不倫の恋に身を焦がす既婚男性の多くは
その実、家庭が平穏無事な場合がほとんどだ。
私がお付き合いしている武さんも、もれなくそう。
「何もない、何も無いだけなんだ」と言う。
まるで凪ぐ海ようになにも起こらない毎日。
ただそこにいるだけの家族と化した「妻」
互いを「お父さん」「お母さん」と呼び合い、男としての承認欲求は
満たされないまま。
取り立てて、離婚に至る決定打は無い。
妻とのラインでのやり取りを、単なる「生存確認」と言う。
「自宅に帰っても味気ないもんだよ」と呟く。
付き合って半年が経つ。
「定年退職したら、小料理屋を2人でやろうか?」
「尚子は料理も上手だし、接客も得意だろ?」
「僕は、練炭で焼き鳥を黙々と焼くよ」
武さんは、妻の悪口は一切言わない。
もちろん、離婚するから、なんて安っぽい事も言わない。
けれども、大いに期待させるような事をよく口にする。
「ある期待を持ってしまうと、この関係は辛くなるね」
「けれど、その辛さが解消される可能性はゼロではないよ」
「大人である僕たちは、その辛さを抱えながら付き合うって決めたんだよね?」
私は20代の小娘ではない。
平穏無事な家庭を壊すのにかかる労力は計り知れない。
別れてくれと懇願する私に、そんな子供だましの発言は無作法と言うものだ。