政府は29日、2019年度の文化勲章を、

ノーベル化学賞受賞が決まった

電気化学の吉野彰・旭化成名誉フェロー(71)や

狂言の野村萬氏=本名野村太良=(89)ら

6人に贈ると発表した。(時事通信)

 文化功労者には吉野氏と、

歌舞伎の坂東玉三郎氏=本名守田伸一=(69)、

映画の大林宣彦氏(81)、

メディア芸術(ゲーム)で

「マリオの生みの親」として知られる

宮本茂・任天堂代表取締役フェロー(66)ら21人を選んだ。

 文化勲章の親授式は11月3日に皇居で、

文化功労者の顕彰式は

同5日に東京都内のホテルで行われる。

 文化勲章を受けるのは

他に、数理工学の甘利俊一(83)、

免疫学の坂口志文(68)、

政治学の佐々木毅(77)、

写真の田沼武能(90)の4氏。

女性は3年連続で選ばれなかった。

 他の文化功労者は、

映画評論の佐藤忠男=本名飯利忠男=(89)、

照明デザインの石井幹子(81)、

経済学の猪木武徳(74)、

短歌の馬場あき子=本名岩田暁子=(91)、

俳句の宇多喜代子(84)、

コンピュータービジョン・ロボット工学の金出武雄(74)、

中国古典文学の興膳宏(83)、

国語史学・国際交流の小林芳規(90)、

時間生物学の近藤孝男(71)、

社会貢献・国際貢献・文化振興の笹川陽平(80)、

作物ゲノム学・学術振興の佐々木卓治(72)、

日本画の田渕俊夫(78)、

組踊の宮城能鳳=本名徳村正吉=(81)、

漫画の萩尾望都(70)、

障害者スポーツ振興の藤原進一郎(87)、

分子薬理学の柳沢正史(59)、

文化振興・国際交流・著作権の渡辺美佐(91)の各氏。

 文化勲章では数理工学と写真が初めての受章。

文化功労者は文化芸術基本法を踏まえ、

新分野にも着目して昨年度は5人増の20人だった。

今年度はさらに多い21人で、

映画評論など12分野が初の顕彰となった。 

 

 

  【文化勲章】
 甘利 俊一氏(あまり・しゅんいち)東京大名誉教授。

世界に先駆けて情報幾何学を創始するとともに、

神経回路網理論研究でも数多くの卓越した業績を挙げた。

計算論的神経科学や数理工学の発展に貢献。

11年瑞宝中綬章。東京都出身。83歳。

 坂口 志文氏(さかぐち・しもん)

大阪大免疫学フロンティア研究センター特任教授。

過剰な免疫反応を抑制する自己免疫寛容をつかさどる

制御性T細胞を発見し、生命科学の新分野を確立。

09年紫綬褒章、15年ガードナー国際賞、17年クラフォード賞。

滋賀県出身。68歳。

 佐々木 毅氏(ささき・たけし)東京大名誉教授。

古代ギリシャから近代ヨーロッパに及ぶ

政治思想家の研究に卓越した業績を挙げ、

その研究を基盤に現代政治の分析でも顕著な業績を挙げた。

元東京大学長。05年紫綬褒章、18年瑞宝大綬章。

秋田県出身。77歳。

 田沼 武能氏(たぬま・たけよし)写真家。

米タイム・ライフ社の契約写真家などとして優作を発表。

光を媒体にした芸術写真を世に送り出し、

「子どもたちの写真」という新分野を開拓した。

90年紫綬褒章、02年勲三等瑞宝章。東京都出身。90歳。

 野村 萬氏

(のむら・まん、本名野村太良=のむら・たろう=)

狂言師。六世野村万蔵の長男。

無駄のない所作と内面から表出する喜怒哀楽の演技で

深い人間性がにじみ出る。

狂言の継承、保存に尽力するほか、

新作や復曲にも取り組む。

94年紫綬褒章、97年人間国宝。東京都出身。89歳。

 吉野 彰氏(よしの・あきら)旭化成名誉フェロー。

電気自動車などに欠かせない

小型・軽量で高出力の充電式電池である

リチウムイオン電池の基本構造を確立した。

04年紫綬褒章。18年日本国際賞。

19年欧州発明家賞(非欧州諸国部門)。

大阪府出身。71歳。

 【文化功労者】
 佐藤 忠男氏

(さとう・ただお、本名飯利忠男=いいり・ただお)

映画評論家。

働きながら映画雑誌に批評を投稿し、

アジアやアフリカ映画の日本紹介と

日本映画の海外紹介に大きな役割を果たした。

02年勲四等旭日章。新潟県出身。89歳。

 石井 幹子氏(いしい・もとこ)照明デザイナー。

東京タワーのライトアップで注目され、

光の色彩や強弱に繊細な変化を持たせて

建築や景観の持ち味を引き出す手法で

照明の世界を開拓した。

00年紫綬褒章。東京都出身。81歳。

 猪木 武徳氏(いのき・たけのり)大阪大名誉教授。

市場経済と民主制が

致命的欠陥のない唯一の「ましな」制度であることを示すなど

経済思想、労働経済学の研究分野で卓越した業績を残した。

19年瑞宝中綬章。滋賀県出身。74歳。

 馬場 あき子氏

(ばば・あきこ、本名岩田暁子=いわた・あきこ)

歌人。

戦後の青春歌集として広く読まれた「早笛」など

優れた短歌を創作しつつ、

和歌・短歌の継承と発展に尽くした。

94年紫綬褒章。東京都出身。91歳。

 宇多 喜代子氏(うだ・きよこ)俳人。

正岡子規の流れをくむ伝統的俳句を学ぶ一方、

前衛俳句の刺激を受けて他の追随を許さない境地を獲得し、

俳句の啓発にも力を注いだ。

08年旭日小綬章。山口県出身。84歳。

 大林 宣彦氏(おおばやし・のぶひこ)映画監督。

故郷を舞台にした「転校生」「時をかける少女」

「さびしんぼう」の尾道3部作など

遊び心あふれる作品で日本映画に新局面をもたらし、

地域における映画製作に道を開いた。

09年旭日小綬章。広島県出身。81歳。

 金出 武雄氏(かなで・たけお)

カーネギーメロン大ワイタカー記念全学教授。

コンピューターによる顔認識技術を

実用化レベルに押し上げ、

自動運転の人工知能システムを構築するなど

先駆的業績を挙げた。

17年米電気電子学会創始者記念メダル。

兵庫県出身。74歳。

 興膳 宏氏(こうぜん・ひろし)京都大名誉教授。

読解もままならなかった

唐代以前の中国古典文学理論書や

空海編さんによる詩文創作理論書に訳注を施すなどし、

顕著な功績を残した。

13年日本学士院賞。福岡県出身。83歳。

 小林 芳規氏(こばやし・よしのり)広島大名誉教授。

古文書研究分野で、

とがった筆記具で紙にくぼみを付けて記された、

見えない文字「角筆(かくひつ)」の文献を国内外で発見し、

学術交流にも貢献した。

00年勲三等旭日中綬章。広島県出身。90歳。

 近藤 孝男氏(こんどう・たかお)名古屋大名誉教授。

謎だった生物の体内時計の機能を

バクテリアで初めて観測し、

「時を刻む」3種類のタンパク質を突き止めた。

11年紫綬褒章。愛知県出身。71歳。

 笹川 陽平氏(ささかわ・ようへい)日本財団会長。

各国政府にハンセン病の差別撤廃を働き掛けるなど

行政の手の届かない社会貢献・文化振興事業に取り組んだ。

19年旭日大綬章。東京都出身。80歳。

 佐々木 卓治氏(ささき・たくじ)

東京農業大総合研究所参与。

地球環境問題や食料人口問題を解決する上で

必要とされたイネの全遺伝情報(ゲノム)解読を

世界に先駆けて行った。

10年日本農学賞。山口県出身。72歳。

 田渕 俊夫氏(たぶち・としお)日本画家。

薬師寺や鶴岡八幡宮など

寺院のふすま絵や壁画も手掛け、

装飾性と精神性を兼ね備えた作品で確たる表現を築いた。

17年恩賜賞・日本芸術院賞。東京都出身。78歳。

 宮城 能鳳氏

(みやぎ・のうほう、本名徳村正吉=とくむら・まさきち)

舞踊家。

琉球王朝時代から受け継がれる歌舞劇

「組踊(くみおどり)」を習得し、

繊細さの中に強さを秘めた女形の芸風は高く評価され

人間国宝にも認定。

08年旭日小綬章。沖縄県出身。81歳。

 萩尾 望都氏(はぎお・もと)漫画家。

「ポーの一族」「イグアナの娘」など

奥深い人間描写のある作品によって、

少女漫画を多彩で深みのある表現ジャンルに発展させた。

12年紫綬褒章。福岡県出身。70歳。

 藤原 進一郎氏(ふじわら・しんいちろう)

元日本障害者スポーツ協会理事。

パラリンピックで監督や団長として選手団を率い、

障害者スポーツの基礎をつくった。

18年旭日小綬章。大阪府出身。87歳。

 宮本 茂氏(みやもと・しげる)

任天堂代表取締役フェロー。

「スーパーマリオブラザーズ」など

家族全員が安心して楽しめる

世界的ヒット作品を数多く手掛け、

「現代のビデオゲームの父」と称される。

11年芸術選奨文部科学大臣賞。京都府出身。66歳。

 坂東 玉三郎氏

(ばんどう・たまさぶろう、本名守田伸一=もりた・しんいち)

歌舞伎俳優。

歌舞伎女形として人間国宝に認定され、

中国・明代の「牡丹亭」をパリ公演するなど

国内外で幅広い舞台活動を行う。

14年紫綬褒章。東京都出身。69歳。

 柳沢 正史氏(やなぎさわ・まさし)

筑波大国際統合睡眠医科学研究機構長・教授。

血管収縮物質エンドセリンや

睡眠を制御するオレキシンを発見するなど、

肺高血圧症や不眠症の革新的治療薬開発に結び付けた。

16年紫綬褒章。東京都出身。59歳。

 吉野 彰氏(よしの・あきら)旭化成名誉フェロー。

スマートフォンや電気自動車などに欠かせない

小型で高出力のリチウムイオン電池の基本構造を確立し、

19年のノーベル化学賞に選ばれた。

04年紫綬褒章。大阪府出身。71歳。

 渡辺 美佐氏(わたなべ・みさ)

渡辺プロダクション名誉会長。

亡き夫と共に、戦後の荒廃の中で

心のよりどころとなる娯楽を届けようと尽力し、

音楽ビジネスの振興や保護制度の充実に努めた。

12年藍綬褒章。東京都出身。91歳。