道元の正法眼蔵・古鏡の巻に「百雑砕」というのがある。
鏡には一切が映る。
では、鏡と鏡が出遭った時は?
すべてが粉々に砕け散る。
「洗剤寺」
神戸の街を歩いていたら「洗剤寺」という小さなお寺があった。境内には高い高い石段がまっすぐ天に伸びていた。石段の入り口にカラフルなシャボン玉セットが置いてあったので、一つを手に取ると、シャボン玉をふかしながら階段を上っていった。テッペンには鐘つき堂のような屋根を持つ小さなスペースがあったが、鐘はない。そこにも、大小様々な、赤、青、黄色、緑他の容器に入ったシャボン玉セットが、所狭しとビニールに包んで棚に置いてあった。私は一番大きな袋のシャボン玉セットを選び、備え付けの針金を使って、1メートル近くはありそうなシャボン玉を作って飛ばしてみた。シャボン玉はアメーバーみたいにモワンと揺れながら宙に浮いた。飛んで弾けたとたん、ゴーンと鐘の音が鳴った。
「カラス」
カラスはなぜ黒いの?
黒体放射をするためだよ。
ねえ、
カラスはなぜ黒いの?
道案内人だからさ。
ねえ、ねえ、
カラスはなぜ黒いの?
爆発するためさ。
ねえ、ねえ、ねえ、
カラスが爆発すると、どうなるの?
色とりどりの鳥たちが四方八方に飛んでいくのさ。
ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、
カラスが爆発し損ねると、どうなるの?
黒い羽と色とりどりの羽を差し替えて
色ガラスになるのさ。
「遠くで」
墓地にくると
いつも遠くにあることが近くにある
蝉が啼きやむとゼンマイ仕掛けの夏が止まった
あなたが亡くなった
棺に横たわるあなたの顔と脱脂綿を見ていた
海に向かって歩いていくあなたを最後に見おくったという
海岸に残された黒いワゴン車は
未来から来た霊柩車だったのだろうか
(もしもし めばさん)
過去からの電話の声が
高く上がりすぎた凧のように
わたしを引っぱる
五線譜に書かれた詩が
螺旋形にのびきってちぎれる
あなたの名前を呼んでみる
墓地では
霊たちが風に名前をつけて呼びあっている
あなたの名前を呼ぶことを忘れ
わたしはわたしの名前のついた風をさがす
思わずはしゃぎすぎて
風になったわたしは
白く光り始めた生き晒しのわたしのボディを
くるくるとなめまわる火の風と戯れる
よぶと犬らしき不知火とぶよ
遠くで
打ち上げ花火がひらくあいだ
スマホを天に向けると
あなたの笑顔が夜空いっぱいにひろがった
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