄想小説】502〈12〉 | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

帰り道。

 

翔くんと並んで歩く、夜の街。

 

 

「なんか今日は…飲んだな。

ひさびさにちょっと酔ったかも」

 

「風邪治って初?酒飲んだの」

 

「うん。初。

だからけっこう回った気がする」

 

「全っ然変わってねーけど?」

 

顔をのぞき込む翔くんが

いたずらな顔で笑う。

 

「あーわたし、

酔っちゃったみたーい」

 

「ふはっ。やめろやめろ。笑」

 

ポケットに両手を突っ込んだまま

楽しそうにツッコミ入れる翔くんが

ちょっとにくたらしい。

 

いつもみたいに

大笑いしながら楽しく飲んで、

飲み過ぎた。

 

あの夜のことに…

全く触れないで話し続ける

わたしと翔くんが、

 

自分たちのその雰囲気が

ヘンに気になってちょっと、

飲み過ぎた。

 

 

あの夜のことなんて

よくよく考えなくても

話題にできるわけないんだけど。

 

 

どうして抱きしめたの?

どうしておでこに、

頬に…キスしたの?

 

そんなこと直球で

聞けるはずもないし。

 

 

「水飲む?」

 

「うん。飲む」

 

ガゴン!

 

自販機で買ってくれた

ミネラルウォーターを受け取る。

 

「…んー冷たい。おいしー」

 

「ちょうだい」

 

さっと奪われるペットボトル。

あっという間に翔くんが口をつける。

 

もう何度、

こうやって1本のペットボトルを

2人で飲んできたんだろう。

 

ごくごくごく、

 

大きく動くのど元、

飲み口全部くわえるみたいに

ぐっと形をつくる赤いくちびるに、

 

ずっとドキドキしてるのに。

 

ずっとずっと、

ドキドキしてるのに。

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

 

人の多そうな駅前を避けて

裏通りに入ったら静かな道。

 

少し静かな夜の道を

二人並んで歩く。

 

相変わらず

ポケットに入れられたままの

翔くんの両手。

 

つながれることなんてない

わたしの手。

 

この距離感がわたしたち。

 

 

酔ったアタマに

小さく吹く夜の風が心地いい。

 

 

「翔くんはなんか、」

 

「ん?」

 

「すっかり大人ーって感じだね」

 

「は?なんだよ急に。笑」

 

「こないだの朝、

うちでスーツに着替えてたでしょ。

あの時あらためて思ったの」

 

「ネクタイしてる姿とか…

大人の男の人だなーって」

 

風邪でまだ、

少しぼーっとした頭で見てた、

翔くんのスーツ姿。

 

朝の光の中で、

キュンと胸が高鳴ったことを

思い出す。

 

ふと隣に視線を向けたら、

やっぱりスーツの似合う翔くんが

柔らかく笑ってて、

 

夜の空の下の今も

同じくキュンと胸が高鳴って。

 

「大人だなーって、

そりゃあまあ大人だからね。笑」

 

オレたちいくつだと思ってんのって

言いたげな表情にわたしも笑う。

 

「そうなんだけど。

なんかいつのまにー?って感じだよ」

 

「中身は全然

変わってねー気がすんだけど」

 

「ふふ…うん。わたしも」

 

振り返ったらそこにいるのは
14才のわたしたちで、
翔くんもわたしも制服で、
 
あの日と今が繋がってること
それがなんだか不思議な感じ…

 

 

見上げた目に映る真っ暗な空。

夏の夜の切ない匂い。

 

 

「ときどきちょっと、
ヘンな感じがするときある、
翔くんとお酒飲んでることが」
 
「ああ、なんかわかるわ」

 

「門限気にしないで、
こうやって夜歩いてることとかも
考えたら大人になったなーって」
 
「ふはは。確かに確かに」
 
キラキラきらめく灯り、
にぎわう街の中で。
 
スーツがすごく似合ってる翔くんと
たくさんお酒を飲んだから。
 
…酔いが回っちゃったのかも。
 
ふわふわ酔ったアタマが
ヘンなこと言ってるかなって
ちょっと思うけど。
 
とりとめもない話をしながらの
夜のお散歩みたいな
こんな時間がすごく嬉しくて。
 
 
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
 
 
しばらく歩いたら目の前に
大きめの公園が現れてびっくり。

「あれ…?
この道、公園に出るんだね?」

「そうそうそう。
ここ夜すげーキレイでさ」


「わ!ほんとだ。
すごい!!…キレイ」

広い公園の真ん中に、
ライトアップされてる大きな噴水。

水しぶきを上げるたびに
いろんな色に光ってきれいで、
思わず声が出る。

赤、青、黄色…
水の動きと一緒に
どんどん変わる色。

ザーーッって噴きだす、
涼しい水の音。

「すごいキレイ」
 
「だろ?けっこういいスポットだから
店から近いしどうかなって思ってて」
 
ちょっと得意気なドヤ顔。
 
「…テキトーに
歩いてるんだと思ってた」

「ふっ。サプライズ大成功」
 
小さくつぶやいて
照れくさそうに笑う表情に
どうしようもなく気持ちが高まる。
 
「サプライズだったの?」
 
「うん。まあ。笑
夜のデートっぽいかなって」
 
赤、青、黄色、
次々色が変わってく
大きな噴水の色。
 
「お前は相変わらず、
“お詫びのごはん”とか
LINEそっけなかったけど」
 
「これは夜のデートだろ?笑」
 
ふざけた雰囲気で言う翔くんに
うまく言葉が返せない。
 
デート。
 
デートなら…
 
デートって言うなら
やっぱりちゃんと、
気持ちをつないでほしい。
好きって言葉にして欲しい。
 
”早く告白しちゃえって!”
 
雅紀に言われたとき
そんな簡単に言えないよって
自分だって思ったのに。
 
翔くんには言って欲しいって
思ってしまう。
 
 
好きって言葉を。
好きって言ってくれたら…
 
 
「…………」
 
 
わたし勝手だな。
 
勝手な自分に、自己嫌悪。
 
きゅうにぽろんと
涙がひと粒こぼれてきて、
びっくりして焦って、
あわてて拭う。
 
翔くんが
少し前を歩いててよかった。
涙に気づかれなくてよかった。
 
スーツの背中。
見つめたらぎゅっと
胸が痛くて、苦しくて。
 
酔ってる。
 
思ってる以上にきっと、
お酒が回ってる。
 
酔ってるってことにしないともう、
ただただ気持ちが溢れてもう、
ますます涙が出てきそう。
 
”14からの幼なじみで”
 
何気なく言われたさっきの言葉、
思い出したらきゅうに
気持ちが弱くなる。
 
 
「このあとどうする?」
 
「え?」
 
「うち来る?」
 
「………」
 
「明日休みだし、
うちで飲み直す?」
 
 
いつもと全然変わらない翔くんに
ううんって首を大きく横に振って。
 
 
「今日は、帰る」
 
「……そ?」
 
 
うん、って頷いて、
視線を外す。
 
 
ザーーッって
大きな水しぶきの音。
 
 
赤、青、黄色、
次々色が変わってく…
大きな噴水の光る色。
 
 
(初出:2018.7.30)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
【小ネタメモ】
この公園は
日比谷公園をイメージしてます。
(実際の噴水は光らないかもだけど)
 
「これは夜のデートだろ?笑」
 
状況証拠を重ねたい翔くんが
かわいすぎる愛おしすぎる…!
と思いながら書いてました(^^)
 
「うち来る?」のお誘いを
そっけなく断られてしまった翔くんですが
櫻井の逆襲までもうあと少しです。
(帝国の逆襲みたいに言いたかった)
 
金曜日おつかれさまでした!
明日もどうぞよろしくです(^^)/