「バッテリーの高性能化に伴い、劣化に気づかず、
ある日突然エンジンがかからなくなるケースが増えています」
・・・これが進化しているのか退化しているのか謎なのだが、
その「ある日」は本当になんも前触れもなくやってきた。
平日は朝昼晩の旦那さんの送り迎えに港と自宅を4往復(だいたい片道10分ほど)、
その前後に町中で買い物を済ませることが多く、土日は出たり出なかったり。
ガソリンが半分ぐらい減ったところで給油するのが、たいてい土曜日あたり。
昨日も午前中に少し買い物をする途中で港の目の前にある
行きつけのガソリンスタンドで給油した。
ここまでは何の不具合もなく、車は走っていた。
給油後、残りの買い物に出ようと発進を試みるが、エンジンがかからない。
何度試してもエンジンは「キュルキュルキュル」と
音を立てるだけで一向にかからないので若干焦る。
幸いそこはガソリンスタンド。
目の前には整備スペースもあり、日本のような
信用できるレベルではないが整備士と呼ばれる者も一応いる。
スタンドのお兄さん:「どうしたんだい?」
旦那さん:「エンジンがかからなくて」
お兄さん:「バッテリーだね、そこの整備士に見てもらった方がいいね」
いつもと様子が違う車にそこらへんにいた
カー用品の物売りなどがわらわらと寄ってくる。
旦那さん:(それらの人たちに)「車が動かなくなっちゃったから、
ちょっとそこまで車を押すのを手伝ってもらえない?」
売り子たち:「いくら払う?」
そう、ここはモザンビーク、タダのものなどないのである。
無事に移動させ、整備士がボンネットを開けてエンジンルームを見る。
整備士:「バッテリーだね。新しいの買いに行こう」
旦那さん:「え、今?ちょっと待って、いくらぐらいするの?」
整備士:「4,000MTから5,000MTぐらい(約12,000円から15,000円)だね」
そう、こちらでは整備してもらうには交換用部品やオイルなどは
すべて持参しなければならない。(その場で販売などしていない)
例えば美容院で髪を染めたかったら、染料は別の店で購入し
持参する必要があるし、水道が壊れたら蛇口は店で購入し、
別途修理工を呼ぶ必要がある。
ほぼすべてにおいて、そのような感覚で物事が成り立っている。
旦那さん:「え、お金3,500MTしかないよ。足りない・・・」
整備士:「店が閉まっちゃうから早くいかないと!」
この時点ですでに土曜日の午後12時半。
町の店はスーパーなマーケットとハイパーなマーケットを除き、1
3時で閉店となり、月曜日の朝まで開かない。
わたし:「とりあえず、有り金全部持っていって、残りは
絶対後で持ってくるからって言ってバッテリーもらっといで!!」
ここでは様々なことがフレキシブルなので、普段は
その適当さに苛立つこともあるが、こういう時は便利である。
数分後、旦那さんが戻って来た。
旦那さん:「ちょっと先の店にあったんだけど、4,500MTだっていうから、お金が足りないよ。
やっぱり大家さんに来てもらうように電話してくれない?」
わたし:「はァ!?」
ここで言い合ってもしょうがない。
大家さん:「もしもし」
わたし:「もしもし、かくかくしかじかで、港の前の
ガソリンスタンドまで来てもらえませんか?
ちなみにお金も少し貸してもらえませんか?
帰ったらすぐ返しますんで。すんません」
大家さん:「んー…分かった、今行くわね、着いたら連絡するから」
そして数分後に大家さんが来てくれた。
わたし:「本当にごめんなさい!」
大家さん:「いいわよ、でも料理してたから、あたし煙臭くない?」
(大家さんちは外キッチンで炭で調理している)
オーマイガッ!!
わたし:「いや、全然煙臭くないし、料理の途中で本当に申し訳ない!」
そして大家さんと2人でガソリンスタンドより少し先の店に到着した。
わたし:「あの、75アンペアのバッテリー欲しいんですけど」
店員:「車用?バイク用?」
わたし:「あ、車用です」
店員:「あるよ、これ」
確かに「75」という数字がバッテリーの箱に印字されていた。
整備士には70ではなく75でなきゃダメだと言われて来たので、ひと安心。
わたし:「これ、ください。いくら?」
店員:「4,000MTだよ」
わたし:「は?4,000MT??」
店員:「そう4,000MTだよ」
旦那さんに3,500MTと4,500MTの物があるが、4,500MTの
75アンペアのものを買うように指示されてきた私は困惑した。
数分前に私より遥かに流暢にポルトガル語を操る旦那さんが、
実際にこの店でこのバッテリーを確認してきたはずなのに。
わたし:「他に75アンペアで4,500MTのものはないの?」
店員:「えーっと・・・店長!ちょっと来てください」
わたし:「あの、75アンペアのバッテリーが欲しいんですけど」
店長:「車用?バイク用?」
わたし:「車用です」
店長:「車種は?」
わたし:「チャレンジャーです」
店長:「これだよ(店員が4,000MTだと行った物)」
わたし:「これいくら?」
店長:「4,500MTだよ」
わたし:「はァ?だってさっきこの店員が4,000MTって言ってましたけど?」
店長:「ん、4,500MTだよ」
わたし:「あ、そう、4,500MTなのね。じゃあこれください」
もうこの時点で12時55分をまわっており、
ガソリンスタンドの整備場は13時で閉まるために焦る。
店長:「じゃあ2時間待ってもらえますか?」
わたし:「ハァァぁ!?」
店員:「この75アンペアのものは中が空なので、充電しないと使えないんです」
わたし:「ハァァぁ!?あのねぇ、今、車が止まっちゃって、
今、必要なの、いーまァー!!」
店長:「今必要なんですね、分かりました。(その店員に)
おい、あっちの店に電話して在庫確認しろ」
店員:「(在庫確認後、店長に)一つあるって言ってます」
店長:「分かった。ちょっと取ってくるから!1分待ってて!!」
店長が息を切らしてバッテリー片手に戻って来た。
店長:「これ、これなら今すぐ使えますから!」
そのバッテリーには75ではなく「70」と印字されていた。
わたし:「だーかーらぁー、70じゃダメなの!」
店長:「75と70は同じですから!」
わたし:「はァ?整備士が70じゃなくて75じゃないとダメだって言ってんだけど!
今すぐ持って帰れないと整備場も閉まっちゃうんだけど!」
店長:「いや、でも75と70は同じですから!」
わたし:「そんなこと言って、もし動かなかったらどうしてくれんの、あんた!」
店長:「大丈夫です!動きます!神に誓って言い切れます。
私、店長なんですから!なんなら整備場まで一緒に行きますよ!」
ということで、お金はこの時点では払わずに店長を従えてガソリンスタンドに戻った。
整備士に何度も何度も確認し、この70のバッテリーでも
大丈夫だということなので、仕方なくそれと交換することにした。
整備士:「あ、じゃあキー回してください」
ブルルルルンという音と共に無事にエンジンがかかった。
店長:「ほら、かかったでしょ!だから言ったんですよ、私店長なんですからッ」
このあと無事に家に帰りついたら、どっと疲れが出た。
しかしガソリンスタンドで車が止まったことが不幸中の幸いであったとつくづく思った。
これがもし、190km離れたナンプラなどに行く途中の電気も通っていない
村落の真ん中で起こっていたらと考えると身の毛がよだつ。
