100mのパフォーマンスを上げる要素として3つの要素が考えられます。
①スタートから最大速度が達成されるまでの時間を短縮する
②最大疾走速度を高める
③フィニッシュにかけての疾走速度の低下を抑える
今回は全ての要素に関係するスプリント種目で最も基本的なパラメータの1つである”ピッチ”と”ストライド”について考えていきたいと思います!
”ストライド””ピッチ”の定義については一般的に使用されている意味とスポーツバイオメカニクスで使用される意味では異なりますが、今回は一般的に使用されているように”ストライド”=接地した足から次の足が接地するまでの距離とします。
また、”ピッチ”は一定時間内のストライドの頻度とします。
速度を計算する際には"ピッチ × ストライド”で計算することができ、簡易的であればピッチとストライドは思っているより簡単に算出することができます。
計算式は下記の通りです。皆さんのピッチとストライドはどれくらいでしょうか?
・平均ストライド=100/フィニッシュまでの歩数(1/4歩単位)
・平均ピッチ=フィニッシュまでの歩数/ゴールタイム
・平均速度=平均ストライド × 平均ピッチ ※土江(2004)の方法を参照
ちなみに私は平均ストライド=2m7cm ,平均的ピッチ=4.63step/s
平均速度=9.58 ,タイム=10"42 ,歩数=48.25
速く走るためには、”ストライド”と”ピッチ”それぞれどちらが重要なのでしょうか?
昔からこのことについては検討され続けていますが、ピッチが重要だと結論づけられた報告(Mann and Herman,1985)やストライドが重要だと結論づけられた報告(Gajer et al.,1999)もある。また、両者とも関係性が認められなかった(尾縣ら1991)という報告もあります。
現在でも現場レベルでは自分がピッチタイプなのか?ストライドタイプなのか?という疑問をもっている選手も少なくないと思います。
【注意】これから説明することは最大疾走速度での議論であり、加速曲面や速度が落ちてくる減速曲面の場合では異なる可能性があります
まず、お伝えしなければならないのは、パフォーマンスを向上させるために”ピッチが重要かストライドが重要か”を考えるのは、パフォーマンス向上を考えているようで考えられていないということです。
それはなぜか、同じスピードで一方を向上させると一方は低下する関係が認められているからです(Hunter et al.,2004)
言い換えればスピードが一定であるならば体力面を考えなければピッチを向上させようがストライドを向上させようがどっちでもいいということです。
重要なのはスピードが向上することであって、ピッチやストライド向上させることではないということを念頭においてトレーニングしなければなりません。
ここはすごく重要です!理解しているようで理解できていないポイントでもあります。
では上記のことを念頭においてピッチの構成要素を考えていきましょう!
ピッチとは言い換えるのあれば”1秒間に回せる足の回転数”=時間です!
ピッチを構成する時間的な要素は2つです。
この構成要素を理解してないと何にアプローチしていいのか分からず、ただ闇雲に一般的に行われている練習方法を行うだけになってしまいます。そのためしっかりと整理しておくと同じ練習方法でも消化の仕方が一気に広がります。
〜ピッチの構成要素〜
①接地時間
文字通り接地している時間のことで、我々が唯一地面に力を伝える、地面から力をもらうことができる曲面になります。
この曲面で速度が決定しているといっても過言ではないほどに重要な曲面となります。
②滞空時間
走りと歩きの違いはこの曲面の有無になります。
滞空している間は地面から力を得ることはできませんが、次に接地をする脚を引き出してくる時間であったり、ブレーキにならないように地面に合わせて脚を後ろ方向に加速させる時間であったりと、次の脚を準備させる時間であることから重要な曲面となります。
接地時間も滞空時間も数値としてはそれぞれ0.11秒ほどの出来事ですが、1サイクル0.22秒ほどで回ると考えると1秒間に回転させられる回数は5回転弱ほどです。
私の平均ピッチ4.63step/sから考えても妥当な秒数だと言えます。
ピッチを向上させるには、その構成要素である接地時間、滞空時間、またはその両方を短縮することができればピッチを向上させることができ、さまざまなアプローチ方法でこの課題をクリアしようとしています。
指導されてきた中で「短く接地しましょう!」「接地時間が長い」など指摘されたことはないでしょうか?
また、重心が上下動しすぎることも接地時間、滞空時間に影響を与える可能性もありますので、大きな重心の変動(上下)は避けた方がいいと思います!
今回はピッチを構成する要素について考えてきましたが、次回はじゃあいったいどんな練習をしたらいいの?どんな意識で練習をしてる?について書いていきたいと思います。
<参考文献>
土江寛裕(2004)アテネオリンピックへ向けての「走りの改革」の取り組み,スポーツ科学研究.1.10-17
Mann, R. Herman, J. (1985) Kinematic analysis of olympic sprint performance : Men's 200 meters. Int. J. SportBiomech., 1 : 151 - 162.
Gajer, B., Thepaut-Mathieu, C., and Lehenaff, D. (1999) Evolution of stride and amplitude during course of the 100m event in athletics. New Studies in Athletics, 14(1): 43-50.
尾縣貢,中野正英(1991)疾走能力に影響を及ぼす動作要因,奈良教育大学紀要40(2).21-28
Hunter, J. P., R. N. Marshall, P. J. Mcnair. (2004) Interaction of step length and step rate during sprint running. Med. Sci. Sports Exerc., 36 (2) : 261-271.