「はぁ…」
思わずため息が出た。
あの後、お見合い相手の説明を延々と続ける近藤さんと、その話を嫌そうに眉間に皺を寄せているのに、断りもしない土方さんを見ているのが馬鹿らしくなってきた私はそっと副長室を後にした。
縁側に座り、先ほど干した洗濯物が風に揺らめいているのを見ながら何度目かのため息を吐いた。
近藤さん、土方さんのためにたくさんのお見合い話を集めたんだなぁ・・・
それはいいかもしれないけど、土方さんも嫌ならはっきり断ればいいのに…
なんだか、自分でもわからない胸のもやもやに嫌気がさし、すくっと立ち上がって庭に降りた。
「にゃぁ~」
すると、たまに見かける茶虎の猫がこちらを見ている。尻尾をゆらゆらと動かして目はきらきらと輝いている。
「あ、元気だった? 少し、遊ぼうか?」
そういって、自分の嫌な気持ちを振り払うようにたすき掛けをしていたひもで猫を誘ってみる。
嬉しそうに一声鳴いて、塀の上からひらりと舞い降りた猫は、必死にひもを捕まえようと手を出している。
「ふふふ」
私も楽しくなってそのまま猫としばらく遊んでいたが、急にふいた強風にあおられて手拭いが一枚落ちてきた。
それに驚いた猫はこともあろうか副長室へと走って行ってしまった。
「あ! だめだって。まだきっとお二人でお見合い話を…」
言いながら追いかけるとあっという間に猫は副長室の前にたどり着き、ふすまが閉まっているため中に入れず、廊下に座って見上げている。
「こらこら、早くこっちにおいで…」
私がしゃがみこみながらひもを揺らして猫を呼び寄せていると、すっとふすまが開いた。
「にゃ!」
驚いたのかそのまま猫は庭を駆け抜け、ひょいっと塀に飛び乗って姿を消してしまった。
「あ…」
廊下にしゃがんでひも片手の私をふすまから顔を出した土方さんが呆れた顔で見ている。
「何やってんだ?」
「えっと…あの…猫が…」
あたふたと立ち上がり言い訳をする私を一瞥すると少し目元を緩めて言った。
「まぁ、いい。することがねぇなら、ちょっと来い」
言いながら部屋の中へと姿を消した。
訳も分からず、後に続いて中に入るとすでに近藤さんはいなかった。
広げられていたはずの、金平糖やら大量の文も部屋の隅に寄せられている。
その中にはもちろん、近藤さんの持ってきた見合い話の風呂敷包みもあった。
思わずじっと見つめてしまっていたが、ふと視線を感じて目を上げれば、にやりと不敵に笑う土方さんと目が合ってしまった。
「気になるか?」
「…いえ…別に…」
明言していないのに、見合いのことだと理解する自分が恨めしい。
動揺を隠すように顔をそむけて返事を返すと、くっくっと喉の奥で笑った土方さんが近づく気配がする。
「見合いなんてする気はねぇよ」
声と同時に、座った足の上に重みを感じた。
「しばらく寝る。起こすなよ」
「え?」
「お前からの贈り物…お前の膝枕で勘弁してやる」
言いながら端正な顔をこちらに向けられ、妖艶な笑みを浮かべて笑う土方さんに
「文句あるか?」
きかれて、文句なんて言えるはずもなく。私はただ首を横に振った。
不敵に笑って、目を閉じる土方さんはさきほどまでの眉間の皺もなく、穏やかな表情だった。
でも、これじゃ、私からの贈り物にはならない。
日頃、仕事で忙しい土方さんと二人でいられる時間なんてほどんどないから、私にとっても嬉しい贈り物をもらった気分だ。
少し開いたふすまから涼しい風が入ってきて、土方さんのきれいな髪がさらさらと揺れる。
そっと、救い上げて手で梳いてみるとくすぐったそうに肩をすくめて、目を開ける。
その優しい眼差しに吸い込まれそうになりながら、手を止めると、土方さんの手が伸びてきてそっと触れられる。
どきっと大きく跳ねた鼓動がわかったかのように、優しく微笑むとまたゆっくりと瞼を閉じて眠りに落ちる。
私の手は土方さんの手に優しく包み込まれたままで…
どうか、この手を離さないでと…願いながら端正な土方さんの寝顔を見ながら私は微笑んでいた。
完