【妄想小説】502〈4〉 | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

「今は曇ってるけどもうすぐ晴れるよ」

 

運転しながら

フロントガラス越しの空に

ちらっと目を向ける横顔。

 

「ほんと?晴れるの?」

 

けっこう雲厚い気がするけど…

 

「晴れる晴れる。

だってオレ晴れ男だし」

 

「えー?」

 

「いやほんとのこというと、

天気アプリで

雨雲レーダー確認した。笑」

 

「そうなの?笑」

 

「そうそう。横浜方面、

雲ないの確認済でーす」

 

わざわざ天気確認したなんて…

翔くんも今日、

楽しみにしてくれてたのかな。

 

”横浜デートっつーことで”

 

ふたりで出かけること、

今までもたくさんあったけど。

 

”デート”なんて。

 

翔くんがそんな風に言ったのは

初めてだったから。


デート。

 

意識しちゃったら恥ずかしい。

恥ずかしいんだけど…

 

「珍しいよね、ワンピース」

 

「…!!!言わないで!」

 

ああもう。

やっぱり突っ込まれた。

恥ずかしい…

 

「ふはは。いやいや。

いいよ。嬉しいよ。だって、」

 

 

「デートなんだからさ。笑」

 

 

ちょっと甘い翔くんがくすぐったい。

 

何気なく”嬉しい”なんて

くすぐったくてたまらない。

 

どうしてこんなに、

胸がぎゅっとなるの。

 

ドキドキしてる気持ち、

隠すみたいに、助手席から

窓の向こうを見つめて。

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

 

「あ、海!!」

 

「見えてきた?」

 

海が見えてくるのと同時に、

青い空も顔を出して。

明るく差してくる太陽の陽射し。

 

「きれい。波がキラキラ」

 

「ほらな?

だから晴れるって言っただろ?

なんたってオレは晴れ男だから」

 

「ふふふ…うん」

 

流れる景色、海の色。

 

「今日は、せっかくのドライブなんで」

 

「?」

 

「DJショウサクライが、

今日のためのプレイリストを

作成してきました」

 

「DJショウサクライ?笑」

 

ちょっとドヤ顔の翔くんが

左手でぴっと

カーステレオの再生ボタンを押す。

 

♪~

 

「…!!

これ…ミスチルの、」

 

流れてきた軽快なイントロ、

ひさびさに聞くその曲に思わず、

声が出たら。

 

「愛想なしの君が笑った~

そんな単純なことでついに~♪」

 

ハンドルを握る翔くんの、

楽しそうな歌声。

 

「シーソーゲーム!」

 

「懐かしくない?

オレらが14の頃の曲だよ」

 

「懐かしい!」

 

懐かしい。

一気に記憶がよみがえる。

 

蒸し暑い古い校舎。

制服の白い開襟シャツ。

 

ホコリっぽい校庭で

サッカーボールを蹴る翔くんの…

14歳の翔くんの姿。

 

「こないださ、

部活の先輩の話してたじゃん。

それで思い出して。

95年リリースの曲で、

プレイリスト作ってみましたー」

 

「DJショウサクライ!

最高すぎるでしょもう!笑」

 

「サンキューサンキュー」

 

照れくさそうに笑う顔に、

胸がきゅっと高鳴る。

 

♪~

 

ぐんぐん流れてく景色。

ぐんぐん辿ってく…記憶。

 

 

「このミスチルのCDを、」

 

「お、やっぱ覚えてる?」

 

 

覚えてるよ。

覚えてるにきまってる。

 

 

「CDを…翔くんが貸してくれて」

 

「そうそうそう。

たぶんアレきっかけで

ちゃんと話すようになったっつーか」

 

「仲よくなったよねオレら」

 

 

ちょうど今くらいの季節だった。

夏がはじまるころ。

 

中学2年だったわたしたち。

 

”オレCD持ってるよ”

”え?ほんとに?”

”貸してやろうか”

 

暑い暑い教室。

ガタガタ鳴る机、硬い椅子。

 

ぼんやりと…

まだぼんやりとしてた、

淡い淡い恋心。

 

 

「恋なんて♪」

 

「いわばエゴとエゴの♪」

「いわばエゴとエゴの♪」

 

「シーソーゲーム♪」

「シーソーゲーム♪」

 

「お~おおお~おおおお♪」

「お~おおお~おおおお♪」

 

「ふっはっはっ。

息ぴったりかよ!笑」

 

「あはは!笑」

 

車の中でふたりっきりなのに。

大きな声で歌って笑って。

 

雅紀が見てたら

また甘い雰囲気になんないの?って

あきれられるかも。

 

でもこの関係が

やっぱりどこか心地よくて。

それはきっと翔くんも。

 

 

「すげーよな、

出会って20年以上経つとかさ」

 

「うん…そうだね」

 

 

全然変わらない気がするのに。

ちゃんと時間は流れてる。

 

 

「今だから言うけど。

高校離れてちょっと疎遠になった時、

さみしかったな」

 

「……あー、」


翔くんは男子校に進学して。

サッカー部も忙しそうで。

高校時代がいちばん、

会わなかった3年間。

 

「茶髪にピアスで

すっごくチャラくなってたし」

 

「ふははっ。笑」

 

 

一度だけ。

 

サッカーの試合を

こっそり見に行ったことを、

思い出す。

 

会いたくてわざわざ、

見に行ったのに。

 

たくさんの友だちに囲まれて、

楽しそうな翔くんに

結局声を掛けられなかったこと。

 

思い出してチクンと

胸が痛む。

 


「オレは男子校だったし

まあ…思春期だったし?笑」

 

「なんか恥ずかしいっつーか、

そういう時期だったんじゃない?」

 

「思春期とか言う?笑

ちゃっかり彼女作ってたくせに?」

 

「いや!あれはなんつーか

すげー積極的に押されて、

まあ…なんていうか、」

 

「っつーかお前だって。

野球部の先輩とつきあってたやん。笑」

 

「それは、」

 

それは翔くんに、

彼女ができたって知って。

ショックだった時にたまたま、

たまたま告白されたからで…

 

雅紀曰く。

 

わたしと翔くんは、

タイミングがあってなかっただけ。

 

疎遠だった高校時代に、

お互い別の人とつきあってからの

長い長い間。

 

どっちかに相手がいる状況が

結局ずーっと続いてて。

お互いがフリーなのは、

ここ2年の話。

 

”いつつきあうの!今でしょ!”

 

林先生の手ぶりを

マネする雅紀が目に浮かぶ。

 

”初恋でしょ?”

 

そうだけど。

 

”翔ちゃんにとっても初恋だよ?”

 

…そうなの?

 

 

♪過ちを繰り返す人生ゲーム

シーソーゲーム~♪

 

流れてるミスチル。

流れてく景色。

 

 

「………」

「………」

 

ドキドキドキ

 

ハンドルを握ってる翔くんは

あの頃よりずっと大人で、

すっかり素敵な男性で。

 

きれいな横顔を、

ちょっとだけ見つめる。

 

 

伝えたい気持ち、

たくさんたくさんあるのに。

 

結局いつも…

言葉にできなくてもどかしい。

 

今、こんなに近くにいるのに―

 

 

「この夏はさ、」

 

「いろんなとこ行こう」

 

「え?」

 

「この夏はすげーいっぱい、」

 

「デートしようぜ?笑」

 

 

やっぱりいつもの

ちょっとふざけた言い方だけど。


 

1歩。

 

翔くんが踏み出してくれて

嬉しくて胸が高鳴って、


 

「…うん」


 

小さな声で頷いたら、

窓の向こうに広がる、横浜の街。

 

 

(初出:2018.7.9)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 


【小ネタメモ】

積極的な人にグイグイ押されて

なんとなく付き合ってしまうっていうのは、

思春期の真理な気がするよね…笑


初恋同士のふたりの横浜デート♡

再放送の方も初めて読むよ!な方も

明日の第5話もどうぞよろしくです(^^)


日々のざわざわに

気持ちもなかなか落ち着かないけど

毎日がんばっててエライよ!お互いに!

(積極的に自分も褒めてくスタイル)


できることをできる範囲でこつこつと、

共に乗り切りましょね。