自称霊媒師のツレがいる。
なんでもそいつには、他人の前世がはっきりと見えるんだそうな。前世と言やあ、言わずと知れた生まれ変わる前の人生ってことですわね。もとより輪廻転生なんぞ全く信じてない俺にそんなことを告白されてもねぇ・・・。
もともと俺は、良くテレビに出ている霊媒師だか、スピリチュアルナンチャラとか言う連中が、“あなたの前世は中世ヨーロッパのお姫様です”だとか“あなたは戦国武将の生まれ変わりです”だなんて言い切ることに不快感を覚えていた。なぁにを依頼者の自尊心をくすぐるようなオベンチャラ言ってんだかとね。
そこで自称霊媒師のツレが、テレビに出ている連中と同じようなことを言うかどうか試してみた。一緒に飯を食っているときに、“俺の前世はしがない百姓に決まっている”と水を向けたところ、フフンと言わんばかりの顔でツレは言った。
“転生といっても人間に生まれ変わるとは限らない”、“前世は人間じゃない可能性だってある”、“もし君の前世がミトコンドリアとかの下等生物だったらどうする?”と聞いてきた。そりゃもう思わせぶりにね。
それに対して俺は、“ミトコンドリアが俺になったのか! すごい大出世じゃないか!! 進化論のダーウィン様だってビックリだぜ!!!”と返答した。
するとツレは、いささか毒気を抜かれたような顔をしてた。そして、“・・・いや、ミトコンドリアとかじゃないよ。今と大して変わらない”だなんて言ってきた。
そこで、“今と大して変わらんて何だよ、はっきりと言えや!”と迫ると、ツレは俺の前世は女衒(ぜげん)だったと言ってのけた。まぁ確かに大して変わらんわなぁ・・・。
でもな、ツレよ。輪廻転生なんていうもんが現実にあったとしてもだぞ。前世とやらの記憶を引き継いでいなければ、それは生命として連続しているとは言えないのよ。記憶を引き継がないままに生まれ変わったら、そりゃもう赤の他人でしかないわけよ。分かる? 俺の言いたいこと。
そんなさぁ誰も知りやしない過去のことを、ああだこうだと言って能書きたれている暇があったら、ボランティアでもやったほうがよっぽど世のため、人のためだと思うぞ、俺は。