肩関節脱臼 〜固定方法について〜 | 理学療法士~physical therapist~HIROのブログ

理学療法士~physical therapist~HIROのブログ

日々臨床現場に立ち、大学院で研究活動に励む理学療法士(physical therapist)が関節外科やスポーツ医学、リハビリテーションについて最新の技術や報告などを紹介していきます。このBlogからソーシャルネットワークが広がれば良いなと思っています。

こんにちは!

先日のブログの中で肩関節脱臼における整復方法についてご紹介させて頂きました。ご理解頂けましたでしょうか??

今回はその整復後の処置(固定方法)について書かせて頂きます。

肩関節脱臼は整復がすんだら問題が解決!!という訳には残念ながらいきません。整復後はある一定期間固定をしなければなりません。
固定方法はどのようにしたらいいのか?固定期間は?など固定1つとっても様々な課題があります。

まずは固定方法からご紹介します。

2000年くらいまでは下垂内旋位固定(図1)が肩関節脱臼後の固定方法として用いられていました。

$理学療法士~physical therapist~HIROのブログ
図1 下垂内旋位固定


しかし、当時秋田大学の井樋栄二先生(現東北大学)がご遺体を用いた解剖学的研究(1999年)(Itoi,E.,et al.:Position of immobilization after dislocation of the shoulder;a cadaveric study.J Bone Joint Surg.81-A:385-390,1999.)や肩関節脱臼後のMRI画像を用いた研究(2001年)結果より図1のような下垂内旋位固定と比較し図2のような下垂外旋位固定の有効性が示されるようになってきました。

$理学療法士~physical therapist~HIROのブログ
図2 下垂外旋位固定


なぜ有効なのか??

2001年の井樋栄二先生の研究では内旋位固定と外旋位固定においての関節唇損傷の状態を確認しました。(Itoi,E.,et al.:Position of immobilization after dislocation of the glenohumeral joint;a study with use of magnetic resonance imaging.J Bone Joint Surg.83-A:661-667,2001.)
(ちなみに。。。関節唇とは肩関節内にある土手のようなもので関節脱臼を起こさない為には非常に重要な関節内構造物です。図3)


$理学療法士~physical therapist~HIROのブログ
図3 関節唇(赤線が関節唇、青色実線のBankart損傷部=関節唇損傷部)


その結果、内旋位固定では関節唇は内方に転位し、関節包(関節の袋)は肩甲骨の頚部から剥離している事を確認しました。(図4、図5)


$理学療法士~physical therapist~HIROのブログ
図4 関節唇の内方転位(イラスト)


$理学療法士~physical therapist~HIROのブログ
図5 関節唇の内方転位(MRI画像)


一方で外旋位固定では損傷した関節唇が肩甲骨の頚部(関節窩)に密着した状態が確認され、関節包も肩甲骨の頚部に整復され、肩のインナーマッスルの一部である肩甲下筋を含めた軟部組織が適度に緊張した状態を示したと報告しています。(図6、7)

$理学療法士~physical therapist~HIROのブログ
図6 関節唇の整復(イラスト)


$理学療法士~physical therapist~HIROのブログ
図7 関節唇の整復(MRI画像)


次に外旋位固定の有効性を証明する為の臨床研究もなされています。
この研究も井樋栄二先生のグループの論文で2000年から調査が開始され、2007年に発表されたものです。(Itoi,E.,et al.:Immobilization in external rotation after shoulder dislocation reduces the risk of recurrence;a randomized controlled trial.J Bone joint Surg.89-A:2124-2131.2007.)

研究内容は以下の通りです。

期間:2000年10月~2004年3月

対象:外傷性肩関節前方脱臼受傷後3日以内で骨折のない198名(男性136名、女性62名)平均年齢37歳(12~90歳)

整復方法:挙上法101名、Hippocrates法22名、外旋法17名、Kocher法16名、Stimson法14名、その他28名

これらの症例を無作為に内旋位固定群94名、外旋位固定群104名に分けて調査研究をしています。

方法:入浴時以外の3週間の固定を指示して、固定開始から3週の時点で固定の状況を確認するため、1日の固定時間と固定期間を聴取しています。固定を外し3ヶ月間は激しいコンタクトスポーツなどは禁止し、2年で治療効果判定を行っています。

効果判定方法:脱臼、亜脱臼の有無。スポーツ復帰の有無。再脱臼があればいつどのような状況かを聴取しています。

結果:2年以上調査可能だった症例数は内旋位固定群74名、外旋位固定群85名でした。
3週間固定を遵守できたのは内旋位固定群39名(53%)、外旋位固定群61名(45%)(p=0.013)でした。
全体の再脱臼率は内旋位固定群31名/74名(42%)、外旋位固定群22名/85名(26%)(p=0.033)でした。
外旋位固定による相対危険減少率は38.2%であったと報告しています。
3週間の固定期間を遵守できた100名に限定すると内旋位固定群15名/39名(38%)、外旋位固定群12名/61名(20%)(p=0.039)と再脱臼率はさらに低下します。
スポーツによる受傷は内旋位固定群74名中49名(66%)、外旋位固定群85名中60名(71%)だったと報告しています。そのスポーツ選手が2年経過時点で受傷前のレベルに復帰できたのは内旋位固定群10名/49名(20%)、外旋位固定群22名/60名(37%)(p=0.064)で外旋位固定群が有意にスポーツ復帰率が高い事が証明されました。
更に30歳以下の症例98名にに限定し分析を行っています。固定を遵守できたのは内旋位固定群17名/42名(40%)、外旋位固定群38名/56名(68%)でありました。
再脱臼率は内旋位固定群25名/42名(60%)、外旋位固定群18名/56名(32%)(p=0.007)という結果が報告され有意に外旋位固定群の再脱臼率が低いことが証明されました。
スポーツによる受傷は内旋位固定群42名中39名(93%)、外旋位固定群56名中53名(95%)であり、そのスポーツ選手が2年経過時点で受傷前のレベルに復帰できたのは内旋位固定群7名/39名、外旋位固定群20名/53名(p=0.039)で有意に外旋位固定群のスポーツ復帰率が高い結果が証明されました。

まとめ:まず、結果から分かるのは30歳以下の肩関節脱臼はスポーツによる受傷が主な受傷機転であるという事です。
また、この研究で最も大切であり重要な結果は3週間外旋位固定をする事で再脱臼に至る危険度を38.2%減少させる事が出来たという事です。そして、特に30歳以下の症例に有効的だという事です。

このように、肩関節脱臼は整復後の固定処置方法によっても将来の再脱臼率を左右する事になります。しかしながら現在においても初回肩関節脱臼の患者さんにおいて迷う事なく当たり前のように内旋位固定をする多くの医療機関、整骨院がいらっしゃいます。これは大問題だと思います!!
そして再脱臼を引き起こし反復性脱臼に移行して手術しなければスポーツはおろか日常生活においても脱臼感があり生活に支障をきたしています。そのような経緯を持った患者さんが日々たくさんお越し頂き手術をし、リハビリテーションを行いスポーツなどに復帰していっています。
今回紹介した外旋位固定は再脱臼率を下げるより良い治療法です。しかし外旋位固定は図2のように不自然な姿勢であり仕事状況や生活環境などにより全ての患者が出来る固定方法ではないと思います。仕事状況や生活環境などにより外旋位固定が不可能な患者にこの固定法を無理に強要することは必ずしも良い事ではないと思います。
我々、医療従事者は多くの引き出しを持ち様々な治療方法の利点欠点を理解し、目の前の患者にあった治療をその場その場で柔軟に展開していく事が大切だと思います。



~スポーツ障害や関節痛およびリハビリ全般に関してお悩みの選手・患者さんへ~
スポーツ障害や関節痛およびリハビリ全般に関してお困りの選手・患者さんは是非メッセージ欄へご相談ください。
私の回答可能な範囲でご相談に乗らせていただきます。
お気軽にどうぞ!!プライバシーはお守りします。


~肩関節疾患・スポーツ障害・関節外科・リハビリテーション全般を一緒に勉強したいという先生方へ~
トレーナー、理学療法士、作業療法士、柔道整復師、鍼灸師、マッサージ師などリハビリテーションおよびトレーニング、メディカル分野に興味をお持ちの先生方で一緒に連携を取って勉強していていきましょう!
ここに集まる方が各人の専門知識を共有することにより臨床現場において一人でも多くの選手や患者さんに還元できれば最高です!
また、これから勉強をしていこうという先生方も大歓迎です。
ご連絡お待ちしています。

~~Physical Therapist HIRO~~


肩関節鏡下手術/米田 稔

¥18,900
Amazon.co.jp

肩関節のMRI―撮像と読影の基本テクニック/佐志 隆士

¥7,875
Amazon.co.jp