山の呼び声 | 桃土器

桃土器

土やき作品と俳句、日々メモ

偶然入ったお店のモロッコ人店主に言われた「あなたは自然に逢いに行った方がよい」という言葉が、

ずっと胸の奥に焼きついて離れず、近いうちに山へ行こう、行こうと思っていた。



阿佐ヶ谷の駅中の本屋で『低山ハイキングガイド』というへっぴり腰丸出しな本を買い、

車も乗れない私が、山初心者の私が、彼の言う「自然に逢いに」を達成できる場所はどこなんだろうと

ページをめくった。



目にとまったのが「御岳山(みたけさん)」。

阿佐ヶ谷から電車で1時間半と、日帰りで行ける山らしい。これはいい。

なにより、苔むした岩岩とそよぐ緑の木々の合間を流れ落ちる滝の写真にぐっときた。



「滝を、見るんじゃない、目を閉じて、耳をすませて、滝の音を聴くんだよ。」



さっそく、同じく山初心者の友達に声をかけ、Kumariでインドビールを飲みながら、計画を立てた。



そして当日。4月28日日曜日。

風もなく、降水確率0パーセントのすばらしい天候に恵まれ、朝早く家を出た私たちは、

「ホリデー快速おくたま号」に乗って、御岳へと向かった。



御岳山が高尾山に次いでメジャーな山だということすら知らなかった私は、

おくたま号に乗り合わせた老若男女のものすごい数に圧倒されてしまった。

絶好の山日和だったからか、平日のラッシュアワーにならぶほどの大混雑。

ただ、行き先が会社ではなく、山だからか、皆の顔は晴れやかだ。



御岳駅につくと「ケーブルカー下」行きのバスに乗り10分、

ケーブルカーで御岳山駅まで6分。

ついにスタート地点に降り立った。



すでに標高830mまで来ているからか、都会の街並みが山間にのぞいているのが見通せた。



これから御岳山周辺を散策するのが、今日のコースだ。

約6キロのコース上には、「七代(ななよ)の滝」と「綾広(あやひろ)の滝」がある。



空気は澄んで、ハトが鳴いている。

友人が「トゥートゥルットゥトゥー」と鳴き声を真似はじめた。

うはうは笑いながら、写真をとったり、小躍りしてみたり。



「武蔵御岳神社」を参拝して、長尾平(ながおだいら)分岐にでると、いよいよ滝へ向かうコースのはじまり。

突然現れた急な山肌の斜面に、おじけづく私たち。

すべりそうになりながら、ゆっくりゆっくり歩をすすめた。



下り始めてしばらくすると、「サーッ」という音がかすかにし始めた。

滝の音だ。

引き寄せられるように、だけど少しずつ、確実に足を前へ、前へ。

だんだん滝の音が大きくなり、斜面がゆるやかになり、いつしか平らになった。




桃土器-七代の滝

私たちの眼前にあらわれた「七代(ななよ)の滝」。

思ったよりこじんまりとしたものだったけれど、

力いっぱい流れ落ちる水に、見入ってしまった。

ただ流れ落ちる水の姿がとても美しい。

いつまでも見ていられるような気がしてくる。



ザーっとも、サーッともつかない滝の音を聴いてみた。

ハッサンが言ったように、目を閉じて。

目を閉じているのに、目を閉じていないかのよう。

たしかに存在を感じる。

すごいことだなーと思った。



たくさんの家族やカップルや友人たちに混じって、

私たちも記念撮影をし、

(ここにはお出しできませんが)

コンビニで買ったおにぎりをほおばった。













しばらくして、また出発。

苔むした岩や木の転がる沢をゆっくり辿って、2キロほど歩いた。

土や木肌の匂いを感じながら、無心で歩く。

自然と言葉が少なくなる。

一緒にいるけれど、個々の感覚が研ぎ澄まされて、それぞれの世界へ入って行った。

ふしぎな時間。



途中、ゴロンと転がる木の横に座って、父から貰ったおまんじゅうを食べた。

「こうやって、休み休み行けるのが、いいよね。」

友人が言った。



「七代の滝」と異なり、前触れもなく現れた「綾広の滝」で小休止。

ゆったり登ると、スタート地点。

時計を見ると13時近くだった。

10時から登り始めたから、約3時間。



身体も心地よい程度に疲労していたので、

「山香荘(さんこうそう)」で温泉に入ることに。

あんなにたくさん登山客がいたはずなのに、お風呂はほぼ、貸し切り状態。



そば湯のようななめらかに白濁したお湯に身体を沈めて、

まだ明るい外の景色を見ながら、これまでの半日を思い返した。

自分でもびっくりするくらいの良い気分だった。



お風呂を上がって、お腹がすいた私たちは、そばを頂くことに。

手づくりこんにゃくをぱくっと食べて、「レバ刺しみたいだー」と感動する友人。

くずもちみたいな驚きの舌触りに、ゆずみそ、生ビールの冷たさが最高だった。




桃土器-山香荘ごはん



次の山はどうしよう。

ビールを飲みながら低山ガイドをめくり、土に続く新しい友人の登場に、胸が躍った。