「舟」
2012-03-11 21:36:29
http://ameblo.jp/meganesian/entry-11189545988.html
「舟」
天使は日付を踏みつけた。
裸足で、泥足で。
強く、荒々しく。
日付は問うた。
「なぜこのようなことをするのか」
「なぜ?お前のためだ」
天使は精悍なる態度で答え、そして続けた。
「私の足跡をつけよう。
お前を踏みつけることで。」
日付は恐怖し、声を荒げ、訴えた。
「私はあなたに踏みつけられるなど断じて拒む。
私は立ち、歩き、足跡を付ける。
前へ、前へと進む足跡だ。
そして私は自らの口で語り続ける。
私について。
そして訴えるのだ。
私を愛してくれと。」
天使は答える。
「なにを語るというのだ。
お前について?
お前は何者なのだ。
お前は何を知っているというのだ。
お前は何を見たというのだ。」
「私は―」
日付は言葉を失った。
「お前が何を、どれだけ語ろうと、お前の声は私には届かない。
お前は、あらゆる理解を、理性を超えているのだから。
もはや言葉などという陳腐な手段は通用しない。
だから私は、お前を踏みつける。
今日だけではない。
これからも、お前を踏み続ける。
そしていずれか、お前は私の汚れた足跡で真っ黒になるだろう。
お前は、もはやその原形を完全に失うだろう。
だがその時、
お前に刻印された、いかなる操作からも逃れた、本当の記憶の存在が、
汚い足跡にまみれた、真っ黒な塊が、
灰のように、存在の痕跡のみを語ることだろう。
確かに存在したと。」
fait date(時代を画する)ほどの重大性を持つ出来事が起きた時、
fait date(日付が生まれる)。
出来事の存在を告げるために。
霧立ち込める湖。
一隻の舟がやって来る。
渡してくれるのか?
自らの体を犠牲にして
以前と以後とに切り裂かれた私たちの生を。