アウトサイダーアート展 その4
17時から、やっとお待ち兼ねの奈良美智さんの登場です。
奈良さんは、名古屋にあるロック&パンクショップ「GOLDEN YEARS」の黒のパーカーを着ていました。このパーカーを着ているのを、私は何度か雑誌で見たことがあるので、きっと奈良さんのお気に入りなんだと思います。
奈良さん、アーティストの田島征三さん、映像プロデューサーの代島治彦さんの「鼎談」ということでしたが、3人が向かい合うのではなく、横並びに座って、代島さんが他の2人にインタビューする形の対談でした。
並び順 → 田島さん 奈良さん 代島さん
奈良さんは、前日までイギリスの展覧会に呼ばれていて、今日、日本に帰国したばかり。滋賀県大津市まで車を運転して来る途中、スピード違反で警察に捕まってしまったんだとか。「早く、アウトサイダーアート展の会場に行かなければ!」と焦っていたそうです。
鼎談の前に、奈良さんは展示してある作品を見たとのことで、代島さんが奈良さんに「好きな作品、嫌いな作品」について聞きました。
好きな絵 → 形を具体的に描いている
物語が見て取れる
嫌いな絵 → 何が描かれてあるのか分からない抽象的なもの
小さい丸など、同じものがいっぱいある
(例:葉の裏についている虫の卵をいっぱい描いている絵)
トゲトゲした作品
私も、小さくて丸いものがたくさん並んでるのを見るのが苦手です。例えば、大仏の頭、蜂の巣、蓮の実、ホットケーキを焼く時にできる表面のブツブツ。私はこれらを見ると体調が悪くなります。
代島さんいわく、これは一種の恐怖症らしいです。家に帰って調べてみると、「集合体恐怖症」でした。奈良さんと同じ恐怖症を持っているなんて、嬉しいやら悲しいやら・・・。
ところで、奈良さんの教え子であり親友でもある杉戸洋さんの作品って、とても抽象的ですよね。奈良さんは、杉戸さんの作風をどう思っているのかな?
さて、次の奈良さんへの質問は「インサイダーアートとアウトサイダーアートの違い」です。
奈良さんの答え → 製作に熱中するとご飯を食べなくなる
・・・・???
意表をついた回答でした。
「違い」というより、「共通点」ですね、きっと。
さらに奈良さんは続けて、
僕は3人兄弟の末っ子で、長男はガソリンスタンドで働いている。次男は市役所に勤務していたが、あと数年で定年というときに、突然「農業がしたい」と言って、市役所を辞めてしまった。定年まで働けば、退職金も出るし、年金の額も多くなるのに。でも、彼にとってそんなことは重要ではなく、ただ好きな農業をしたかっただけなのだと思う。僕は、今はアートで成功したから何も言われないけど、昔は親戚の人とかに、「なんで売れないのに、いつまでも絵を描いてるの?」と言われたことがある。好きだからやっている、ということを理解してもらえなかった。
・・・・???
私が解釈するに、
生活のために働いている長男 = アーティストを職業にしている人
(インサイダーアーティスト)
好きな事をして生きている次男 = 金や地位や名誉と無関係のアーティスト
(アウトサイダーアーティスト)
ということを、奈良さんはおっしゃりたかったのでしょうか?
同じ質問を、代島さんが田島さんにしたところ、
「ボーっとしていて、話を聞いていなかった。えっ?何?兄弟の違い?僕は一卵性双生児で、そっくりな兄弟がいて・・・(以下、双子の話が続く・・・)」
田島さん(70歳)は、すっとぼけたじーちゃんという感じで、とっても面白いんですが、インタビュアーの代島さんは大変だったろうな、と思います。会話のキャッチボールが円滑にできないから。
奈良さんは、代島さんが投げた直球の質問をきっちり受け取るのだけど、暴投気味あるいは魔球で代島さんに返す感じ。代島さんは必死で暴投球(魔球)を取るときもあるし、取るのをあきらめて見送るときもある。
田島さんは、代島さんが投げた直球を、ひょいっとよけて受け取らない。気がつくと田島さんの足元に、代島さんが投げたボールがゴロゴロ転がっている感じ。
田島さんが、いかに自分と双子の兄弟が似ているかという話をしている時に、代島さんが「そういえば、お二人とも同じ職業(アーティスト、絵本作家)ですよね。作風はずいぶん違うけど」と言ったんです。
代島さんのおっしゃるとおり、二人の作風は全く違うのだけど、田島さんいわく
「いや、そんなことない。二人の絵を近くで見たら似ていないかもしれないけど、遠くから見たら似ている」
とのこと。
遠くから見たらって・・・。
代島さん、苦笑してました。っていうか、苦笑するしかない感じ?
アーティストの方に、私たち一般人が期待するような回答を求めてはいけないんだということを、鼎談が始まってすぐ、私は悟りました。