知らぬ間に人類は目を閉じると月に行けるようになっていた
月では人の姿はなくて、声もなくて、文字だけが溢れていた
けれど、我々賢き人類
文字があれば十分だ
気が付けば月で遊ばぬ人はいない世界
地上から人が減った
地球の重力に耐えかねたらしい
ある頃から、月の重力は軽すぎると居場所を失う人が現れた
今度は火星に住居を移した
目を閉じ、口を閉じると火星に行けたから
火星には声と文字があり、多くの人が喜んだ
木星、土星、天王星
地球から離れる程に理想の自分になれるなんて噂が流れた
苦しさから逃れるように、居場所を探すように、目を閉じ、口を閉じ、耳を塞いで人類は遠い、遠い場所へと旅をする
けれど、君はどこかから泣きながら電話をしてきた
「どこに行っても、上手く踊れないの」と
「それはしょうがないよ」
僕は答える
「だって君も、地球で立ちあがることすらできなかったじゃないか」
君はまた旅に出た
「理想の姿を手に入れてやる」と冥王星まで
車椅子に座りながら、空に向かって大きく手を振る
冥王星に行くために折った足がひどく傷んだ
けれど吸い込む空気は心地よく、ゆっくりと友の手を借りて立ち上がる
目を開き、見上げる地球の青い空はとても綺麗だった