感情のない世界へ行けたら。


哀しみも、せつなさも、嫉妬もない。


そんな世界に行けたら。


そう、時々考える。


たまに。


好きな人の胸に

自分の顔をひっつけて、

好きな人の心臓の音を

目を開けたまま、

密かに聞いてみることがある。


ふと気がついて。


自分の顔を、

好きな人にひっつけたままで、

好きな人の顔を見上げると。


彼もまた、真面目な顔で、

焦点が合っているようで、

合っていないような目で、

一点を見つめていたりする。


この人も、

自分の胸の中いる私ではなく、

他の誰かのことを考えていたりするのかもしれない。


ふと、そう思う。


そう思って、

私は、彼を見上げていたことを

知られないように、悟られないように。


今度は目を閉じて、

彼の胸に自分の耳を押し当てる。


今度は、違う音がするんだろうか。


みんな誰かのことを思っている。


目の前にいる誰かを、

手の届かない誰かを。


悩みや哀しさ、せつなさや苦しみを

胸に抱きながら。


そんな日々は、

死ぬまで一生。


続くのだろうか?