※過去に執筆した記事なので時系列的に話題が現況と食い違う点については御容赦下さい。
どうも~!
今日取り上げさせてもらうのは近年人気の、いわゆる『安ギター』と呼ばれる機種の中で最もエポックになったと思われるギター。
おそらくは30年後にも確実に生き残り、その間幾度となく再生産もされて、
プロの愛用者も確実に出てくるんだろうなと思わせてくれるのがこのギターです。
Squier '51
この個体の色は一応はバタースコッチブロンドという事になっていますが、パッと見は黄土色に見えます。が、よく見ると実際には塗装面は半透明なので間違いは無いんです。
でも写真で見る限りは単なる黄土色ですよね(笑)
ボディ材がアガチスという材で、コレは元来あんまり木目のハッキリした材ではありません。
このアガチスは通常、普及品の碁盤なんかに使われているような材なわけですが、エレキギターの材としては70年代後半から80年代初頭にかけてのYAMAHAのギターの廉価版でよく採用されています。
その音響特性は良好な硬質さを感じさせる響きであり、もっと広く普及してもいい材ではあるのですがいかんせん木目が地味目であり『お金の取れる材』ではない為、出来るだけ付加価値を高めたいメーカーの事情とも折り合いのつかない不遇な材であるとも言えます。
よってこのアガチスを使うメーカーは極めて少なく、この材に関する見識があまり深くないが故に
本来ならアッシュなどの木目が際立つフィニッシュとして選ばれる筈のバタースコッチブロンドカラーが木目が透けてない単なる黄土色、になってしまったと、いう風に解釈しておけば間違いはないと思います。
そもそも、僕がこのギターを知ったのは、このギターを愛してやまない世界中の人々がYouTubeなどでこの'51を用いた演奏をネット環境に上げ始めてからでした。
しかしなんとその時すでにこの'51は製造が終了してしまい新品では入手不可能であったという有様。
ですが僕はひと目見て、『このギターは是が非でも体験しなくてはならない 』そう強く思い立ち、楽器屋という楽器屋、ネットショップのあちこちを探してようやく新品同然の個体を手に入れた、というのが今のギターです。
どうやら近々Pawn shop(質屋)シリーズとしてフェンダージャパンが再発売するとの事ですが、アレは完璧に黒歴史になると僕は思っています。
なぜって、
その仕様の数々やPawn shopというネーミングに至るまで、フェンダージャパンは'51が何故人気があるのかをサッパリ摑んでいないのだなと思わされるからです。
まぁその辺りのコトを踏まえながらこのギターについていろいろ見て行きたいと思います。
フロントに1シングルコイル、リアに1ハムバッカーというシンプルなスタイル。
テレキャスターと同じデザインのヘッド。
大枠としては、初代のプレシジョンベースのイメージをギターに変換し、リアにハムバッカーを載せてやる事でサウンドバリエーションとデザインバランスの両立を図ったかなり完成度の高いデザインです。
このギターが何より素晴らしいのは『ちゃんと不自由がある』という点でしょう。
マスターボリューム(Pullでコイルタップ)+3点ロータリー式ピックアップセレクター。(本個体ノブはなかじーがオールドテレキャスタイプに交換)
一見、普通のハードテイルかなと思わせて、実は弦を裏通しにしないトップロードスタイルになっているブリッジ部分。(本個体はサドルはなかじーがテレキャス用のブラス製に交換)
ご覧いただいてパッとおわかりいただけそうなのは、多分ボディシェイプはストラトキャスターと同様ながらも、
・トーンコントロールが無い
・トレモロユニットが無い
・弦が裏通しじゃない
という具合にストラトキャスターが持つ様々な機能が『引き算』されているという事でしょう。
一般的な概念から言えば、
初心者から上級者に至るまで、およそ出来ない事はないと思われるエレキギターの完成形であるストラトキャスターから『引き算』をすれば、
それはオールマイティさを欠く不完全なギターというイメージを抱く方が多い事でしょう。
しかしながら、それは全く違います。
ストラトキャスターという楽器は非常に良くできたギターであり、そのデザインの完璧性は図形に喩えると真円に近いとなかじーはイメージしています。
ですから、ギタリストの多くは各々の音楽の個性を追求する為に『真円』のある部分を削ってみたり、本来ならば付いていなかった部品を新たにインストールして特殊な機能を付加する事で敢えて『真円』を崩してストラトキャスターを使っているわけです。
この‘51の個性とは下の図の楕円形をイメージするとわかりやすいでしょう。
同じ面積の楕円と真円を重ねると、楕円の範囲は真円を超えて出っ張るところと凹むところに分かれますよね。
これが楽器としての個性になるわけです。
ですからストラトキャスター比でエレキギターとしての幾つかの機能が不足していたとしても、'51でデザインされた個性というのはストラトでは出し得ないサウンドを導き出せるという事なんです。
ストラトキャスターというギターの発展系として『スーパーストラト』という概念がありますよね?ストラトキャスターにフロイドローズのユニットを載せたりハムバッカーを乗せたりするコンテンポラリーなギター。
あれらは総じて『足し算』のギターなんです。
51は逆ですよね。『足し算』の美学ではない『引き算』の美学。
実はこれが良いわけです。
日本のエレキギターっていわゆる幕の内弁当みたいな所があって、
トーンコントロールがなきゃいけない、センターピックアップがなきゃいけない、トレモロユニットがなきゃいけない、何につけ『コレはなきゃいけない』というある種の脅迫観念のようなモノに縛られながら製品を構築してしまう。コレって合議制でモノを造るとこうなってしまうんです。
アレも足したいコレも足したいで色々な人が色々な意見を言う。結果、オールマイティという名のストラトもどきしか出来ないわけです。
そうしたストラトキャスターに類するエレキギターってある意味金太郎飴みたいなモノなわけです。
激安のものから何十万円もするものまでどこを切っても金太郎。
ところが実際にこの'51を弾いてわかるのは、エレキギターって確かに色んな機能があるのは便利そうには思えるけど、よくよく考えるとその機能って別にあっても良いかもしれないし無いなら無いで不自由はないし、むしろ使わない機能なんて無い方がシンプルでわかりやすくてイイじゃん?
という事。
何にしたって'51は弦を張るのもトップロードだし、ボディは薄いし、トーンが無いから信号は劣化しないしボディ材は鋭くて芯のある成分が引き立つアガチスですからね、もう音はパッキパキなわけですよ。
Theトレブリー、ここに極まれりという雰囲気。
恐らく弾いた事がある人なら誰もが口にする、リアのハムバッカーがシングルコイル並にシャープな音像に感じるというのは、
・ボディの薄さ、
・ボディ材の性質、
・トップロード張り、
・トーンコントロールの廃止、
主にこの4点の要素が複合的に作用した結果です。
'51の愛好家は、大抵このルックスも然りですがこの'51にしかないサウンドを愛してると感じます。
カントリー&ウエスタンやブルーズのように、あまりヘヴィに歪ませる事を前提にはしない、ピッキングひとつとっても、ブリッジ付近に手首を固定してフラットピックで掻きむしるように弾くタイプなどではなくフロントピックアップ周辺のポジションを指先のタッチひとつで音色をコントロールするように鳴らす人達がアメリカには大勢います。
そもそもエレキギターはアメリカの発明品ですが、彼らの中にある『いいギターサウンド』のひとつに『Twang』というモノがあります。
金属的であり、鼻にかかったような響きを持つサウンドを彼らは非常に好むわけですが、それは古くからあるバンジョーやシガーボックスギターやラップスティールギターに由来するモノで、Fenderのギター(USA)にはもれなくその味があります。
'51には彼らが弾き慣れてきたテレキャスターやストラトキャスターではない、新たな第三の選択肢として前向きに受け入れているような気がします。
逆に言えば、ハイゲインアンプで強力な歪みを作ってギターを弾くのが日常になっているような方には本当に不評だと思う。
現に、この'51のリアピックアップの音を貧弱だと嘆かれる方の音の基準がレスポールに代表されるGibson系のギターと比較してのモノだったりすることが大半なわけで、そりゃ較べる基準が間違えてるよ、としか言えない。
『ハムバッカーはこういう音 』という固定された概念に囚われてるのならわざわざこういう新しいギターを手にする意義は無いように感じます。
ストラトの音が欲しいならストラトを使うべきだし、テレキャスの音が欲しいならテレキャスを、
レスポールの音が欲しいならレスポールさえあれば充分なはず。せっかくの個性なんだから、今までには無い音、と前向きに捉えて使わないともったいないと思いますね。
フェンダージャパンはこの'51をリメイクするにあたって、ボディ厚をレギュラーのストラトと同じ厚さにし、ボディ材をアルダーにし、弦の張り方を裏通しのハードテイルにし、さらにはピックアップをわざわざハイゲインなモノに変更しました。
このギターに1951年には無い技術が使われてるのは別に良いんです。
このPawn shopってのは要するに質流れに遭った正体不明のギターをイメージしていると思われます。
借金のカタに取られたエレキギターは貧しい持ち主の手で様々な部品の交換や改造を受けて原型を留めない別の姿に変えられて、挙げ句の果てには質流れになっていた、
というストーリーが有ると前提したら、
ハムバッカーならいつでもストラト型のボディへ後付けは可能だった筈なんだから。
肝心なのは元になったボディとネックが1951年からあったであろうモノをイメージしているのかどうか、そのあたりの考察がフェンダージャパンのPawn shopは甘く感じたんですよね。
1951年のフェンダーなら、ボディ材はアッシュ一択でしょう。
プレシジョンベースをギターとして再構築するなら、弦の張り方はトップロードでもなんら不自然はない。
フェンダーのギターが発展して来た歴史を良い意味で捻じ曲げつつ、正史に対する整合感をキチンとキープするのがこの手の創作の醍醐味なはず。
あたかも、現実社会に対するスチームパンクの世界観のように、ね。
Squierの'51が、
『楕円形』で、それが『真円』と比べた時に出っ張っている部分が魅力だったのにフェンダージャパンとしての製品に付加価値というモノを考えた時にその楕円形として真円からはみ出た部分を、無難に真円の中に納めてしまった。
残ったのは、楕円形として真円よりも欠けていた部分だけ、という何とも悲惨な結果しかない。
だから、フェンダージャパンの'51は間違いなく売れないでしょう。
もしも、
僕がフェンダージャパンの価格帯で'51をプロデュースするとしたら、こうなる。
・ボディ材はスワンプアッシュ
・ボディトップは面取りをしない
・ピックガードはベークライト・エスカッションはクリーム
・リアピックアップはゼブラ・ブリッジはジェフベックのテレギプのような3wayタイプを加工したブリッジ
・サドルはブラス性のアングル付きタイプ
・ネックはアンバー色のグロスフィニッシュで、ネックシェイプは三角グリップ
・ボディ厚はテレキャスターに準じて弦も裏通しとトップロードを選べるようにする・ハイパスキャパシターの付加
・フィニッシュはトップラッカー
コレをやったら多分、歴史に埋もれないギターに出来るのは間違いない。
少なくとも、今これからフェンダージャパンが売ろうとしてる中途半端なモノを売るなら、
僕がイメージしたようなモノを20万以上で売る方が遥かに売れます。
売れるだけじゃない。
歴史に埋もれない銘器になりますよ。
いま、フェンダージャパンに何十年先まで高い評価を得られるような銘器を出して行こう、という気概があるかどうか。
僕には彼らの考えはわかりませんが
『真円』からはみ出した『楕円形』を真円の中に納めよう、納めよう、としてるうちは無理なんじゃないですかね。
この安物のギターを爪弾いている時、そんな言葉がアタマをよぎるのです。
今日も長文を最後までお読みいただきありがとうございました!
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