前回はピッチを構成する要素について言及しましたが、今回は実際の練習内容などを書いていきたいと思います。

 

前回説明した通りピッチとは1秒間に回せる足の回転数=時間と説明しました。

ピッチは接地時間と滞空時間に影響を受け決定されます。

接地時間、滞空時間は共に大よそ0.12秒ほどでごくわずかな時間の出来事で、ピッチが高い選手ほど接地時間や滞空時間が短い傾向にあります。、Mannら(1985)の報告では速度を決定するのにストライドよりも重要であると結論付けられています!

 

高いピッチを獲得するには接地時間または滞空時間を短縮する必要があるわけですが、それぞれ外してはいけないポイントがあります。

接地時間に関してですが、足ついた瞬間には一瞬ブレーキがかかり、その後に地面をけろうとする力を発揮しアクセルをかけます。アクセルとブレーキの力が均等であれ速度を維持することが出来ますが、この関係が崩れると減速してしまうわけです。そのため、接地時間を短くしても同じ力を発揮する必要があるわけです。

滞空時間に関しても、短縮された滞空時間の中で素早く脚を前方向に引き出す必要があります。この素早く脚を前方向に引き出すためには脚の動作範囲を小さくすること(阿江,2001;松林,2012;宮下ら,1986)や、脚を振り回す原動力となる股関節筋群(屈曲に関する)が大きなトルクやパワーを発揮することが重要になると考えられます(阿江ら,1986;Dorn et al., 2012;渡邊ら,2003)。

 

≪接地時間を短縮する≫

接地時間は足関節による影響が大きいといわれており(宮下ら,1986)、速い選手ほど接地中の足関節の角変位が小さい、すなわち接地中に足首を大きく動かさないことが明らかになっています。このことから接地時間を短くするためには、接地中は足首を固定し、つぶれないようにすることで接地時間を短くすることができるかもしれません。

 

また、足首を固定するためには接地前から準備が必要であり、馬場ら(2000)の報告では、接地前に前脛骨筋(足首を上に上げるときに使われる筋肉)が働かなかった場合、接地時に足首が著しく底屈してしまうことが明らかにされています。

接地前から接地するための準備を行い、足首を固めて接地することで接地時間が減少することが接地時間を短縮させる近道かもしれません!

ちなみに私が海外で陸上の指導を受けた際にも執拗に「Toe up!!」と何度も指摘されました!

 

 

◆練習方法の提案

・マーク走(マーク間170~190cmほど)

 ⇒いつも自然と走るときよりも短めにマークをセットし、7-8割ほどで駆け抜ける

  注意

  脚をムダに後方に振ってしまうと次の接地に準備が間に合わず、

  ブレーキをかけるような接地になってしまうので注意が必要

 

・下り坂走、トーイング走(引っ張られる)

 ⇒Giorgeos(2001)によれば平地と比較して接地時間が短縮されたと報告されており、

  同じオーバースピードトレーニングであるトーイング走でも同様な結果が得られると

  考えられます。

  注意

  いつもよりも速い速度で走るため、肉離れなどのリスクもあるため、注意が必要

 

・リバウンドジャンプ、ハードルジャンプ

 ⇒各々のレベルに合った高さのハードルを並べ、連続ジャンプで越えていく

  最初はハードル間をそれほど空けず、上下方向のジャンプをメインに、

  慣れてきたらハードル間をすこしずつあけ、前後方向のジャンプも複合していくと

  感覚を掴みやすいかもしれない

  注意

  筋・腱の複合領域(特にアキレス腱)にとても大きな負荷がかかるため、注意が必要

 

 

≪滞空時間を短縮する≫

滞空時間を短縮するためには、上記のように股関節筋群(主に屈曲筋群)に大きなトルクやパワーが必要であり、動作的には脚の動作範囲を小さくする必要があります(阿江ら,1986;Dorn et al., 2012;2003;渡邊ら,2003)。

新井(2004)の報告では股関節屈曲筋群(脚を引き上げる筋郡)は鍛錬期にはあまり発達せず、シーズン中に発達したことが報告されていります。これは「最大速度で走る」ことが股関節屈曲筋群の発達を促進している可能性を示しています。

ただし、滞空時間とストライドには関係性が認められていて、滞空時間が減少するとストライドも短くなる傾向があります(Hunter et al.,2004)。ピッチが上がり、ストライドが減少、結果として速度が変わらなければ意味がなくなってしまうので、速度やピッチとの関係性を見ながら修正していきましょう

 

◆練習方法の提案

・チューブトレーニング

 ⇒文章で説明するのは大変難しいため、画像をw

  片足10回 × 3-4Setからはじめ、慣れてきたらチューブの硬さを挙げたり、

  回数を増やすなどでとトレーニング強度を調節しましょう。

  注意

  どちらのトレーニングでも腰部で動きを代償(腰を浮かせる)ような動きが

  出やすいので注意が必要

 

・抵抗トレーニング

 ⇒2人組みで行うトレーニング 動かしたい方向と逆の抵抗をかけてもらい行います。

  道具がなくても行え、負荷もある程度自由にかけられるため、お勧めです!

  私は高校から大学までウォーミングアップの延長として毎日行っていました

  注意

  動かないような抵抗はかけない

  一気に力を入れず徐々に力を出す(ケガ予防のため)

 

 

今回はピッチを向上されるために目的に合った具体的なトレーニングを書きました。

文中にも書きましたが滞空時間の減少はストライドに影響を与え、ストライドが減少してしまう可能性もありますので、注意が必要です。

極論でいあえばピッチが速かろうが、ストライドが大きかろうが

速度がかわらなかったり遅くなってはは意味がないので

自分はどちらを伸ばすことがタイムを速くするのに有効か?を考えることが重要です。

 

次回はストライド構成する要素について書いていきます。

 

 

<参考文献>

Mann, R. Herman, J. (1985) Kinematic analysis of olympic sprint performance : Men's 200 meters. Int. J. Sport Biomech., 1 : 151 - 162.

阿江通良(2001)スプリントに関するバイオメカニクス的研究から得られるいくつかの示唆.スプリント研究,11 : 15-26.

松林武生(2012)陸上競技のサイエンス スプリント動作のメカニズム 〜速く走る動作の特徴〜.月刊陸上競技,46 (3):216-218.

宮下 憲・阿江通良・横井孝志・橋原孝博・大木昭一郎(1986)世界一流スプリンターの疾走フォームの分析.Jpn. J. Sports Sci. 5 : 892 -898.

阿江通良・宮下 憲・横井孝志・大木昭一郎・渋川侃二(1986)機械的パワーからみた疾走における下肢筋群の機能および貢献度.筑波大学体育科学系紀要,9:229-239.

Dorn, T. W., Schache, A. G., and Pandy, M.G. (2012) Muscular strategy shift in human running: dependence of running speed on hip and ankle muscle performace. The Journal of Experimental Biology, 215: 1944-1956.

渡邉信晃・榎本靖士・大山卞圭悟・宮下 憲・尾縣 貢・勝田 茂(2003)スプリント走時の疾走動作および関節トルクと等速性最大筋力との関係.体育学研究,48:405-419.

新井宏昌・渡邊信晃・高本恵美(2004)国内一流女子スプリンターにおけるトレーニング経過にともなう形態的.体力的要因と疾走動作の変化.体育学研究,49:335-346

Hunter, J. P., R. N. Marshall, P. J. Mcnair. (2004) Interaction of step length and step rate during sprint running. Med. Sci. Sports Exerc., 36 (2) : 261-271.