低線量被ばくと発がんとの関連性, ① | NEW BLANK DOCUMENT

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約4年間の休眠から復帰するための私的小ネタ集: clinical pearls. + 旅の記録

金町浄水場で放射性物質…乳児には飲ませないで

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110323-OYT1T00598.htm

東京都は23日、都内に水道水を供給する金町浄水場(東京都葛飾区)から、乳児が飲む暫定規制値の2倍を超える放射性ヨウ素131を検出したと発表した。(中略)

都によると、同浄水場で22日午前9時に採水し調べたところ、1キロ・グラム当たり210ベクレルの放射性ヨウ素を検出した。食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定規制値は100ベクレル。23日午前9時の採水では190ベクレルだった。一般の規制値300ベクレルは超えておらず、成人の飲用等には問題がない。

ベクレルという単位が良く出てきますが、1ベクレルというのは1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量を指します。

210ベクレルだと、一秒間に放射性ヨウ素が210個崩壊して放射能を出す量です。

それを摂取した時の内部被ばく量が最も問題となると思いますが、シーベルトへの換算には係数が必要です。
以下のホームページで換算係数は参照することができます。

http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html


I-131は、経口摂取で2.2×10-8 SV/Bq、吸入で7.4×10-9 SV/Bqです。

Cs-137は、経口摂取で1.3×10-8 SV/Bq、吸入で 3.9×10-8 SV/Bqとなります。

例えば水道水から放射性ヨウ素(仮にすべてI-131とします)、210ベクレル/Kgを検出した今回の場合、一日1Lの水を飲みますと、210×2.2×10-8 SVですから、
4.41 μSV被ばくすることになります。
それを一年間続けますと、1.6 mSVの被ばくとなります。

急性放射線症(Acute Radiation Syndrome)は一度に大量の被ばくをした場合に生じますが、今回のような原発事故の場合、低線量被ばく(Low level radiation exposure)による将来の発がんのリスクが気になります。

まずは一般論として、低線量被ばくがどのように癌発生リスクと関与しているか、簡単なレビューを紹介します。

注:読んでみて思ったのですが、低線量被ばくでは癌発生には関与しないとした、やや偏ったレビューをしている可能性があります。せっかくなので紹介しますが、もう少し公平性の保ったレビューがないか後日探してみます。

また今回のような内部被ばくとは別に考える必要がありますのでご注意ください。

Cancer Risk from Low-Level Radiation.
American Journal of Roentgenology 2002;179:1137-1143

・どれほど小さな被ばくでも発がんのリスクはゼロにはならず、被ばく線量に比例して癌発生リスクは上昇するという、Linear no-threshold theory (LNT)がある。

・しかし、10 rad以下(1 Gy = 100 rad, つまり10 rad = 0.1 Gy = 0.1 SV = 10 rem)の被ばくはリスクは無視できるほど小さいとされている。

Health Physics Society. Radiation risk in perspective:position statement of the Health Physics Society(adopted January 1996).
Health PhysicsSociety directory and handbook, 1998–1999.McLean, VA:Health Physics Society,1998:238

・LNTの基礎となっている理論は、放射線が一つのDNAでも破壊した場合、癌化が可能性としてありうるということである。つまり被ばく線量に応じてDNAの障害も均一に上昇しリスクも同様に上がるということである。
・このLNTには体内の癌化を防ぐ防御機構、すなわちDNAの修復、アポトーシス、免疫による影響などは考慮されていない。
・DNAへのダメージ、修復は通常でも起きており数兆の細胞で一日に100万回生じ、そのうち1つの変異が長期の変異として修復されずに残る。0.1 SVの被ばくでは長期の変異は非常にわずかにしか起こらない。
・低線量被ばく後に生体は被ばくに対する適応反応を生じる。
・被ばく後生体は染色体異常を修復する酵素の増加、DNA塩基の修復、免疫の活性化などが生じるが、一定量を越えると免疫反応は減少する。

・Fig. 1は日本の原爆の生存者における固形がん発生と被ばく線量の関係。
1 cSV = 10 mSV

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・Fig. 2は日本の原爆の生存者における白血病発生と被ばく線量の関係。

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Studies of the mortality of atomic bomb survivors, report 12. 1. Cancer: 1950–1990.
Radiat Res 1996;146:1–27

・Table 3はアメリカ、イギリス、カナダにおける95,673名の放射線業務従事者の被ばくを調べた研究における、白血病死亡と被ばく線量の関係。

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Effects of low doses and low dose rates of external ionizing radiation: cancer mortality among nuclear industry workers in three countries.
Radiat Res1995;142:117–132

・Fig. 3はカナダにおける結核でのX線透視検査を受けた女性の乳癌での死亡と被ばく線量の関係。

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Mortality from breast cancer after irradiation during fluoroscopic examinations in patients being treated for tuberculosis.
N Engl J Med1989;321:1285–1289

・Fig. 4はカナダにおける結核でのX線透視検査を受けた女性の肺がんと被ばく線量との関係、マサチューセッツにおける結核患者において放射線被ばくと癌死亡率を検討したコホート試験の結果。

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Lung cancer mortality between 1950 and 1987 after exposure to fractionated moderate dose -rate ionizing radiation in the Canadian fluoroscopy cohort study and a comparison with lung cancer mortality in the atomic bomb survivors study.
Radiat Res1995;142:295–30427.

Cancer mortality in a radiation-exposed cohort of Massachusetts tuberculosis patients.
Cancer Res1989;49:6130–6136

・これらにおいて何れも低線量の被ばくにおいて癌発生に明らかなリスク上昇を認めていない。

注:日本の原爆の生存者における固形がん発生と被ばく線量の関係については、原著において明らかなしきい線量(これ以下ならば癌発生リスクはないとする線量)は認められていないことをご留意ください。

次はチェルノブイリ原発事故を振り返り、事故後20年でどのようなことが起きているのか見ていきたいと思います。

☆追記☆

日本医学放射線学会より、
妊娠されている方、子どもを持つご家族の方へ-水道水の健康影響について-(2011/3/24)
http://www.radiology.jp/modules/news/article.php?storyid=912

以下コピーペーストしておきます。

妊娠されている方、子どもを持つご家族の方へ

日本医学放射線学会理事長 杉村 和朗
放射線防護委員会委員長 中村 仁信
同委員 大野 和子

妊娠されている方、子どもを持つご家族の方へ水道水の健康影響について福島原発の事故以来、原発周辺地域にお住まいの皆様は、本当に大変な日々をお過ごしだと思います。特に、妊娠中や乳幼児を抱えるご家族の方のご心配は、察するにあまりあります。

3月23日に、東京都水道局は、一部地域では放射性物質の量が基準値をこえたとして、乳児のミルクには、水道水を使わないことを推奨しました。東京都民など遠方のかたにも、ご不安に感じられるような報道が続いています。皆様へ放射線の影響について、正確にお伝えし、不要な不安に陥ることがないように、特に、妊婦の方には安心して妊娠を継続していただくことが重要だと考えています。

また、水道水以外、他にお水を買えないからといって、不安に陥ることも、お母さんが自分を責める必要もありません。今回の濃度上昇は一時的なものです。必ず下がります。今は日本全体が大変なときです。

以下のQAを落ち着いてお読みください。そして、また、震災の被害を受けても頑張っている方々を応援し、支えていきましょう。                     

Q1) 妊婦が乳児の基準を超える放射線量を含む水を飲んだ場合は、おなかの子には影響はでないのでしょうか。また、選べるとしたらどのような水を飲むように気をつければよいでしょうか。

A1) 3月23日に、東京都水道局が発表した、放射性物質の濃度の水を、お母さんが飲んでも、お腹のお子さんへの健康影響はありません。安心して、今まで通りにしてください。現在、いろいろな数値や情報が流れています。みなさん方が不要な不安に陥らないことを、願っています。

(補足説明) 水道水の中に含まれている放射性物質の量を、行政は、継続して確認しています。一時的に、通常よりは数値が高くなったので、発表し、今後の経過に注意するように呼びかけたのです。
水道水に関する基準は、放射線が検出された水だけを、毎日一年間飲み続けると仮定し、それでも、心配する必要がない濃度を、基準値として設定しています。とても厳しい値です。ですから、この基準値を超えたら危険という数値ではありません。
なお、通常PETボトル等で流通している水については、放射性物質の濃度を、国際的に定めています。どのような用途にも使えるように、との配慮だと思いますが、今回問題となっている乳児への基準値と同じ値です。

Q2) 母乳のお母さんは乳児の基準を超える放射線量を含む水を飲んでも、母乳は大丈夫なのでしょうか。また、選べるとしたらどのような水を飲むように気をつければよいでしょうか。

A2) お母さんが飲む水に、今回のような、ごく僅かな量の放射性物質が含まれていたとしても、母乳には、それよりも、さらに少しの量が含まれるだけです。現在のように、大人に適用している基準値以下の場合に、乳児の基準値を超えることはありません。従って、その他の水を探す必要もありません。

Q3) 水の煮沸、ろか、長期間の保存で放射線量は減るのでしょうか。減るとした場合、どの程度減るのでしょうか。あるいはそもそも水の放射線量を減らす方法はあるのでしょうか。

A3) 放射性物質は、いつまでも放射線を出し続けるわけではありません。放射性物質から出る放射線の量は、時間とともに少なくなります。水道水に含まれていたヨウ素は、8日程度立てば、放射線量は半分になります。どうしても気になる方は、一晩汲み置いて使うだけでも放射線量は減ります。

(補足説明)浄水装置などでヨウ素除去をうたっている物もありますが、どの程度の性能かが判りません。あえて紹介することは避けました。また、水に雑菌が入る可能性もありますから、くみ置きした水道水を一週間も放置することは避けてください。

Q4) 基準を超える水を料理に使用して料理を乳児に与えることは、問題ないでしょうか。また、何歳から大丈夫なのでしょうか。

A4) 今回問題となった基準値は、赤ちゃん向けの、ミルクを調製すために用いる水を対象としたものです。非常に厳しい数値で、水道水の値がこれを超えたからといって、お子さんの調理だけ別のお水にする必要はありません。お子さんの健康に影響が及ぶことはありません。
東京都が用いた、暫定基準は、http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/03/20l3nf00.htm
食品衛生法に基づく暫定値です。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015ox9-img/2r98520000015oyx.pdf
またミルクを主に飲んでいる離乳前のお子さんが対象です。一歳未満のお子さんのことではありません。

放射線防護専門医からのコメント:

現在東京都では、乳児のミルクには、水道水を使わないことを推奨しています。しかし、他のお水を買えないからといって、不安に陥ることも、お母さんが自分を責める必要もありません。

今回の濃度上昇は一時的なものです。必ず下がります。今は日本全体が大変なときです。落ち着いて、また、明日からは福島で頑張っている方々を応援し、支えていきましょう。