こんなに長い時間雨が降ったのはいつぶりだっただろう

日が昇る前。まだ、待ち灯りがきらめく窓をわたしは開く

 

流れ込むのは、少しだけ暖かい北風

春が来たと口ずさむように時折だけ通り過ぎる

 

こんな空を見るのはいつぶりだろうか

 

アナタがいる街の方を見ながら、煙を吹く

こんな姿を見たらきっとアナタは怒るだろう

 

赤いタバコの炎を空に向ければ、あの日アナタと見た星空のようだと

ああ、なんてこじつけ

 

すべての記憶にアナタがいる

 

アナタを殺せなかった私からメッセージ

私がわたしに残したメッセージ

 

『アノ人を嫌いになって』

 

なんて無茶をいうのだろう

ねえ、もしも再開することがあったらアナタはどんな顔をするのだろう

 

少し暖かい空気

空が白み始める

 

わたしの記憶に強く残る感覚

アナタに会うための朝にいつも感じていた空気

 

始発の電車に乗って、殆ど人がいない冷え切ったベンチに座って、見上げるあの空

揺られる電車の中で眺めた変わりゆく風景によく似ている

 

わたしの変わりはいたけれど、アナタの変わりはいなくて

今のアナタは決してもうしかることはないのでしょうね

 

さくらの花が少しずつ咲き始める

空がすっかり明るくなって、暗闇に隠れられなくなったわたしは窓辺に座り込む

 

雨上がりの朝は暖かいはずなのに

独りにもなれたはずなのに

 

「身体が冷え切って死人のようだ」

 

わたしは呟きながら目をつぶる

自分で自分を抱きしめる

 

もう雨は降らないはずなのに、服が濡れたのはきっと窓辺に残った雨粒の残り

だって、さっきまで雨は降っていたのだから

 

窓を閉めて、わたしは透けた手をみながら笑う

二度と熱を持たない体で笑う

アナタがいる街に背を向けて