日本の発酵文化がすごいなと思うのは、和食の基本である鰹節も発酵の賜物だから。

実は鰹節には発酵したもの、そうでないものの2種類がある。
最古のかつおぶし(当時は「かつをぶし」)は1513年に種子島に伝わる文書の記載らしいが、当時はただ火をあぶって乾燥させる、焙乾法によるもの。そして江戸時代に初めて焙乾した後にかびづけ(=発酵プロセス)する製法が誕生したと言う。

かびづけ無しの裸のかつお節は酸化しやすく有害菌が繁殖して長期保存出来なかった。かびのおかげで菌の侵入を防ぎ、脂肪分解により酸化を防いだり、うまみ成分のアミノ酸が増して長期保存が可能になった。それが発酵を経た「本枯節」(下記写真)




今日、マーケットには2種類の鰹節(裸節、荒節=発酵してない、本枯節=発酵している)が両方存在している。削り節の袋を良く見ると2種類の名前がある。

1)花かつお(発酵してない荒節を削ったもの)
2)削り節(発酵した本枯節を削ったもの)

言うまでもなく2)削り節が濃厚な味を出すので出汁にはおすすめ、1)花かつおは目的によって活用出来る。例えば、控えめに旨味を加えたいおひたしやおにぎりの具。お惣菜にはぴったり。こちらの方が価格も控えめ、見た目も長くて薄い。

発酵か否かで使い分けるかつお節。奥が深い。



ソウルの若者で賑うショッピングモールの中にキムチ博物館がある。映画館やゲームセンターが併設しているコンプレックスの脇の若干わかりにくい階段を降りていくと静かに博物館の入口がある。1986年のオリンピックをきっかけに設立されたらしい。韓国へ行ったついでに寄ってみたのでキムチについて一言。

韓国を除いてキムチ消費国の第一位は日本。韓国のキムチ総輸出量の85%は日本に来る。さらに日本国内でもキムチ製造されているから、かなりの浸透度を誇る。キムチは”漬物”カテゴリーに入るけれど、他に例を見ないほど原材料の種類が多く、味も最も複雑。

特徴は”五味五色”。五味は”辛、甘、酸、塩(しょっぱさ)、苦”。五味は”青、赤、黄、白、黒”。代表的な白菜キムチも白菜の茎に近い青、トウガラシの赤、生姜やにんにくの黄、白菜の白、発酵の鍵となる塩辛の黒が使われている。流石、バランス食。またトウガラシを始めとする多くのスパイス(生姜やニンニク)や野菜(セリ、ネギ、大根など)が複雑な味わいを演出している。素晴らしい発酵文化。

そもそもキムチの発酵は魚介類の発酵エキスが司る。酵母も麹も加わらない。小エビの塩辛や牡蠣エキスが加わることで自然発酵がすすみ、乳酸や酢酸が形成さえていく。ところが、日本のスーパーでキムチコーナーを見ると”発酵していないキムチ”がたくさん並んでいる。原材料リストを見ても塩辛なども一切使っていない、キムチ味の漬物。本来のキムチとは別物なのに、あたかも同じように売られている。

日本でキムチを買うときは、キムチ風は買わないように気をつけようと思う今日この頃。


能登半島の別名、発酵半島と呼ばれる石川県能登。昨年夏と冬の2回にわたって発酵をテーマに能登半島へ旅をし、日常に溢れる様々な発酵を体験させていただきました。それも心ある能登人との出会いのおかげ。心から感謝している。

そうニックネームがつく所以には、主に穀類、魚類の多種多様な発酵食が能登に根付いているから。食品で最も極端なのは猛毒のふぐの卵巣の解毒発酵して食べる技。見せていただいたいくつかを紹介。

こだわりの日本酒
千枚田で見られるように米どころである能登。また能登杜氏と呼ばれる優秀な人材がいること(杜氏=日本酒の醸造を蔵元から請け負い、蔵人を率いて作業を行う責任者)。日本酒が作られるのはごく自然のことに思う。


私が
訪問した二つの酒蔵、中島酒造と数馬酒造は強い縁で結ばれていることをあとで知った。2007年の能登半島地震で中島酒造の酒蔵が崩壊して仕込んでいた酒がだめになりそうだった時、駆けつけて助けたのが数馬酒造の杜氏だったという。その年、中島酒造の酒の瓶詰めは数馬酒造の酒蔵でおこなわれ、無事出荷にこぎつけたという。このお話は毎日新聞で取り上げられた(2010年10月)

中島酒造。輪島市の朝市通りの近くにある酒蔵。まっすぐな日本酒を作っている印象。「能登の生一本 純米 伝兵衛」については本来、高級な大吟醸を名乗れる条件を満たしているのに、あえて純米酒とすることで、消費者に美味しいお酒を提供出来るようにしているという。杜氏の人柄を表すようなお酒。最近では能登で開発された酒造好種米、石川門を使うなどチャレンジ精神いっぱいの信頼の酒蔵。http://www.noto-suehiro.co.jp/


数馬酒造。明治2年創業の老舗。最近はご子息(多分20代)が東京から戻った。彼は伝統のタスキをつなげるべく頑張りたいと話していて、応援したい気持ちになった。"コメを磨き、蔵を洗う。心を磨き、酒を醸す。"をモットーにした酒造りはさらっと綺麗なお酒という印象。食中酒として和食だけでなく中華にも合いそう。代表的な銘柄竹葉(ちくは)純米吟醸は美味。先日能登の魚醤を使ったいしる鍋と試したが相性抜群だった。
http://www.kazuma.co.jp/
(下記写真:数馬酒造にて。洗米の様子、出来たての米麹)



魚醤油
漢字の通り、ずっと穀類由来の醤油の作り方をベースに原料を替えたものだと思い込んでいた。実は醤油というより塩の分類に近いことがいしるのスペシャリストにあってわかった。醤油の発酵の鍵は麹。魚醤の作成過程ではそれを使わない。魚と塩を仕込んで、魚の内臓に含まれるプロテアーゼという酵素で自然発酵させる、極めてシンプルな工程。その分、匂いもかなり独特。だから料理人は隠し味として、旨みのある塩として、使うことが多いそう。キムチの発酵の鍵は魚の発酵液であるように、影の立役者的存在。


発酵アメ
能登の横井商店の横井ヨシ子さんが作り続けている、米飴。ここ唯一らしい。材料は大麦と米のみ。でも練りアメのようなキャラメル色のキャンデイが出来上がる。大麦の麦芽で米を糖化する。舐めると硬くて少しずつ控えめの自然な甘みがゆっくりと感じられる。小腹が空いた時に一つ舐めるだけで、お腹が落ち着く、隠れた逸品。
http://www.notostyle.biz/SHOP/fy01-005.html

かぶらずし
冬能登の名物、かぶらずし。ぷくぷく太った大きなかぶらを輪切りにして塩漬けにし、それをサンドイッチ風に鯖などの酢ジメした青魚を挟み、麹、ゆず、にんじん、とうがらしの中に漬け込む。師走の頃、能登の小さな曽良の工場では腰の曲がったおばあちゃんやおばちゃん達がものすごい速度でかぶらを大胆にくり抜き、正月の注文に間に合うべく大忙しだった。庭には大量のかぶらの皮が積み重ねられ、時間をかけて土に帰るのを待っていた。
仕込んで一週間で出荷されるそうだが、出来たてのかぶらずしは食感あシャリシャリと新鮮で、発酵によるまろやかな酸味と甘味、柚子の香り、唐辛子のピリリがうまく混じりあい、非常に美味だった。
能登人と話すと、ほとんどの人が家でマイかぶらずしをつくっているという。
(下記写真:出来たてかぶらずし、かぶら、かぶらの皮むき、土に帰るのを待つ皮たち)


魚のなれずし

能登半島は日本海に囲まれた地形だが、山も多く、昔はちょっと半島の内陸に行くにも山越えで一日仕事だったと言う新鮮な状態で魚を運送できない状況下で発展したのが魚のなれずし。主に青魚を麹で乳酸発酵し、保存性を高める。何故か湿気の多い梅雨を超えて発酵させないといい味にはならないらしい。生まれて初めて食したが、強烈な酸味、旨み、魚の苦味が主張するのに、舌の先から噛み呑み込む短い時間にまろやかな味の変化が感じられ、癖になる味。