自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……
 自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……

 

 

シンナーを吸いながら
鎮痛剤をODしながら
手首にカミソリを押し当てながら
呪文のように、声は、私の耳の中で鳴り響いていた

 

 

 自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……
 自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……

 

 

再びこの呪文が私の鼓膜を震わせたのは
男を捨てようと、女になろうと
化粧をしミニスカートを履いて
ふらふらと一人で街に繰り出した時だ
誰かに耳元でささやかれているようでもあり
両手でふさいだ耳から
流れ落ちる血のつぶやきのようでもあった

 

 

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自分からおかしくなっていると言われる

 

 

初めて精神科病院に入院した時のこと。

体から薬物も一通り抜けて、

他の入院患者と娯楽室で少し会話もできるようになってきた。

「なんで入院してきたの?」と聞かれ、

少しためらった後「薬物使ったりリストカットで」と答えると

びっくりするような言葉が返ってきた。

 

 

「自分たちは、なりたくて精神病になったのではない。

それなのにあんたは、

自分からおかしくなるようなことをやって入院してきたんやな」

 

 

 自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……

 自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……

 

 

このフレーズは私に内的スティグマとして刷り込まれた。

そうだ、私はいつだって自分からわざわざおかしくなるのだ。

恥の意識でいっぱいになり、自嘲気味になる。

 

 

再び、自分からおかしくなる

 

 

 自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……

 自分からおかしくなる……自分からおかしくなる……

 

 

薬物を使わない生活が十年以上経って、

再びこの言葉が頭の中で何度もリフレインされて

鳴り響き出したのは、女装を始めた頃のことだった。

一旦し始めるとアディクトの私にコントロールが効くわけなどない。

 

 

トランスジェンダーに対して最も否定的だったのは

他の誰でもないわたし自身だった

性別を踏み越えることへの強い憧れと欲望の前には、

乗り越えられそうもない高い壁が立ちはだかっていた。

社会的なスティグマ、そして内的スティグマである。

 

 

壁を一つずつ乗り越えていけたのは、

鏡の中の自分の姿だった。

単なるナルシストだと言われても仕方ないが、

メイクをしていろいろポーズをとってみると、

そこには心からなりたい私がいた。

 

 

レディースの下着や洋服は、柔らかくて肌に心地よかったし、

化粧品の薄い香りを嗅ぐだけで幸せな気分になった。

 

 

ミニスカ・アドレナリンは薬物など目じゃなかった。

 

 

十代の頃、死んでもいいと思って薬物を始めた時のように、

「再び」私は一線を踏み越えようとしていた。

 

 

自分の大切な愛する人たちを裏切るのか、

それとも自分自身を裏切るのか。

 

 

わたしには自分を裏切ることなどできなかった。

 

 

 

写真=フレンチブル、パールの目(多重露光・iphone)