餃子で街おこしを試みる地域は数あれど、福島の餃子のように街の文化の一つとして育まれてきた餃子は意外と少ないかもしれません。また、福島の餃子は、日本人の餃子の概念とやや異なる特徴があり「好き」「嫌い」がはっきりと分かれる餃子の一つかもしれないなと思います。福島の餃子を絶賛する人がいる一方、福島の餃子を思いのほか酷評する人も少なからず存在します。そのような人の感想に特徴的なものは以下のようなものが多いようです。

(1)味が薄い(2)肉感がない(3)ご飯(ライス)がない(4)油っぽい(5)量が多い

これらは、日本の餃子が戦後独特の発展を遂げる中、日本人の餃子に対する固定観念によるものと思われます。餃子の本場、中国の東北部では古くから、餃子は米に代わる主食として発展してきており、日本のようにご飯やラーメンと一緒に供されるおかずとしての位置づけとはやや違います。粉モノの主食として基本的には皮を食するのが本来の餃子の姿で、基本的に水餃子として提供されます。

上記の福島の餃子に対する批判的な評は裏を返せば、本物の餃子(中国)に対する批判的な評ともいえるのではないかと思うことがあります。それは福島の餃子の特徴が中国のそれと似ているからです。

(1)味が薄い…中国の餃子はニンニクは内包せずたれとともに後付けが基本。ニンニクやニラなどがたっぷり内包した日本の餃子を基本とした味覚にはやや薄味に感じられるかもしれない。
<福島では>※ニンニクは後付けが基本。

(2)肉感がない…中国の餃子は野菜が中心で特に白菜が用いられる。肉が多めでキャベツを多く使う日本の餃子はそういう意味で独特な存在である。この肉中心の餡から臭みけしとしてニンニク・ニラなどを内包する形が発展したモノと思われる。
<福島では>※白菜が基本のほぼ野菜中心。

(3)ご飯(ライス)がない…主食なので当然です。むしろ、中国人からすれば、餃子をおかずにライスを食べる日本人が奇異に映るそうである。
<福島では>※基本夜のおつまみなので居酒屋にご飯がないと一緒でご飯のない店も多い。

(4)油っぽい…薄皮でカリっと焼き上げるのが日本式餃子。中国の焼き餃子はもちっと皮厚めの水餃子に用いる餃子を満州式の平鍋で焼き上げた「鍋貼」と言われる料理に当たる。しかし、正直あまり本土ではメジャーではない。(むしろ台湾などに多く見られる)皮が厚めのものを焼き上げるので多くの油を要し油も比較的含みやすい。
<福島では>※皮を厚めに油多めで丸い平鍋で焼き上げるのが特徴。

(5)量が多い…中国で餃子を頼むと、20~30個が供されるのが普通。日本のような肉多めの餃子ではなく主食としておかずとともにさらっと食べられてしまう。
<福島では>※20個~30個1皿もしくは人数分×〇個を一皿という形式。

中国の餃子と福島の餃子と日本の一般的な餃子の比較を単純化し下記にまとめてみました。

当然、餃子も多様ですから特徴をとらえてまとめているだけで以下に当てはまらない例も少なくはありませんが、福島の餃子は比較的中国の餃子のオーソドックスな姿に近く、日本の一般的な餃子からは離れたところにあるのがわかります。

 

 

中国(東北地方)

福島の餃子

日本の一般的

形状

水餃子

焼・水餃子

焼餃子

野菜

白菜

白菜

キャベツ・白菜

ニンニク薬味

別添

別添

内包

厚い

やや厚め~厚め

薄い


中国に行くようになり、現地で餃子を食すようになったときに福島の餃子文化について少し理解できたような気がしました。それは本場の餃子が私たちが普段食している餃子と違い上記のような特徴があったからです。お店の歴史を見てますと、福島の餃子も系譜をたどれば満州にその原点があることが記されています。餃子自体中国から伝わったものですから日本の他の餃子も源流をたどれば中国にあるはずです。それが福島人の性質ともいうか、比較的生真面目にそれを守り続けていく中で愛され発展してきたのだろうと思います。



(写真)大連市(中国)大清花餃子店・水餃子・鍋貼

福島の餃子のまた一つの特徴としては、お酒のおつまみととしての位置づけが大きいことです。餃子は中華料理店やラーメン店にて提供されるのが一般的で、福島のラーメン屋さんにも餃子はあるのですが、私がここで話す「ふくしまの餃子」とはこれとはちょっと違ったものが多くなります。

子供の頃、連れてってもらったいくつかの餃子屋さん(飲み屋さん)の餃子の印象は今でも強く記憶に残っています。それは家族でフラッと行くようなお店ではくオヤジが集ういわゆる飲み屋さんで供されているものでした。父が行きつけの店に飲みに行く際に餃子を食わせてやるよと連れて行ってくれる時のみ食べられる特別な餃子でした。その餃子は、自宅で母が作る餃子ともラーメン屋さんで出てくる餃子とも全く違うもので、餃子ってこんなに美味しいんだという感動の思い出として残っています。


福島は夜の餃子だとお言われているそうです。近年、観光客用に昼も営業するお店もチラホラ出てきましたが、基本は夜オンリーです。ごはんのおかずには成らなかった伝統的スタイルを継承する福島の餃子もお酒のお供にはぴったりだったようです。

専門店はもちろん焼き鳥屋で、ホルモンやで、居酒屋でそれぞれ餃子がメニューの一つとして供されそれぞれにファンがいました。「自分は〇〇の餃子が好き」は福島では酒飲みのセリフです。

福島の餃子の特徴は、「円盤型」という単なる形ではなく、このような福島の餃子の守り育ててきた独特のスタイルにあります。生真面目な料理人と酒好きな住人が育んできた独自の餃子のスタイル。是非、そのような背景も含めて福島の餃子の魅力を多くの人に知ってほしいなと思います。(つづく)