【妄想小説】Rain on you | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

Rain on you

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「服、乾いてきましたか?

新しいタオル持ってきましょうか」

 

カウンターの向かい側から

店主さんが気遣ってくれる声。

 

「大丈夫です。

ありがとうございます」

 

ザーーーー

 

窓の向こうは

強く降り続いてる雨。

 

「タオル助かりました。

ほんとに…すみません」

 

「いえいえ全然。

どんどん使っちゃってください」

 

「こんな天気に

お客さん来ていただいて、

こちらとしてはありがたいんで。笑」

 

コーヒーポットを傾けながら

ニコッときれいな笑顔。

 

ザーーーー

 

傘を差しても意味が無いくらいの

ひどいひどい大雨。

 

お店に入ったときは

びしょ濡れだった服も髪も。

 

店主さんが出してくれた

ふかふか柔らかいタオルと

エアコンからの暖かい風で

少しずつ少しずつ、乾いてきてる。

 

 

「どうせ今日はもう、

誰も来ないだろうから…

ゆっくりしてってください」

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

~♪

 

静かに流れてるジャズは

店主さんの趣味なのかな。

 

優しいピアノの音を聴きながら

大きな窓の向こう、

降り続く雨を見てる。

 

雨、雨、雨

雨、雨、雨…

 

 

初めてのあの日も

雨、雨、雨ー

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「二宮くん傘は?」

 

「持ってないよ」

 

「持ってないの?」

 

「だってお前の傘に

入れてもらえるでしょ」

 

「わたしの傘アテにしてたの?笑」

 

「そりゃそうだよ。

今日はずっと一緒だし、」

 

「おんなじとこに帰るんだから」

 

 

大きな木の下から

ひょいとわたしの傘に

身体を滑り込ませてくる大好きな人。

 

冷たい雨を

ひらりと避けながら。

 

まっすぐに

わたしの傘の中に飛び込んでくる

大好きな大好きな人。

 

 

ひとつの傘の中で。

きゅっと肩を抱いてくれる腕。

 

 

からだをぎゅっと包みこまれて…

二宮くんは”男の人”なんだって

すごくすごく、意識して。

 

 

「ほんとに今日、

泊まりにいっていいの?」

 

「…うん」

 

「オレ、するよ?」

 

「…………」

 

「今日はもう、」

 

「…………」

 

「たぶん我慢とか…

もう出来ないと思うから」

 

 

ザーーーー

 

春の終わりの、6月の雨。

 

雨雲のグレーは

二宮くんの色。

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「痛かった?」

 

「痛かったよ…すごく」

 

「ふふっ。笑」

 

「もー…なんで笑うの?」

 

「だって嬉しいから」

 

 

「オレが、

お前のハジメテのオトコに…

なれたわけでしょ?」

 

 

狭いベッドの中でくっついて。

 

まっすぐ見つめられるのが

嬉しくて恥ずかしくて。

 

優しい手のひらの感触が、

髪を撫でる温かさが。

 

嬉しくて嬉しくて、幸せで。

 

 

大好きな男の子。

 

はじめて触れた、

自分とは違うしなやかに硬い身体。

 

肌の熱さ、匂い。

 

 

はじめての男の子。

 

 

わたしにたくさんの…

愛おしいはじめてをくれた人。

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

~♪

 

 

「あの」

 

「はい、なんでしょう?」

 

コポコポコポ

 

店主さんの手元から

ふわふわの湯気、いい香り。

 

「そこの通りの角に、

大きな木があったと思うんですけど」

 

「ああ…樫の木。

ありましたありました」

 

コポコポコポ

 

「あれいつだったかな…

何年か前に伐採されちゃって」

 

「伐採」

 

「大きくなりすぎて

枝が歩道に伸びて危ないとかで」

 

「…そうですか」

 

「この辺りに住んでたんですか?

あの木のこと、知ってるってことは」

 

「…はい。

すぐ向こうの大学に通ってて。

もうかなり昔の話ですけど」

 

「あそこの卒業生でしたか。

大学もついこないだ建て替えて、

新しくなってますよ」

 

「そうみたいですね。

久しぶりに来たら、

街もずいぶん変わってて、

びっくりしました。笑」

 

ザーーーーー

 

窓の向こうは降り続いてる雨。

 

 

あの日の面影はもう

ひとつも残っていない街に

降り注ぐ雨の音。

 

「お待たせしました。コーヒーです」

 

「ありがとうございます」

 

 

いい香り。

 

ひと口飲んだら、

温かさにホッとする。

 

きりっと苦い、コーヒーの味。

 

 

”コーヒー苦手なんだよなー”

 

 

ちょっと高めのかわいい声。

声のトーンを思い出す。

 

 

思い出すのは。

二宮くんのことばかり。

 

出会ったばかりの、

雨のあの日の―

 

雨の色がとても似合う、

優しい瞳の大好きな人の姿。

 

 

「なんか思い出とか、

あったりするんですか?」

 

「え?」

 

「あの木に」

 

カウンターの向こうの

店主さんの柔らかい笑顔。

 

 

わたしを全然、

知らない人だから。

 

気持ちをぽつりと言葉にする。

 

 

「付き合ってた人と…

よく待ち合わせた場所だったんです」

 

きっと誰かに、

聞いてほしかった気持ち。

 

ぽつりぽつりと言葉にする。

 

 

「初めて、好きになった人で」

 

「すごくすごく…好きだった人で」

 

 

ザーーーーー

 

 

「2人で会う時はよく

今日みたいに雨が降ってて」

 

「あの木の下でいつも…

雨宿りをしてたので」

 

「それは大切な思い出ですね」

 

大切な思い出。

確かにそうかもしれない。

 

そうかもしれないけど。

 

「でもここまでの長い長い時間に、

いろんなことがあったので、」

 

「いい思い出ばっかりでも

ないんですけど。笑」

 

「憎たらしい!って

思うこともあったり?笑」

 

「ふふ…そうですそうです。笑」

 

 

いろんなことがありすぎて。

いろんな感情がありすぎて。

 

愛おしさと同じくらい、

哀しい気持ちも味わった。

 

たったひとつの恋。

 

たったひとつの、

”はじめて”を捧げた、

幼い春の日の恋心。

 

あれが春なら…

 

今のこの気持ちは、

さみしい秋か、凍えそうな冬か―

 

「いいなって思いますよ?」

 

「え?」

 

「そんな風に、

大切な人に出会えるなんて」

 

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

 

「どんな人だったんですか?」

 

店主さんも

マグでコーヒーを飲みながら

リラックスした雰囲気。

 

「聞かせてくださいよ。笑」

 

「んー…どんな人、

そう言われると難しいな」

 

どんな人。

二宮くんはどんな人だったんだろう。

 

 

「彼とわたしの

好きなアーティストがいて」

 

「新曲がラジオで

初めて流れるって日があって」

 

「うんうん」

 

ヘンな話かなって思いながらも

興味津々に聞いてくれるから、

続ける。

 

「そのラジオ番組を

彼が録音してくれて…

当時は、カセットテープで」

 

「カセットテープかあ。笑」

 

「DJの人が”新曲です”って

曲紹介するところも一緒に

入ってたんですけど」

 

「ああ、ラジオだから」

 

「録音したその部分を…

聞くたびにいつも、」

 

 

”どんなに時間が経っても、

カセットテープの中では

この曲は新曲であり続けるんだよ”

 

 

「そういうことを言うような…

ちょっと変わった人でした。笑」

 

「…へえ」

 

「ごめんなさい、ヘンな話」

 

「いや。すげーいい話です」

 

店主さんが

まっすぐ真剣な表情で

そう言ってくれるから。

 

ちょっと救われた気持ちになる。

 

「永遠に新曲って表現…

すげーロマンチックですね」

 

なんだかすごく恥ずかしくて、

でもすごくすごく、嬉しくて。

 

コーヒーをまた、ひと口。

 

ロマンチック。

 

確かに二宮くんは

ロマンチックな人だったかも。

 

”好きだよ”

 

案外気持ちはまっすぐに

届けてくれたり。

 

”この曲は新曲であり続ける”

 

彼独特の不思議なロジック。

 

 

言われてみれば

すごくロマンチックな考え方だな…

 

 

”どんなに時間が経っても”

 

 

雨、雨、雨の中でー

 

 

「まだ止みそうもないですね」

 

「ああ…ほんと」

 

 

人生に降る雨の中で。

 

たったひとり、

心の中に居続ける人。

 

わたしの希望の傘の中にいる

大切な、たったひとりの人。

 

たったひとりの、

二宮くんは―

 

 

「結婚するんです」

 

「え?」

 

「その彼が…

結婚するって聞いて」

 

「居ても立っても居られなくなって、

今日この街まで来てしまって」

 

 

外はまだ降り続いてる雨。

 

 

「もう何年も会ってないんですけど」

 

「きっともう…

会うこともないんですけど」

 

 

もう会うことがなくても。

 

たったひとり、

心の中に居続ける人。

 


ザーーーーー

 

 

「ふっ…

自分は結婚してるクセに

なにいってんだって思ってます?笑」

 

左手薬指の指輪。

見えるように手を見せながら、

ごまかすように笑ったのに、

店主さんは真面目な表情。

 

 

「そんなこと思ってませんよ」

 

まっすぐな、真剣な声。

 

「大切な気持ちは、

それでいいと思います」

 

 

思わず瞳が潤みそうで

コーヒーカップをじっと見つめる。

 

今日は偶然…

ここに来れて良かった。

 

行き場のなかったこの気持ちを

聞いてもらえて良かった。

 

 

「コーヒー良かったら、

おかわりどうですか?

ごちそうします」

 

「でも、」

 

「オレももう1杯飲みたいんで。

良かったらつきあってください。笑」

 

「じゃあ…お言葉に甘えて。

ありがとうございます」

 

 

カラララン

 

 

「松潤タオル―!」

 

「わ、翔さん?

すっげ。ずぶ濡れじゃん。笑」

 

 

雨粒を豪快に滴らせながら

お店に飛び込んできた人。

 

常連さんなのかな、

勝手知ったる雰囲気で、

カウンターの中まで入ってく。

 

 

「あーーっ。さむさむさむっ」


「はい。タオル」

 

「サンキューサンキュー」

 

「こんな雨ひどいんだから、

わざわざ来なくていいのに」

 

「いやいやこんな雨だからこそ、

松潤の淹れたコーヒーが

飲みたくなったんだよ」

 

「まあそれは…嬉しいけどさ。笑」

 

 

わいわいしてる雰囲気の中で

ひとりそっとスマホを取り出す。

 

ずっとずっと、

消せなかった連絡先の

新規メール作成画面を開いて。

 

 

『結婚おめでとう』

 

 

ピッ

 

 

イキオイにまかせて送信したら、

すぐに受信ランプが光る。

 

ブーンと震える受信音に

胸がドクンと強く打つ。

 

 

ピッ

 

 

タップした画面に届いたのは

シンプルで無機質な文字。

 

 

”送信できませんでした”

 

 

「…ははっ。笑」

 

 

届かなくて良かった。

 

 

おめでとう、なんて

心にもない言葉。

 

 

届かなくて良かった。

 

 

ザーーーーー

 

外はまだ、降り続いてる雨。

 

 

”連絡先を削除しますか?”

 

ピッピッピッ

 

”削除しました”

 

 

雨、雨、雨の中で。

 

二宮くんを思い出す。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

【2020/4/30追記】

二宮さんがご結婚される

約1年前に書いたものなのですが

自分にとって特別なお話なので

ここに残しておきます。

 

読んでいただき

ありがとうございました(^^)